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95 【闇】と【光】の神話

『我のことは好きに呼ぶがいい。『闇の化身』『魔王の中の魔王』『暗黒の神』『奈落(ならく)』……様々な世界で、様々な呼ばれ方をしてきた』


 そいつが語る。


『奈落』――か。


 そいつの漆黒の表面を見ていると、魂まで吸い寄せられるような深淵をのぞき込んでいるような気分になる。


 言いえて妙だ、奈落――。


「じゃあ、仮に『奈落』と呼ばせてもらうよ」


 僕は超巨大な黒球――『奈落』を見据えた。


「僕に、なんの用だ」

『これを見よ』


『奈落』の声とともに、目の前の景色が切り替わった。


 僕はどこかの建物の中で浮かんでいるようだ。


 実体はない。


 意識だけの存在となってフワフワと天井付近に漂っている。


(なんだ、これは……?)


 眼下には、無数の円筒形カプセルが林立している。


 カプセル一つにつき一人が入っており、年齢も性別もバラバラな彼らはいずれも悲鳴を上げていた。


 ――実験を開始する。


 冷淡な声とともに、カプセル内に黒い霧が充満した。


 悲鳴をともに、被験者たちの体が崩れていく。


 やがてカプセルを破って飛び出したのは、いずれも異形の怪物たちだった。


『かつて、この世界に存在した超古代文明による魔王の製造過程だ』


『奈落』が説明した。


(魔王の……製造……)


 僕自身も『人造の魔王』と呼ばれている。


 それは超古代から、こうして行われたことなのか。


 と、そのとき天井の一部が砕け、そこからまぶしい光が差し込んできた。


 空が見える。


(あれは――)


 その空を埋め尽くすように、背に翼をもった白い軍勢が浮かんでいた。


 まるで、天使のようだ。


『あれは『天使(スピリット)』。【光】を統べる王――『涅槃(ねはん)』の軍勢』


『奈落』が語る。


『超古代から今に至るまで……【闇】と【光】の勢力は幾度となく戦ってきたのだ――』


 僕はゾクリと戦慄した。


 光と闇の争い――僕が体験しているのも、その一つになるのだろうか、と。


 こうっ……!


 天使たちからいっせいに極大の閃光が放たれた。


 無数の光線が地面を走り、建物を吹き飛ばしていく。


 生まれたばかりの魔王たちは苦鳴を上げながら地表に出る。


 そして、戦いが始まった。


 人造魔王の軍勢と天使の軍勢。


 両者の戦いは、凄惨そのものだった。


 無数の肉片と臓器がぶちまけられ、体液と鮮血の雨が降り注ぐ。


『この戦いの先は――お前たちの時代に続いている』


『奈落』が語った。


『これこそがお前の父、メルディア王の目指す舞台だ』


(父は……魔王の軍勢をそろえようとしている? そして天使に挑もうと?)


『大方、新たな神にでもなろうというのだろう。太古から権力者の考えることは変わらぬ』


 と、『奈落』。


『お前も、その実験体の一つだ。実の我が子でさえ、己の野望のための生贄にするとは……人間は、いつの時代も変わらんな』


(僕を処刑して、人造の魔王に変えた……あの人にとって、僕は単なる道具――)


 あらためて悟った。


 父にとって、僕はその程度の存在でしかなかったことを。


『だが、お前にとって必ずしも悪いことばかりでもあるまい』


『奈落』が言った。


 その声には、どこか不思議な優しさがこもっているような気がした。


 まるで『奈落』こそが、僕の父であるかのような――。


『引き換えにお前は絶大な力を得た。お前は……かつてのお前よりも、自身の望むことを叶えられるだけの強さを持っている』


 確かに、そうだ。


 僕の魔眼の力、そしてクレストとしての戦闘能力。


 これらがあるから、僕は大切な人を守るために戦える。


『お前は今、真の魔王への階段を上っている最中といえよう。さらなる力を手に入れ、真なる魔王となることを望むか?』


 奈落が問いかける。


「僕は――」


 真なる魔王、か。


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