93 復讐の槍、復讐の聖女
「まだよ……たとえ命を削ってでも、私は――」
ミリムは血走った目で僕らをにらみつけた。
「【ミラージュシフト】!」
ふたたぼミリムの分身が現れた。
十体、二十体、三十体……。
「ぐっ……げぼぉっ……」
分身が増えるたびにミリムは嘔吐し、さらに血まで吐き出す。
命を削るという言葉に嘘はなさそうだった。
「なら、もう一度あたしが――」
「駄目です、フラメル」
分身を妨害しようとした彼女を、僕は制止した。
「ここから先は僕がやります。フラメルはこれ以上、力を使わないでください」
「でも――」
「僕が、あなたを守ります」
彼女をまっすぐに見つめる。
「愛し合ってるのねぇ! だからこそ、ぐちゃぐちゃにしてやりたいわ!」
ミリムが叫んだ。
「数で押し潰してやる!」
生み出された分身は総勢――百体。
それらがいっせいに襲い掛かった。
逃げ場はない。
いや、たとえ避けたところで背後のフラメルは串刺しにされる――。
「消えろ」
僕は冷淡に、淡々と、それだけを告げた。
心の奥底が冷えていく。
ミリムと分身たちを人間ではなく、単なる障害物として認識。
それを除去するために最適の攻撃を選択。
僕は、まるで作業のような感覚で剣を振り上げた。
「はあっ!」
気合い一閃、斬撃を繰り出す。
ごおおおおおおおおおおおおっ!
剣圧が暴風となって吹き荒れた。
ばちゅっ、ぐちゃっ、びちぃっ……!
破壊音と破裂音が連鎖する。
ミリムの分身たちは、僕の剣圧に触れたとたんバラバラになり、肉も内臓もまとめて切り裂かれた。
無数の肉片になり、ばちゃばちゃと地面に降り注いでいく。
「な……っ!?」
本体のミリムが立ち尽くした。
百の分身は一瞬にして全滅していた。
「嘘……でしょ……?」
震える声。
「終わりだ」
僕は降り注ぐ血の雨で黒い鎧を赤く染めながら、本体に向かって歩いていく。
――視界が暗転したのは、そのときだった。
「っ……!」
体中から力が抜け、僕はその場に膝をついた。
「はあ、はあ、はあ……これ……は……」
まずい、とうとう限界が来たのか……!?
寄りによってこの状況で。
フラメルを守らなきゃいけない、この状況で……!
「やっと体力と魔力が切れた? ふう、危なかったわね」
ミリムの口元に笑みが浮かんだ。
「形勢逆転よ、皇子様」
「くっ……」
ミリムは槍を携え、僕とは別の方向に歩いていく。
「……!?」
そう、フラメルの方に。
「知ってる? 本当の絶望っていうのはね、自分が死ぬことじゃないの」
ミリムが槍を掲げた。
「自分にとって愛しい愛しい相手の死――その悲しみを、喪失感を、絶望を……! あなたにも味わせてあげるわ!」
「させ……るか……っ!」
僕は動かない体で無理矢理立ち上がり、駆けた。
よろよろとした動きながらも、かろうじて間に合う。
ざしゅっ!
フラメルめがけて振り下ろされた槍が僕の脇腹をえぐった。
「クレストくん!?」
フラメルが悲鳴を上げる。
痛い。
激痛だ。
けれど、フラメルを守ることができた――。
「あら、まだ動けるのね?」
ミリムは感心したようにつぶやき、槍の穂先をねじった。
「ぐあああああああああ……っ!」
脇腹に焼けるような痛みが走り、僕は耐えきれずに叫ぶ。
「やめて! あたしの大切な人を傷つけないで!」
フラメルが嗚咽した。
「大切な人?」
ミリムの表情から笑みが消えた。
「よく言えるわね……あなたたちの国の兵士は、私の村を襲った。愛しい恋人を殺し、私も……言葉にできないほどひどい目に遭ったわ。私たちはただ、静かに……幸せに暮らしかっただけなのに、あなたたちがすべてを壊した……!」
ミリムは僕の脇腹から槍を引き抜いた。
「だから、これは私の正義よ。奪われたから、奪い返す――ただそれだけのこと」
「奪ったというなら――」
フラメルが血走った目でミリムをにらむ。
「あなたたちだって、あたしの大切な仲間を奪った! 大事な戦友たちを……かけがえのない何人もの友を――!」
僕が見たことのない、彼女の剥き出しの憎悪の目――。
フラメルは、こんな表情もするのか。
僕は戦慄した。
「なら、立場は同じね。どちらが最後に奪うのか……そう、命を奪うのか」
ミリムはふたたび槍を掲げた。
僕は脇腹の傷でどこまで動けるかも分からない。
フラメルも魔力が尽きているだろうし、立ち向かうのは難しいだろう。
どうする――?
絶体絶命の中で思考が目まぐるしく巡る。
「さあ、奪ってやるわ! これが私の正義の槍よ!」
ミリムの槍が一直線に突き出される――。
がぎいいいん!
硬質な金属音が轟いた。
「えっ……?」
驚きの声は僕とフラメルとミリム、全員の口から同時にもれる。
死の刃は、僕たちの目前で止まっていた。
割って入った白銀の女騎士が、その剣でミリムの槍を受け止めていたのだ。
「ブリュンヒルデ……!?」
僕は呆然とその女騎士を見つめた。
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