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91 【七騎槍】討伐2

 僕は必死で戦場を駆け抜けた。


 立ちはだかる王国兵は片っ端から斬り捨て、先へ、先へ――。


 そして――ようやく、フラメルがいるはずの場所にたどり着いた。


「フラメル……?」


 僕は呆然とつぶやく。


 彼女は、血まみれで地面に倒れていた。


 白い戦闘服が赤黒く染まり、その体はピクリとも動かない。


「フラメル……」

「お? 噂の【黒騎士】さんかい?」


 彼女の傍らには、巨大な槍を肩に担いだ巨漢が立っていた。


 身長は2メートルを優に超えているだろう、筋骨隆々とした全身を重厚な鎧で覆っている。


「俺は【七騎槍】の一人、【金剛槍(ダイヤモンドランス)】のガルドーバ。帝国の聖女様は、この俺が仕留めさせてもらったぜ」

「お前……」


 僕は馬から降りた。


 ずきん、ずきん……。


 頭がひどく痛む。


 怒りと絶望で視界が歪む。


 けれど、そんなことはどうでもよかった。


「お前ぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 僕は絶叫と共にガルドーバに跳びかかった。


 魔眼の反動で体がふらつくが、そんなことは関係ない。


 ただ、目の前の敵を殺す。


 殺して、救う。


 僕の大切な女性を――。


「ガルドーバ様はやらせん!」


 王国兵たちが盾を構えて割り込んできた。


 ガルドーバの部下たちだろう。


「邪魔だ!」


 僕は剣を振るい、盾ごと兵士を両断した。


「こ、こいつ――」

「ええい、ひるむな!」

「止まれ! 止まれぇっ!」


 次々と立ちはだかる兵士たちを、


「――どけ」


 僕はただの障害物として斬り捨てていく。


 五人、十人、十五人――。


 血肉の道を作りながら、僕はガルドーバに近づいていく。


「やめろぉぉぉぉっ!」


 ガルドーバが絶叫した。


 涙を流しながら僕をにらみつける。


「お前らは下がっていろ! もし俺がやられたら、すぐに逃げろ!」

「しかし、ガルドーバ様!」

「いいから行け! これは隊長命令だ!」


 ガルドーバは部下たちを突き放すように叫んだ。


「部下を守るのが俺の仕事だ!」

「……お前に大切な者たちがいるように、僕にはその女性が誰よりも大切だ」


 僕は冷然と言い放ち、剣の切っ先をガルドーバに向ける。


 血に濡れた刀身が、鈍い光を放っていた。


「なら、戦うしかないだろう」


 ガルドーバが巨大な槍を構え直す。


「大切な者を守るために、立ちはだかる者を殺す。殺し続ける――それが」


 ざんっ!


 僕はガルドーバの言葉を最後まで聞かずに踏み込んだ。


 繰り出した斬撃がガルドーバの槍を両断し、そのまま彼の右腕を肩口から斬り落とす。


「ぐああっ……」

「お前の言う通り、それが戦場だ」


 とどめを刺すために剣を振りかぶった。


「ガルドーバ様!」

「させん!」


 逃げろと言われたはずの部下たちが、僕とガルドーバの間に割り込んできた。


 武器も構えず、ただ己の身を盾にするように。


「お前ら、やめろ!」


 右腕の切断面を押さえながらガルドーバが叫ぶ。


 けれど、兵士たちは引かない。


「ガルドーバ様は王国になくてはならぬ方……我らに構わず、あなた様こそお逃げ下さい!」

「ここは我らが食い止めます!」

「我らにも兵としての意地がございます!」


 その姿は、かつて僕がウェインガイルと戦った時に見た光景と重なった。


 部下に慕われる将。


 そのために命を懸ける兵士たち。


 美しい主従関係だ。


「だったら――その意地ごと薙ぎ払う」


 僕の全身から、黒いオーラにも似た威圧感が滲み出した。


 それは、僕の中に眠る『魔王の力』の片鱗。


 頭痛がさらにひどくなる。


「皆殺しだ」


 僕は人間の盾となった兵士たちに、何の躊躇もなく剣を振り下ろした。


 ざしゅっ。


 肉を断つ生々しい感触。


 ざんっ。


 骨を断つ硬い感触。


 普段ならある程度の嫌悪感があるけれど、今は何も感じなかった。


 一人ひとり、盾ごと両断していく。


「ひ、ひるむな!」

「我らが盾となれ!」


 それでも彼らは逃げなかった。


 次々と僕の前に立ちはだかり、その命を散らしていく。




 ぷつり、と。




 その時は突然訪れた。


 まるで糸が切れたかのように、僕の全身から力が抜けていく。


「こ……れ……は……!?」


 崩れ落ちそうになるのを必死で踏ん張る。


 体に力が入らない。


 まさか、もう限界が訪れたのか……!?


「くっ、以前よりも限界が早まっている――?」


 まずいぞ。


 このままではフラメルを守ることさえできず、奴らに逆襲を受ける。


「な、なんだ……!?」

「こいつ、急に――?」


 兵士たちが戸惑った様子を見せた。


「そ、そうか、報告で聞いているぞ。【黒騎士】は消耗の激しい異能を使っている、と」


 ガルドーバがニヤリとする。


「限界が訪れた、ということだな」


 左手に槍を持ち替え、近づいてくる。


「まだだ……!」


 僕はひるまない。


 視線の先にはガルドーバと、そして地面に倒れたフラメル。


「絶対に、守る――」


 体に、さらなる力が宿った。


 力が抜けていく一方で、新たな力がそれを圧するように沸いてくる。


「う、ああああああ……っ」


 無理矢理に立ち上がる。


 両足の踏ん張りがきかない。

 両手に力が入らない。


 まるで自分の体じゃないような不気味な感覚。


 なのに――体そのものは軽快に動く。


 なら、それでいい。


 フラメルを守ることができるなら、どんな力だって借りてやる。


「お前たちを殺し尽くすまで……!」


 僕は地を蹴り、走り出した。


 残りの兵士たちを次々に斬り倒していく。


 さらに、そのままの勢いでガルドーバに迫った。


「き、貴様……!?」

「くっ……」


 視界が歪む。


 消えそうになる意識を僕は無理矢理につなぎとめていた。


「フラメルを守り抜くために!」


 失われていく力を補うように、僕の奥底からは次々とドス黒い衝動が吹き上がる。


 自分が人間から魔王に置き換わっていくような錯覚さえあった。


 でも、かまわない。


 愛おしい彼女を守るための力を授けてくれるなら、相手が神だろうと魔王だろうと知ったことじゃない。


 今必要なのは、純粋な力なんだ。


「あああああああああああああああああああああああああああああああっ……!」


 絶叫とともに、僕は前進する。


 ざんっ!


 すれ違いざま、ガルドーバの首を刎ね飛ばした。

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敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。


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