90 【七騎槍】討伐1
「俺は【白銀槍】のリグ! そこにいるのは名高い【黒騎士】か! いざ尋常に勝負――」
次に現れた【七騎槍】は精悍な顔立ちの青年だった。
繰り出された槍を、僕は紙一重で見切る。
そしてカウンターの一閃を叩きこんだ。
「がはっ……」
短い苦鳴とともにリグは馬上から崩れ落ち、動かなくなった。
これで二人目撃破――。
と、その瞬間だった。
「っ……!?」
背筋にゾクリとした悪寒が走る。
「フラメル――?」
【鑑定の魔眼】を通じて、彼女が追い詰められている気配とかすかな悲鳴が伝わってきた。
これだけの乱戦だと正確に情報を解析できないけど、たぶん強敵――おそらく【七騎槍】の誰かだろう――に苦戦しているようだ。
「くっ……!」
僕は馬を全力で駆った。
フラメルの持ち場である後方に向かい、帝国軍と王国軍が入り乱れる戦場をひたすらに突き進む。
「邪魔だ!」
立ち塞がる王国兵を容赦なく斬り捨てながら、さらに加速した。
刻一刻と、焦りが募る。
「もっと速く、もっと……!」
半ば祈るように馬を駆ける。
と――、
「あらあら、噂の【黒騎士】様ね?」
前方に新たな敵の一団が現れた。
数十人の兵を率いた敵将。
「随分とお急ぎのようですが、ここから先は行き止まりですわ」
馬上から優雅に微笑んでいるのは、赤と金の二色の髪を長く伸ばした妖艶な美女だった。
鎧の上からでも分かる豊満な体つきをしている。
「あたしは【七騎槍】の一人、【|青銅槍】のロザーナと申します。お見知りおきを」
「悪いが、構っている時間はない」
「まあ、つれないことを。もう少しお話しませんこと?」
ロザーナはクスクスと笑いながら、ぱちんと指を鳴らす。
「囲みなさい」
指示とともに、彼女の周囲の兵たちが一糸乱れぬ動きで陣形を組んだ。
僕の四方を完全に塞いでいる。
全員が盾を前面に押し出した防御陣形。
あからさまな足止めだ。
「――どけ」
けれど、こんなところで立ち止まっている場合じゃない。
僕は馬を駆けさせた。
「【テイム】」
と、ロザーナが魔法を発動した。
この魔法は、確か――。
「くっ!?」
次の瞬間、馬の動きが止まった。
「どうした? 早く走ってくれ!」
僕は馬に問いかけるが、反応はない。
胴の辺りを軽く蹴ってみても同じだ。
走ろうとしてくれない――。
「ふふ、いくら無敵の【黒騎士】様でも、馬が言うことを聞かなければどうにもなりませんね。それとも徒歩で進みますか?」
ロザーナがクスクスと笑う。
「【テイム】の魔法で馬を操っているのか」
「ええ。私が習得している魔法は【テイム】のみですが――戦場においては、こういう使い方もできるのですよ」
ロザーナはそう言って槍を構えた。
「最強戦力であるあなたをここで足止めしておけば、後は他の【七騎槍】たちが帝国軍を蹴散らしてくれるでしょう」
「……どけ」
僕は低い声でうなった。
ロザーナをにらむ。
周囲の兵たちをにらむ。
「どけぇぇぇぇぇぇぇっ!」
そして怒声とともに発動した。
ぴしり、ぴしり。
同時に兵たちがいっせいに石化し、砕けていく。
「なっ!? これは――」
【石化の魔眼】。
一撃必殺の威力を有する代わりに、体への負担が大きい。
けれど、そんなことを気にしている場合じゃない。
一刻も早くフラメルのところに行かなければならない。
そのためには足止めなんてされてる場合じゃない。
「術者である君を殺せば【テイム】は解ける――そうだよな?」
僕はロザーナを見据えた。
ぴしりっ。
即座に石と化し、砕け散るロザーナ。
「ふうっ……」
強烈な脱力感を覚え、僕は崩れ落ちそうになった。
馬上から落ちそうになったところで、なんとか踏ん張る。
「ぐっ……!?」
さらに激しい頭痛が襲ってくる。
視界がぐらつき、立っているのも辛い。
「はあ、はあ……い、今までより反動が大きい……!?」
戸惑ったところで、僕はハッと気づいた。
「いや、違う――」
以前、自分自身を【鑑定】したとき、僕の『耐久』が低下していたことを思い出す。
「そういうことか……」
魔眼の力は強力だけど、その代償は確実に僕の肉体と精神を蝕む。
【魔眼】を乱用すれば、以前よりも大きなダメージを受けることになる。
下手をすれば、暴走だってあり得る。
「それでも……!」
僕は痛む頭を押さえ、ふらつく体を叱咤してふたたび馬を走らせた。
愛しい女性を守るためなら、この程度の反動はくれてやる。
「フラメル! 今、行きます――!」
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