89 最後の難所、要塞都市ビランジェ3
――その時、嫌な予感が走り抜けた。
僕は慌てて敵陣に【鑑定の魔眼】を向ける。
異様な雰囲気が敵陣内に漂っている。
まだ何か策があるのか……!?
怪訝に思った次の瞬間、僕はハッと顔をこわばらせた。
ナナハの周囲に七つの強大な威圧感が生まれている。
「七つの威圧感――そうか」
彼女には【七騎槍】という精鋭中の精鋭である七人の腹心がいるのだ。
僕がメルディア王国の王子アレスだったころ、その噂はさんざん聞かされてきた。
その最強の手駒たちをいっせいに動かす気か――?
「フラメル、【七騎槍】が来ます。もう一度、魔法攻撃を!」
僕は彼女に言った。
「攻撃地点は別途、僕が指示します。まずは詠唱準備に移らせてください」
「了解よ」
と、フラメルが今までと同じ要領で魔法師団に僕の指示を伝える。
その間に僕は【鑑定の魔眼】で【七騎槍】の進行ルートを先読みし、攻撃地点をフラメル経由で魔法師団に伝えた。
ごおおおおおおおおおっ!
次の瞬間、後方に控えている魔法師団が、いったん温存した魔力でふたたび攻撃魔法を一斉に放つ。
炎、雷、風の刃。
それらが僕の指示した通りの地点に次々と着弾した。
ちょうどこちらに向かってくる【七騎槍】に直撃したはずだ――。
「何っ……!?」
けれど、それらの弾幕をものともせずに、七つの影が突き進む。
「攻撃魔法は効果が薄いか――」
僕は【鑑定の魔眼】で彼らの動きを捕捉する。
【七騎槍】はいずれも降り注ぐ攻撃魔法の雨を、いとも簡単にすり抜けていく。
単純に回避能力が高いだけじゃない。
あの七人は全員が高い防御魔法能力を持っているため、遠距離からの攻撃魔法だけで仕留めるのは極めて困難だ。
そして、近接戦闘においても超一流の実力を誇る厄介な相手だった。
僕がアレスだったころは、彼らを頼もしい王国の守護神のように感じていたけど、いざ敵に回ると厄介この上ない。
「それでも――撃ち破るしかないんだ」
僕は自ら前に出て、彼らを迎撃する態勢を取った。
【七騎槍】はいずれも剣や槍の達人だ。
いたずらに兵を差し向けても犠牲が増えるだけだろう。
ここは――僕がやるしかない。
あとは、リゼッタ先生にも助力を頼んで――と考えた、そのときだった。
「……!?」
突然、彼らは七方向に分かれて進行を始めた。
てっきり七人で僕を一斉に殺しに来るかと思ったけど――。
「逆の手で来たか」
僕を徹底的に避け、七方向からこちらの陣を切り裂く。
それが彼らの狙いであり、ナナハの立てた策のようだ。
「……一番やられたくないことをやってくる。さすがナナハだ」
僕は唇をかんだ。
「あたしが自陣全体に補助魔法をかけるね。とにかく兵士たちの基本能力を魔法で底上げしないと――」
と、フラメル。
【七騎槍】がいずれも単騎で戦況に影響を与えられるほどの戦闘能力を持っていることは、彼女にも伝えてある。
「……フラメルはいったん、本陣の奥に戻ってください」
「クレストくんは?」
「【七騎槍】を順番に討伐します。リゼッタ先生にも【七騎槍】対応をお願いしたいので連絡しておいてください」
「じゃあ、その前に君に補助魔法を――」
「いりません」
僕はフラメルに言った。
「その分はリゼッタ先生と兵たちに回してください」
「えっ、でも――」
「僕に使う分の魔力も、他の味方全員を補助する分に残しておいてほしいんです。【七騎槍】は強敵ですから」
僕は微笑んだ。
「君は補助なしになるんだよ?」
「フラメルだって、僕の強さは知っているでしょう?」
悪戯っぽく笑う僕。
「僕を信じて、フラメル」
と、彼女を見つめる。
「……分かった」
フラメルはうなずき、真剣な表情で僕を見つめた。
「死んだら許さないからね」
「怖いですね……努力します」
言って僕は馬を駆り、前進した。
まず一番近くにいる【七騎槍】から――順番に倒すんだ。
僕は【鑑定の魔眼】で七人の動きを読むことだけに注視した。
相手の動きを先読みできると言っても、僕の頭の中で処理できる情報量には限度がある。
彼ら七人の動きを読みつつ、ナナハの指揮する本隊の動きまですべてを見切り、解析するのはさすがに無理だった。
とりあえずは、強敵である【七騎槍】の頭数を減らしていく。
僕以外だと単騎で【七騎槍】に対抗できるのはリゼッタ先生くらいだろう。
散開した七人を相手に、こちらは二人――とにかくやるしかない。
ナナハの本隊攻略はその後でもどうにかなるはずだ。
「――あれか」
僕は馬で駆けながら前方にいる一人の騎士を見据えた。
長い黒髪をなびかせた美しい少年騎士。
馬上から振るう槍が、帝国兵を次々の貫き、殺していく。
「そこまでだ!」
叫びながら、僕は馬を加速させた。
「――帝国の【黒騎士】! クレストか!」
彼がこちらを向いた。
「我が名は【七騎槍】の一人、【鋼鉄槍】のレストーニ! いざ尋常に勝負――」
「悪いけど、時間をかけられないんだ」
ざんっ!
僕はすれ違いざま、レストーニとやらを横薙ぎに切り裂いた。
「ば、馬鹿な……この俺が、ほとんど反応すら……」
どさり。
胴を深く切り裂かれたレストーニが馬上から落ち、そのまま絶命する。
「まず一人……」
ふうっと息をつくと周囲から大歓声が上がった。
「うおおお、さすがクレスト殿下だ!」
「【七騎槍】など我らが【黒騎士】の敵じゃないぜ!」
「ありがとうございます、殿下!」
沸き立つ兵たちに、僕は軽く手を挙げて応えた。
それから周囲を見回す。
帝国兵の死体が数百単位で折り重なっていた。
僕が駆け付けるまでの、わずかな間にここまで被害が出たのだ。
おそらく他の六人のいる場所でも、同じようなことが起きているはず。
「急がなければ――」
僕はすぐに馬をひるがえし、次の【七騎槍】の元に向かった。





