7ー7・拒絶反応
「____お嬢様?」
そう呼ばれるのは、久方ぶりか。
この家ではお嬢様と呼ばれるだけで
ジェシカ以外を覗けば、誰も名前を呼んでくれ事はない。
だから忘れてしまう。
風花という、己の名前も。
『北條厳造の操り人形』
『孫娘』という認識をひしひしと受ける。
あまり好きな呼名ではないが、
この家に居る以上は、そう呼ばれ続けるのだろう。
立派な跡取りになるとそう言って出て行ったのに
結局は成し得なかった。否、離れていた事さえ贅沢なもので
現実から背を向けていた事は、ただの我儘だ。
もう、北條家の縛りから、逃れられない事を悟った。
ならば。
自身のも“孫娘”という呪縛を使って、
祖父を、兄を殺めた男を束縛しよう。
あの会話を機に
北條家が求める人格に染まる、その代わりに、
名ばかりの祖父への憎悪感や嫌悪感が増して行った。
厳造は、威厳を守っているけれども
それはただの虚像で、虚栄心とエゴの塊だ。
心の片隅では人を殺めた事を気にしている祖父に近付いて、
自身の存在を見せつけ、威嚇する。
(___だって、私は)
信濃直哉の双子の妹。
厳造の消してしまいたい過去の、破片。
そう思うならば、彼にとって自分自身が最大の武器だ。
厳造は風花がいる限り、
直哉を殺めた事実を直視するだろう。
風花はその弱味を握った。決して許し逃がしはしない。
卑怯だと、姑息だと思われても構わない。
自身のの存在で、奴を苦しめてやろう。
(これからは、復讐の為に生きてやる)
闇が解けはしない。
薄暗い廊下で、大人二人が立ち話をしている。
ジェシカは、萩原の話に呆気に取られつつも
不穏な視線を送っているままだ。
出来るだけ冷静に、事を飲み込もうするジェシカに
萩原は人を見下すような微笑みで 高らかに告げた。
『___風花、お嬢様が仰っておりましたよ。
実家に帰るので、全てを終わらせたい、とね』
『じゃあ、ここは____』
『本日付で契約者が北條家ではなくなります』
(___何故なの??)
ジェシカに、浮かんだのは疑問符。
風花は三年前、
全てを捨てたつもりで実家との距離を置いた筈なのに。
強姦被害に遇った時、
医師から実家とは距離を置いた方が良いと宣告を受けた。
本人はそんな素振りは見せないが、
心的外傷後ストレス障害の傷を負っているのは如実だった。
そんな中、心優しき少女は、自身の事よりも
芽衣に被害が及ばないようにと相談を持ちかけ、
夜逃げ同然で家を飛び出した。
『立派な跡取り娘』としての姿になって帰ってくる。
それは事実が半分で、偽りが半分。
『未成年者後見人なったおつもりで?
でも権限は私にあります。貴女はは所詮 偽物でしかない』
北條厳造から離れたくて、
あの日、彼女が初めて祖父に抗った事だった。




