7ー2・懺悔と思惑
ルームシェアと言っても、
アパートの間取りは広かったもので、一つ部屋が余っている。
生活スペースしか行きしない筈なのにその部屋は
モデルルームように綺麗だった。
深夜、
誰もが寝静まった空室の部屋で、風花はひっそりといた。
「……………………」
小さな仏壇。
純粋無垢な微笑みを浮かべている少年。
その前に差し出された、小さなショートケーキ。
それを置くと風花は視線を落とし、呟いた。
「………18歳、おめでとう。直」
大人の理不尽な理由で、命を奪われた少年。
日付が変わって今日は__3月6日。
風花と、直哉の誕生日だった。
忘れない。
己の存在は忘れていても、小さな少年の誕生日を。
此処に来てから
毎年小さなショートケーキをだけを買い、
形のない彼を祝うのは風花にとって大きな塊根の懺悔と、
純粋な気持ちでの少年への祝いだった。
もう18回目の誕生日かと内心、驚く。
北條家の喧騒にも似た慌ただしさに
呑まれても内では忘れられなかった。
あれから、もうそんなに年月が経過していたとは。
だからこそ、
自身の心にある虚しさも段々と膨らんでいくのか。
本来生きていれば、自分と同い年。
どんな姿になっているだろうか。
(____きっと、
貴方は性格は変わらず、青年になってたよね)
無意識的に微笑みが浮かぶ。
誰にも見せない優しい微笑みは兄がいたあの頃と
同じものだった。
答えが返ってはこない。
でも、問いかける。
純粋で優しかった兄。
自身は彼に甘えて頼りきりで、後を追いかけてばかりだった。
不器用な自身ではなく、器量の良い兄が、
選ばれると思っていたのに。
その彼の純粋さが北條家当主の逆鱗に触れたのなら、
軽蔑さえ抱く。
彼が消えてしまうまで、ずっと一緒だった。
直哉が、生きていれば。
(___ごめんね。
私は面影もない程、変わってしまったけれど)
そう考えて、風花は自身を憎んだ。
何を考えているのだろう。
厳造を幾度、憎んでも還ってはこない。
それでも心の片隅で、自身の事を軽蔑するようになったのは
あの時、出しゃばるような真似をしていたらと
後悔は息絶えない。
自身のせいで直斗は___。
誰でもないこの自分が幼き兄を見殺したのだ。
息が詰まる。
兄を思うと、この申し訳無さを懺悔と呼ぶのか。
5歳で亡くなってしまった直哉よりも
18歳の自身はもう随分と大きくなったのに。
(___私は、何も変わっていない)
臆病で、
北條家に穢れていくままで。
自身の時計は、直哉が息絶えた瞬間から止まったみたいだ。
直哉は今の妹を見たら、なんと言うだろうか。
(………………絶句してるよね)
自分自身を許さない。
だからこそ、
自分自身を祝おうなんて気持ちは更々ない。
風花は自身が生まれた日を軽蔑し、誰にも祝わせなかった。
この世で嫌いな日が誕生日でもある。
それに___罪人である自身が、
祝われる立場でも権利もないだろう。
もう彼はいない世界で自身は、生きていくしかないのだ。
____それは、この世界で罪悪感に
胸に抱いて生きていくことと同義である。
薄闇の紗の中で
風花は不穏な微笑とともに、心を殺した。
それが何よりの懺悔なのだから。
それに、直哉を殺めた
あの男の孫娘だという立場には、一生居座ってやる。
(___ごめんなさい。
でも私は、北條家当主を束縛し続けるわ)
日に日に心の整理が着くと共に、心は冷めていく。
冷静になりつつあるフィーアの心は変化をもたらしていた。
ジェシカ____表向きの事しか見ていなかった。
だからこそ、
自身の母親を罵倒した事、後悔する。
そして、思ってしまった。
(………風花が、羨ましいだなんて)
自身がいない間
ジェシカは、風花を自分の代わりにしていた事だろう。
現に風花は北條家に迫害をされど、大切にされている。
それは、ジェシカがいて成立する事だ。
風花は目をかけられ、ジェシカが傍に居たこと。
それが少し羨ましく思う事があり
嫉妬している事に気付いてしまった。
解っている。
風花は北條家に振り回されている不幸な人間だと。
こんな感情は、無い物ねだりだと解っている。けれど。
様々な感情が入り交じり斑になった気持ちで、
今が整理出来なかった。
けれど何故
自分は、母親と生き別れたのか。
どうしてあの地下室で過ごしていたのか。
それが、何故か分からない。




