4―11・思惑の火花
フィーアは、解っていた。
解っていた上で、ジェシカに相談を持ちかけたのだ。
「あの、華鈴さんと
自然と会わせて頂ける機会を授けてくれませんか?」
『え? いきなりどうしたのよ?』
ジェシカは風花を強く慕っているからこそ、
あまり華鈴の事はよく思っていない。それに、北條家にいる頃
華鈴が、フィーアを味方に付けようとしたが、
フィーアは拒絶した。
神妙な面持ちで、フィーアは視線を伏せる。
「ジェシカさんも何処かで、分かっているでしょう?
直哉の事を知る人は少ない。あの手紙を送り付けた人間が
限られている。だとしたら考えられる人物は………」
(……………もしかして)
ジェシカは、其処で息を飲む。
けれどそれと同時に何処かでやっぱりか、と思い悟る。
フィーアが言う言葉は確証があって、ジェシカも謎が解けた。
はぐらかしの利かない事情を武器にされては言い返す事は出来ない。
話し合いたいという
フィーアの条件にジェシカは承諾して、
彼女が嘗て過ごしていた北條家の奥部屋を指定する。
自身が連れていくという条件を飲み込んだ代わりにフィーアは
「ジェシカさんと、
あと、もしもの時に
圭介さんには部屋の前で待っていて欲しいんです。
聞けばあの人、激昂し易いんでしょう?
そうなった時
私では敵わなくなると思いますから。
万が一の時にお願いします。……駄目でしょうか?」
「そうね。解ったわ。圭介君、私も同伴するわ」
条件は揃った。
後は……。あの少女の裏を暴かねければ。
某日。
フィーアはジェシカはと圭介に連れられて北條家に来た。
ただフィーアはリスキーな存在なので、関係者専用裏口から家に入る。
圭介も事情は知っている。それを見込んだ上で、
フィーアは二人を連れたのだ。
『ちょっと朗報があるわよ』
華鈴は流されやすい上に、
彼女の固定概念では朗報=祖父という形式が生まれる。
奥部屋。華鈴が先に待っていた。
ジェシカはフィーアをおぶっていた。
「この子が、貴女と話したいそうよ。
それじゃあ、後は任せるわね」
「ありがとうございます、ジェシカさん」
フィーアを下ろすと、ジェシカは去っていく。
部屋の斜めにいた青年は、こそこそとジェシカに尋ねた。
「今から、何が始まるんですか?」
「聞けば解る。良い? 今の貴方は、フィーアの護衛よ。
男手は貴方しかいない。もしもの時はお願いね」
「………分かりました」
遠回しに事情は聞くな、という雰囲気と重圧に圭介は
聞かなかったふりをする。
二人は静まり、
部屋の斜めで、立ち止まる。
二人きりの空間になった時、
向き合ってフィーアと華鈴の視線が混ざる。
華鈴は不機嫌な面持ちだ。
フィーアの丸い形の垂れ目は一見、穏やかそうに見えた。
穏和さを誘う様に薄い微笑みを浮かべる。
「今日は、お時間を割いて頂いて、ごめんなさい。
けれどまた一度お会いしたかったの」
「そうなの……」
フィーアと華鈴が、面識したのはたった一度だけ。
あの時、フィーアは華鈴の事を
逆恨みを生き甲斐にし、
誰かのせいにする事しか出来ない人物としか思えなかった。
風花と家を出た時から、
もう再会するのは何年ぶりだろうか。
けれども華鈴は、
あの事を根に持ちフィーアの事を気に入らない様だった。
……風花の味方だったからだ。
案の定、華鈴はフィーアも欲しがろうとしたけれど、
フィーアの盛大な拒絶により断念したのだ。
フィーアへ風花に劣らない程に博識があり、聡明さを抱えただった。
素性は解らぬが、
風花に負けないくらいのIQと理性を伏せ持っている。
それは風花がそうなる様に教えたのか、元々彼女の眠っていた才能なのかか。
普段は大人しいのに
此方が奪う目的で手懐けようとした途端に、フィーアは華鈴に牙を向けた。
3年前、フィーアは言い切った。
『私には、分かるの。貴女がどんなに醜い人なのか。
人の物がそんなに欲しい?
けれど残念ね。私は貴女に着かない。
故意的に人様から奪ったものを手元に置いても、幸はこない』
『は?
じゃあ、風花も同じじゃない?
あんたを誰かから奪ったんだから』
けせら嘲笑うと、氷柱の様に鋭い眼差しに変わる。
『違う。風花は私の恩人よ。
絶望の泥から拾い上げてくれたの。
だから、あの子を裏切る真似なんて、私は絶対にしないわ』
私は、風花に着いていく。
目の前の少女にフィーアはそう宣戦布告した。
その事もあってか、華鈴はあまりフィーアを良く思っていない。
「どうして話したいなんて思ったの? 本題はなに?」
「せっかち。あら、じゃあもう単刀直入に本題に入って良いのかしら?」
やや首を傾け、
不思議そうなの微笑を浮かべながらフィーアは尋ねる。
けれどこれが誰も知らない"彼女の合図"だった。
「こないだね、
風花の元に不思議な手紙が届いて風花は取り乱したの。
可笑しいし、静かなあの子が取り乱すのは珍しいわよね。
でもそうなって当然だったわ。
『信濃 直哉を殺したのは、北條風花。
己 可愛さに実兄を殺した罪人な女』なんて書いてあるんだもの。私も驚いた」
華鈴の表情が動く。
その僅かに動いた表情を、フィーアは決して見逃さなかった。
落ち着いた物言いを続けながらフィーアは本題へと乗り出し始めたのだ。
「一体、誰が風花に酷いこんな事をしたんでしょう……」
段々と淡々とした落ち着いた口調に熱が篭ってくる。
そんな事があったのと他人行儀な華鈴に、フィーアは心の中で微笑を浮かべた。
「華鈴さん。そろそろ正直になったらどう?
この手紙は___私が一から作って風花に送りましたってね? 」
「……っ、そんな証拠が何処あるのよ!!」
華鈴は叫ぶ。
しかしフィーアの眼の色と目付きが据わってきた事に驚く。
温厚な少女が、何処かで嘲笑っている。
「そんな証拠が何処にある? 笑わせないで。
証拠ならあるわよ? 貴女の指紋と手紙に付着していた指紋が一致してるのに。
後、貴女の甘くて強い香水の香り___それが一緒だった。
人間は口で嘘を付いてもね。
いつか自分自身が教えてくれる様になってるのよ」




