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4―10・劣等感と嫉妬






 華鈴は、北條家に生まれた。


 北條家の待望の初孫。

そして北條家の親族が皆、後継者が出来た事を喜び、安堵をした。


これで北條家は安泰だと思い、

彼女に葬儀者としての教育を施そうと思った矢先。




____障壁が待っていた。



 葬儀が営まれる独特の雰囲気、お経の詩。

棺の中で眠っている人物の独特の存在感に目眩しては、泣き叫んだ。


 悲しみと共に

『相手は、生から離れた者』という気持ちが根付く。

その存在感、その儀式が幼心にとても重たく感じで逃げ出したくなる。


 これは、亡き者の儀式。

この重たい儀式をどう受け取ればよいか。

お経の歌や音色は死者が居なくなった事を示事だと思うと恐怖に震えた。


 いつしか我を喪い、

暴れて泣き叫び全力でこの場から逃げたかったのだ。





 そんな華鈴の姿を見て、祖父は気付いたらしい。

自身には、葬儀者として、後継者として相応しくないと。



 それから間もなくして

北條家には自分自身と同い年くらいの女の子を連れてきた。


 黒髪黒眼の、人形細工の様な儚く美しい娘を。




 その子が自身の代わりの後継者と知って育てられる。


 そう知った瞬間に華鈴には嫉妬の心。



(どうして、あたしじゃなくあんたが…………)




自身の立場を奪われた。


自身は祖父から失望され、

家族共々、本家から分家に追いやられたのに

何故、他人の奴が北條家の後継者としてのうのうと居るのか。



 敵対心と嫉み妬み。

風花という少女は、優秀の塊だった。


何もかも万能に出来て周りからも期待され、羨望の眼差しを

スポットライトの様に浴びているよう。

北條家が求められた、舞台女優。


 その整った容姿も天性の才能も、

そして、あの儀式に耐えられる忍耐力。


 その全てが華鈴には羨ましくてならない。


____自分自身には決して手に入らないもの。




 西郷家に居ても、祖父は目をかけてくれる。自由は許された。


せめて容姿だけでも比較されない様にとメイクを施して、

風花と同じ色の髪は染めて人形さんの様に巻いた。



 せめてでも輝かしく思われたい。

その一心で。表だけでも自分自身を磨いて見せた。



 容姿をどれだけ美しく磨こうとも

一度、くすみ、歪んでしまった性格は変わらない。

それどころか風花への嫉妬は見る見るうちに歪んでいく。


(風花さえ居なければ…自分は北條家から入られたのに………)







「貴方、北條風花の教育係よね?」




 真っ直ぐとした上目遣いで、華鈴は見詰めてくる。

他人からいきなりこう言われたら、困惑するだろうが

圭介は心構えは出来ていた。



(見ず知らずの他者に会って

人を呼び捨てで尋ねるなんて、お里が知れている)



 北條家には足許には及ばぬが、圭介自身も

祖父母によって厳しい他者への礼儀の教育は叩き込まれている。





 西郷華鈴という少女は、目の前のいる人物の事か。

馴れ馴れしいのは、逃げ場を与えぬ様に距離を詰めてくるのも苦手だ。



「……貴女は確か、こないだ風花と話していた人ですよね」



 嘘を付いて、圭介はそう語りかけた。

すると少女の顔は見るからに明るくなり、飛び付く勢いで話しかけてきた。



「覚えてくれていたのね、あたし嬉しいわ。


 あの時はちゃんと挨拶出来なかったけれど……。

自分の事を名乗ってなかったわよね。あたし、西郷華鈴って言うの」


「(……………知っているよ)」



 西郷華鈴の素性は、ジェシカから、隅から隅まで聞いた。

だから名前も、素性も知っているけれど、圭介は

わざと知らないふりをする。



何処か、媚を売る様な声音。

圭介は視線を反らすけれど、華鈴はじっくりと青年を見詰めて離さない。



「何か用ですか」


 他人行儀な声音に、華鈴はむっとした。

色仕掛けという大胆な行動は、奥床しい風花には出来ない唯一

自身に出来る術。


 

「え? そうね…お目にかかったから声をかけたくて。

実は………実は親しくなりたかったの。


あたしは風花の従姉妹で、北條家の分家の娘だから」

「……へえ」



(よく嫉妬を狂う相手を、従姉妹なんて軽々しく言うんだ)



 何故、知っている人物を盾にし、向こう側の人物の

テリトリーに土足を踏み込む事が出来るのか、軽蔑した。

顔見知りだと思い信じて止まない。それに、繋ぐ人物がいると、人は大胆になる。



(___馴れ馴れしく近寄ってこないで欲しい)



 

 そんな彼女に何か思惑があるのだと圭介は気付いてしまった。



 腕に不意に絡められた手。

何か企んでいるのだろうか。




「ねえ、今度良かったら、お茶しない?」

「え?」


「貴方ともっとお話ししたいの。

それに、あたしの方がもっと風花の事は知っているし………」



(風花のものが欲しい)



 奪ってしまいたい。

何不自由無く育てられ、自分自身の立場を奪った人間が憎らしい。

なのに、彼女は悔しがりもしない。だから、此方が惨めになる。


 だからこそ、

ただ大人しく、分家の娘でいる事は耐えられない。




「あの………気持ちは嬉しいよ。

でも僕は大学とアルバイトがあるから、時間が無いので」

「そう残念だわ。でも何処かでまた会いましょうね?」


「もし、会う機会があれば」



 そう口を濁した。

この少女に、あまり関わりを持ちたくないという


感情が芽生えたのは覚えている。





 

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