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4ー5・腫れ物と硝子





 風花の表情は失神したまま、目を覚まさない。

ジェシカは顔面蒼白の人形の様の少女に


視線を落として、

両手で包む様に彼女の手を握る。

ジェシカの眸は物憂げで塊根の心音を残響させたまま。



 風花の手は、凍りの様に冷たい。




(___私のせいだわ)




ジェシカは自責の念に駆られる。






そんな中、

慎ましやかなノックの後に、不意にドアが開く。

部屋に入ってきたのは、何処となく不穏な面持ちをしたフィーアだった。



 彼女は真剣な面持ちで、やや目を伏せた後で口を開く。






「風花の傍に居るのは私が変わります」

「__分かったわ。風花が私より貴女の方が安心するわよね。


風花の傍に居てあげてね」



 風花が自ら助けた少女。

フィーアも懐いている、それに風花自身も彼女に対しては気兼ねないだろうに。

それにジェシカにとって、何処か風花に対して複雑だった。



(_____この子にとって、私も北條の人間)




 そして、心の底から憎しみを抱いている。




 何処か疲れているジェシカの沈む表情を、フィーアは見逃さない。


悟った表情をひとつ落とすと、

フィーアは決心した様に口を開く。






「それとお願いがあるのです。


ジェシカ、もう隠せない。

圭介さん、何か気付き始めている。

心療内科から現れた風花を見たと、言っていました」



 ジェシカは瞳を見開く。

驚きの色と共に口許に手を当てて塞ぎ込んでいる。



「誤魔化した?」

「____誤魔化していません。

 事実を見られてしまっている以上、

誤魔化なんて効かないでしょう、何処かで疑いを持ってしまう」



 凛然としたフィーアの姿勢は変わらない。



 ジェシカは何処となく閉鎖的だ。

風花の事になれば尚更。それはフィーアに対しても

そういう一面がある。


 それは風花をまるで、自身だけの城に幽閉しているようだ。

フィーアは何処か目を凝らし、俯いたままのジェシカに声をかける。





「そうは言ってもね。

簡単にはいかないのが世界の通りなの。

事実でも誤魔化す事が、時には必要な時もあるのよ」

「……………確かにそうですね」



「それに雇われの身である圭介君に

風花の何が分かるというの? 部外者なのに。


いつまでも北條家や、風花の元にいるって確証なんて何処にもないのよ。

それを口軽にペラペラと話すのもね」


 伏せた瞳は闇色に、フィーア首を傾げるしかなかった。

要するに隠蔽したい。ジェシカは何処か風花の過去に

関わっているだけに、後ろめたさから背を向けている。




「………お言葉ですが。

あの人の仕事の役割は風花の監視人兼教育係です。

役割の関係で、あの人が今後、さっきの様な機会に遭遇しないなんて、言い切れるの?」


 ジェシカはフィーアを、

悲哀に満ちた眼差しで睨んでいる。

何も言うなと言わんばかりに、けれどもフィーアも譲れない。



 前、兄を失った妹を姿を見て、

風花は我を喪ってしまった。




 今後、あの様な機会に遭遇しても

圭介は黙って見ているしか出来ないのなら。

与えた役割を果たせないも同然だ。





 だから。


「貴女が人一倍、風花の過去を後悔しているのは解ります。

けれども、何がか起きた時は遅いじゃない。

それとも、風花を苦しませたいんですか」



 冷静沈着に、少しドスの据わった声音で尋ねると

ジェシカは唇を噛み締める。



「貴女の過去の苦悩は、風花の苦悩とは関係ない。

風花を苦しませなくないなら。


もう、風花の全てを話してあげて」


「……………分かったわ」



 フィーアの説得力に降参した。




 何時もは敬語なのに、

真剣な時に限ってフィーアは丁寧な敬語と

嗜めるかの様に敬語を無くした様な口調になる。

それがフィーアの真剣な感情への切り替えだという事は分かっていた。


 フィーアの懇願にジェシカは受け入れて、部屋を出て行った。




(___どうなるの、かしら……ね)




 これから聞かされるお伽噺(とぎばなし)

青年は少女を理解し受け入れるのか、果てには拒絶して去るのか。



これには、役割の器が試されている。




(………でも、大丈夫よ)




 風花の頭を撫でてから、フィーアは冷静にそう思う。

青年は、どう思うのか。どうするのか。



 この少女の過去を知ってしまったら。


 


 そして、例え少女を裏切り去ったとしても。




(…………わたしは、貴女の味方で居るわ。絶対にね。


だから安心して頂戴。風花)






 一人取り残された圭介は

どうなっているのか心配と、少女への謎が交差していた。






 ジェシカが部屋に入ってくる。

緊張しながらも真剣な面持ちで、圭介も表情が張り詰めた。




「……………風花は」

「相変わらず意識が戻っていないわ。代わりにフィーアが付いてる。

……それと少し話があるのよ、良いかしら?」




「___話ですか?」

「___風花の事、貴方も知っておいた方が良いから」



 心が傷んだ。

風花の事、と言われて圭介は気が立つ。

 休憩スペースの椅子に向かい合わせに座ると

ジェシカは目を伏せながら、決心した後に口を開く。




「これはね。

いつか何時か話さないといけないと思っていたこと。


 これから貴方に話すわ。

要は風花の過去話になるのだけれど。




ただこれはとても残酷な話よ。

全てを受け入れる覚悟で、これから聞いて欲しいの」

「……………はい」



 ただならぬ 空気感。張り詰めた彼女の表情。

ジェシカは決意すると、最初に口を開く。












「まずね。

単刀直入に言うと



“風花は北條家とは全くの無関係の子供”なのよ」



「…………え」




 圭介は呆然とする。



 風花が無関係?  北條家と?

ジェシカは昔を回想しながら、昔話を語り始めた。














 風花は元々、北條家とは全くの血縁関係がない娘だ。


本名は信濃風花(しなのふうか)





 風花は元々双子で、

双子の兄に直哉という少年がいた。


 当時 数年前に起こった大災害により両親を失い、

幼くして孤児院に預けられていたという。




 二人は仲良しだった。

兄妹は仲良く何時も一緒で。

それは端から見ても家族愛、兄妹愛に微笑ましい思っていた。




 そんな二人は、

これからも生きていく筈だった。




 ジェシカも元々から北條家に居た訳ではない。

けれど北條家とは昔ながらに交流の深い北條家と関わりがあり

元々はある孤児院で働いていた。……それは、兄妹がいる孤児院である。






「直哉、待って」

「のんびりさんだなあ、風花は」




 他愛ない会話。

直斗と風花は、何時も仲良く二人一緒にいた。



 直斗は明るく物怖じしない性格で

その後ろに風花が着いていく姿を何度も目撃した事がある。



 見るだけで

頰が緩み、幸せそうな光景が微笑ましい。

そんな記憶が根強くも、懐かしい。



 けれど孤児院に居た頃は、

家事手伝いという彼女は

ただ双子を目撃した事はあるという程度で、

深く関りもなく接点はなかった。




 時は平和に流れている筈だった。




 なのに、何処で狂ったのだろう。











 ある年の、ある夏。

北條家には、厳造の孫娘が生まれていたという話も聞いていた。


 生まれた当時にジェシカが

祝いを贈り、その孫娘の顔を見にも行った記憶がある。

孫娘が生まれた事を当主である厳造とても喜んでいた。




『北條家の跡取りだ。わしの跡を継ぐ娘なんだぞ』




 何時もは仏頂面の厳造が、

笑みを見せる程に孫が生まれた事を安泰と思い、

皆が祝福していた。







けれど本当は…………。






「北條家には分家に当たる西郷家があるの。

その家にはね、華鈴という、風花と同い年の一人娘が居るの」


「____…………」




 北條家の分家に当たる西郷家。


北條家の分家と言えど、

西郷家は北條家の分家という以外は一般的な家庭だ。






「けれど、その子は西郷家の娘ではなく、

北條厳造、北條家当主の実の孫娘であり、本来の北條の次期当主なのよ」


「……え」



 圭介は絶句している。




そう。

本当は華鈴が北條家当主になる身であり、厳造の孫娘。

厳造も血縁のある華鈴を次の北條家の跡継ぎとして育てようとした。




 けれど。其処で問題が生じる。






 華鈴が2歳を過ぎた頃。


それは厳造の言葉から始まった。




『華鈴が仏壇や葬儀の現場を見て怖がる。

跡継ぎとして


幼少期から葬儀の基礎や現場を学ばせたいが

華鈴は泣き叫んで嫌がる』




 教育を施すのはまだ早いのではないか、とも思った。



 華鈴は葬儀や

仏壇等に恐怖心を抱いて現場には行きたがらない。

気が短く短気な厳造は華鈴は葬儀屋の娘として、

跡継ぎとしての器がないと悟ったらしい。




 ジェシカは、それを聞いて思った。






(………華鈴は、父親に似たのね)






 厳造の息子で、華鈴の父親もそうだった。

華鈴と全く同じ理由で彼も葬儀には恐怖心を持ち、

そんな彼は相応しくないと誰もが思ったが、彼は厳造の期待に答えるべく無理をして


 華鈴が生まれた頃には

華鈴の父親がである厳造の息子が、

家業の仕事をノイローゼが理由で働けなくなってしまった。




 そんな事情もあり

元々から息子の子供に跡を継がせると、厳造は決めていたらしい。

だからこそ、

厳造が孫娘に寄せていた期待は、膨大なものであった。




 反面、

裏切りも相当なものだったのだろう。





 厳しい当主なら、嫌がってでも慣れさせるだろうに。

身内の息子や孫娘には甘いらしい。



 けれど、

他人に北條家の当主の座を与えるとは意外と




(____他人に重荷を背負わせるのね)






そして厳造は話を持ちかけた。



 孤児院に勤めるジェシカに、

孤児院にいるであろう同い年の子供を紹介して欲しいと頼んだのである。






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