4ー1・責任者
大学の講義を終えた帰り道。
今日はアルバイトはないのだという事を思い返し、
このまま家に帰ろうと思いながら歩いていると、
不意に通りを挟んであるの建物から
見慣れた人物が出てきた事に気付いて思わず立ち止まる。
風花だ。
けれど、なんだか雰囲気が違う。
それはまるで、魂を抜かれた様な雰囲気で
窶れた様子で覚束ない足取りだ。
顔色が悪く浮かない表情だった。
そして
圭介は風花が出てきた建物に驚きを隠せない。
風花が出てきたのは
主に心療内科専門のクリニックということ。
パステルカラーの看板を見詰めながら遥か彼方、
去って行く少女の後ろ姿は何処か物憂げと物悲しさを体現している。
圭介の中に疑問が浮かぶ。
間違いではない。確かに彼女は此処から出てきた。
(何かあるんだろうか)
普段こそ、
物静かかつ冷静沈着で、あまり自我を表さない。
誰も彼女の心の領域を知らない。起業した者の立場や
そもそも家の名を背負う跡継ぎとしての責任もとても重いだろう。
知らないのではなくて
彼女自身が悟られぬ様に振る舞っているのか。
密かにそんな疑問が浮かんだ。
数時間後。
事務所に忘れ物をしたと思い出したのは日が暮れてからだった。
クライシス・ホームは
365日営業ではなく、北條家の子会社の立場だ。
北條家から承った仕事を割合して仕事が来る。
要は風花が独断で起業し立ち上げたもので、
本業の葬儀の仕事は、北條家の家が行っているに過ぎない。
とはいえ業務時間は終了とっくに過ぎてる上に誰も居ない場所に
行くのは少し躊躇を覚えたが、
そんな事を考えた瞬間に風花の言葉を思い出す。
『これは職員専用の合鍵。関係者しか持っていないもの。
何かあったら、夜中でも此処に来て良い事になってる。
遠慮なくどうぞ』
クライシス・ホームに就職すると決まった時、
責任者直々に渡された鍵。
関係者しか持って居ないが故に、
関係者であれば、時間問わず出入りして良い。
社長から告げられた事を思い直して
時刻は遅いがクライシス・ホームに行く事にした。
人間の慣れとは恐ろしいもので
最初の時は驚いてばかりいた細かな細工された、道を歩いていく。
最初はあまり気にかけていなかったが、
厳重な仕組みはパンドラの箱に迷い込んだ様な錯覚に陥る。
しかし暗闇の世界と言っても過言ではなく、
携帯端末の明かりだけを頼りに事務所のドアを
鍵で開けようとした瞬間に圭介は違和感を覚える。
(……あれ、開いてる?)
鍵が閉まっていない。
ドアノブを引くとそのまま開く。……閉め忘れだろうか。
それは事務所の鍵を開けようとした時も一緒だった。
静かに開けて、電気を付けた瞬間。
圭介は小さな悲鳴を上げた。
人が居た。
専用のデスクには、長髪の黒髪の少女が居座っている。
パソコンのライトのみ反面している闇夜。
照らした薄暗い光りは
良く整った顔立ちのせいか日本人形が居ると
一瞬錯覚したが、それは誤解だ。
その少女は表情こそ無表情なものの、
何処か訝しげな面持ちで此方に視線を遣る。
「煩い」
「ごめん、誰もいないと思って………」
そう言えば責任者は自ら夜勤担当している事がらしい。
風花は此処に居て深夜でも対応に追われている。
職務は責任者の護衛なのにあまり深く理解して辺り、
職務失格者だと思いながら
片手で頬杖を付きながら茫洋な眼差しで、圭介を見る風花。
そんな彼女に両手を合わせて謝るしかなかった。




