表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/77

3―9・傷心の残り香




 支部である地下室に事務所があるが故に、地上とは遮断されている。



 当然 光りは差さない。 

代わりに柔らかな色彩のランプの照明は数多くあり、時折

本当に地下室に居るのかと思ってしまう程に大差はない。




 そんな中で

フィーアは両手で頰杖をつきながら、深々と考え込んでいた。




____事の発端は圭介が発した言葉からだ。




『風花と同い年くらいの、小柄な子と話してましたよ』




 同い年くらいの子。

同い年くらいと言えば、本家の北條家と分家の西郷家では限られる。


 なんせ二つの家とも

大人しか居らず未成年の子供は二人しかいないのだ。

風花と接点を付けようと絡んでくる人間は限定的で、

交流は浅く狭くだ。




 だとしたら_____。




 西郷 華鈴。




 その子しかいない。

西郷家の少女で、北條家の当主から盲愛されている事を逆手に取り

盾になんでも北條家で好き勝手やっている危険な人物。


華鈴は奥手な割りに剛力で、

風花に敵意と嫌悪感を示し何処かで落とし込めようとしている。

フィーアが引き取られて間もない頃、安々と華鈴に見つかってしまった。


『ふーん、風花ったら、味方また持ってきたんだ』


 カールした毛先を弄びながらつまらない様な表情をする。

けれどもあっさりと態度を変え、フィーアに目線を合わせると

媚を売る様な声音と共に、怪しく口角を上げる。

爬虫類に似た、何処か鮮やかな嘲笑。



『悪い事は言わないわ、あたしの味方をしなさい↲



 高圧的な態度。

それは風花を虐め抜くあの当主とそっくりだった。

無論、フィーアは恩人同然である少女にしか懐かないと決めていたので



『恩を仇で返す真似はしたくない』



 と冷たく返した。







 華鈴は神出鬼没の危険人物。

風花からも聞かされ、ジェシカも頭を抱えている。

いつ手を出してくるのかも分からない。……そう考えていた。














 風花の様子はいつの間にか普段通りになっていた。

きっと無意識的にあの場所へ足を向けた事が良かったのだろう。


懺悔ながらも風花にとって、

北條家での居場所はあの場所でしかないのだから。




 実を言うと、フィーアも一度だけ訪れた事がある。




 けれど最初は誰の墓なのか、

どうして風花が頻繁に訪れるのかは知らず、

その時に初めて彼女が涙を流すのを初めて見たものだった。

 




少女からその話を聞いた瞬間

絶句せざるを得なかったことを、あの日の事はよく覚えてる。






 僅かな休憩時間。

淹れたての紅茶を見詰めながらフィーアは頬笑んだ。

優雅で穏やかな時間は、細やかな安らぎをくれる。




自身の傍に誰か来る気配を勘付きつつ、視線を向ける。

圭介だ。彼は珈琲メーカーを操作して、珈琲を淹れ、飲み始めた。




「そう言えば

フィーアさんって、いつから風花と親しくなったんですか?」

「………そうですね………」




 不意に圭介はそう問いてきた。

ふふと穏やかに微笑みながらフィーアは

何処か意味有りげに口を開く。




「そうね。かれこれ三年くらいかしら。

三年前の夏の日に、あるきっかけで風花と知り合ったの。




 圭介さん、形はどうであれ、風花に助けて貰ったでしょう?

私も風花に助けて貰ったんです。


 私は身寄りも家族もいなくて、

そんな時に風花に助けて貰って、

私は北條家の里子として暮らす事になったんです」

「そうなんですか」


 そう話すフィーアは穏やかだった。


「ふふ、案外。

私達似た者同士のきっかけかもしれませんね」




 紅茶を飲みながら、フィーアは答える。






「ねえ、圭介さん。


風花って冷たい印象を受けるでしょう?

けれど、案外とても優しいんですよ。


ただしっかりした頑固者じゃなく、意外と素直なんですよ。

ひとりで実家を出てクライシス・ホームを立ち上げたのも

人生を諦めた時に、助けてくれたのも風花自身なんです」

「へえ……」




 そう言えば、全てが彼女が発端だった。

線路に飛び込もうとした瞬間に、声をかけたのも彼女。



 きっとフィーアも

何かのきっかけで風花に助けられたんだろうと圭介は思う。

飄々とした彼女は何を思い考えているのか掴めないけれど

フィーアの言う通り、きっかけをくれる人物だろうか。



 風花が気遣い屋で、

優しい人物なのは、フィーアが知っている。








 そんな時、


偶然、ラジオはニュース情報に切り替わる。


 

 ニュース番組に耳を傾けると

『アルビノ』のドキュメント特集が組まれテレビ画面に放映されていた。

視線を遣ると無意識的にフィーアはラジオに釘付けになっている。


彼女の視線は全て、『アルビノ』の特集に注がれている。




 アルビノの特集は、

世界各国の取材を通したらしく、

子供達の取材、アルビノの概念が流れる。


恐らく、自身と同じ立場であると

推測されるフィーアはその特集に見入っていたが

____軈(やが)て“ある言葉”が謳われた瞬間、


フィーアの目の色が変わる。








『日本ではまだ記憶に新しいのは

三年前に発覚した、裏社会の人間によるアルビノ監禁暴行事件ですが…………。


何十年にも渡って

アルビノの子供達が誘拐され、

監禁され暴行を受けていた事件でしたよね』


 コメンテーターの会話。



『はい。結果として13人のアルビノの子供達の命が奪われました』




今年、容疑者の男達には無期懲役が下されましたよね』




 そんな事件があったのかと圭介は驚きつつ見るが

反対に、(にわか)にフィーアの指先が震え始めて、瞳が揺らぐ。

 それは紛れもなく

フィーアの目には恐怖の色が混ざっていた。



 フィーアは頭を抱えて(うずくま)る。

その怯えた様子に圭介は立ち上がり、フィーアに声をかけた。




「フィーアさん、 大丈夫ですか?」

「………そんな」




 伸ばしかけた手が空を切って躊躇う。

圭介の問いにも、ただフィーアは頭を抱えて耳を塞ぎ震えているのみ。



 フィーアは知らされていなかった。

今思えば、風花は何も言わなかった事を思い出す。


だからあの後、仲間はどうなったのか、

自身達を仕切っていた男達はどうなったのか。

知らなかった。



 あの日に抱いたのは、深い絶望。


 やはり皆、あの時に力尽きていたのだと悟ると共に

悲しみと心傷という感情が一気に押し寄せ、

哀傷がフィーアの心を締め付ける。


 少女の突然の異変に、

躊躇いを見せていた圭介だったが








___その瞬間だった。




 瞬時にラジオのスイッチを消して、

風花がフィーアに駆け寄ったのは、

  




 風花はフィーアの背中を(さす)った後、

車椅子からフィーアを抱き抱えて、さっさと抜け出した。

その素早い行動に状況が飲み込めないながらに、ただ圭介は圧倒された。




たとだとしい更新で申し訳御座いません。

次回は少し新しいシーンを含めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ