2―4・薄幸な少女、虐げられるお姫様
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_________3年前、北條家・本家
「なんだと!!」
遠くから鼓膜が張り裂けそうな
その声と共に怒号と、乾いた音が聞こえてくる。
無慈悲で残酷だ思いながら、
フィーアは両腕で身を引き締めて、その罵声の惨状を堪えた。
(____まただ)
この家の王様が、お姫様に辛く当たっている。
この“本家の離れ”だという遠い部屋でも
騒音と呼べる程の大きな声でまるで自身も説教されている様な錯覚に陥ってしまう。
だからこそ、現場はもっと凄い筈だ。
(あの子は、ずっと耐えているの?)
フィーアは、数ヶ月前、この北條家に引き取られた。
この屋敷に規程まだ日は浅いけれど、
悟りの良い彼女は段々とこの家の中の事情が理解しつつあった。
この王様は自分本意な性格で、
正反対の性格や思考を持つお姫様が相当、気に食わないらしい。
それは本当の祖父と孫なのか、と疑念を抱く程に、厳しいものだ。
王様は容赦がない。
(___あの子、大丈夫なのかな……)
風花という、
自身を拾って身のまわりの世話をしてくれる少女。
庇いたい。助けに行きたい。
しかしこの動かぬ足と、
制限された部屋と規則では到底無理な事は解っている。
それに風花という少女が此処に限りは今のフィーアに自由はない。
自身の足である車椅子は、
この本家の屋敷の中では使用禁止だった。
フィーアの存在を隠している事が露わになってしまうからだ。
だが、フィーアは手を伸ばし
手を使って床を滑る様に障子の戸に耳を当て目を瞑ると
より一層に様々な声が飛び交って聞こえてくる。
「____もうやめて上げて下さい!!」
止まない王様の罵声。懇願する様な世話役の声。
そして、ひとつも声も上げずにただ耐え続けている一定の呼吸音。
不協和音とも呼べる残響は止む気配を見せない。
理不尽な声を聞いて居て、何処か遠目に眸を伏せる。
この家の環境が普通でない事は、フィーアには分かりきっていた。
少女を虐める為だけの舞台を聞いている錯覚の中で
“いつかの自分自身を見ているようで”、自然と心臓が騒ぎ出す。
フィーアは震えながら、己の耳に手を当て塞ぎ込んだ。
この家は、代々続く葬儀屋。
そしてこの家にその後継ぎとなる少女がいると知ったのは、“あの瞬間”。
フィーアは、アルビノだった。
ただ自分の身がそれなのだという事実を教え込まれただけで、
それ以外、自分自身の事は何も分からなかった。
自分の実親も、
自分の名前も。
自分自身の素性や年齢すらも。
ひとつ分かるのは、窓もない冷たい牢屋の様な場所。
光りのない地は、氷の様に冷たく無慈悲なものだ。
年齢層不明のアルビノの子供達が数人、詰め込まれて
誰かも分からない人間の元で育てられられているという事以外は
現実は、何を意味しているのか、今でも分からない。
ただ、物心付いた時には既に
その場に育ったという事は深く覚えている。
これは少女に出逢うまで知らない事実だったが
アルビノの子供達だけを集めて最小限の生活をさせながら幽閉していた。
それらを仕切っていたのは、裏社会で生きている人間達。
暗闇に現れるのは
其処に訪れるのは、厳つく屈強な大柄な裏社会の人間。
人身売買のバイヤーやヤクザ、薬物中毒の狂乱者。
彼らは地上で、
麻薬等の密売や本人達の摂取、及び人身売買を行う組織だということ。
毎晩を酒盛りと薬物の摂取をを繰り返しながら、
狂喜乱舞の派手な豪遊生活。
そして___理性を喪い、狂う奴等の醍醐味は。
組織の地下室に閉じ込めているアルビノの子供達を、
自らの感情に任せて___ストレスを発散させる為に、
地下室の子供達へ虐待とも呼べる壮絶で酷い暴力を浴びせていた。




