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新装版|クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【第2章】記憶という過去の骸
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2―5・見覚えのない理不尽



 私は、誰なのだろう。


 私は、何故、此処にいるのだろうか。


光りと遮断された虚空を、

憔悴仕切ってのた()で見詰めながら少女は思い続ける。

けれども誰も教えてくれる者は、誰も居らず、恐怖心に包まれた日々は終わらない。




(…………何故、此所にいるの、私は、誰なの?)




 闇の世界。

部屋はコンクリート剥き出しで、冷たさに震え、鋭利さは傷を作る。

極寒の中、少女は目を伏せ膝を抱えて、神妙な面持ちで(うずくま)る。
















 カチャリ、と金属の軋む音をたてながら鉄製の重いドアが開く。




 その扉が開いた瞬間に

地下室に閉じ込められているアルビノの子供達がわなわなと震え身を縮める。








 この開かずの扉が開かれる時は

恐怖の瞬間の合図、皆の心に“怯え”と“恐怖心”が刻み込まれるのだ。


 人が来た事でお互いに寄り添う者もいれば、

誰かはこれから始まる事を悟り理解しただ恐怖に身を竦めている者。

フィーアは無機質に壁に寄り掛かっていた。



(怯えても、現実は変わらない………)



 絶望という諦観。

フィーアは、憂いた表情で悟る心を身につけて

服の裾を握りしめ、"これから"に唇を噛み締めた。






 闇の中に入ってきたのは大柄で人種を問わない男達。

見るからに威圧感がある人物達が地下室へ数十人、わらわらと入ってくる。


 リーダー格の男だろうか。

屈強な彼は拳をコンクリートを殴ると怯えるアルビノ達を嗤った。





 指を鳴らしながら、微笑を浮かべて

地下室に閉じ込められたアルビノの子供達を見下ろした。



そして__________。




「おい。____“今日もやるぞ”」




 はい、と口を揃えて言う手下達。

普段の声には酒に酔った香りと呂律の回らない声音が混ざる。

蒸せる様な酒の臭いに、フィーアは気持ち悪くて仕方なくなった。




 きっと酒盛りの後に来たのだろう。

けれどその声音自体に、多大なる恐怖心を

植え付けるのは、意図も易々と簡単な事だった。




 フィーアは気付かれぬように隅の壁に身を預けながら、

心身の震えを殺して、地下室へと来た男達を見据える。






 バリン、とけたたましい音。

その刹那的、割れた破片が飛び散ちる。

鋭利な破片は、フィーアの白く華奢な肌を掠り、

(やが)て____赤い傷を浮かび上がらせた。




 不思議そうに視線を注ぐと

微笑を浮かべた男達の、

リーダー格の男達が手に持っていたビール瓶を壁で叩き割っていた事に気付いた。


 子供達の恐怖心は増殖され、怯えた悲鳴を挙げる。






__________その瞬間。








「きゃああああ____」



「____嫌だ」



「____やめて」




 あからさまな悲鳴の残響が鳴り止まず、絶えず

が地下室に響き、様々な声が飛び交って聴覚が麻痺していく。


 固く怜悧な鉄製パイプの棒が、

男達の硬く力の籠った灼熱の拳が、足蹴りが

力加減も知らず、容赦なく、強く振り下ろされていく。


 手段は色々だが

酒に酔い潰れた男達の酒癖の憂さ晴らし、ストレスのはけ口として、

アルビノの子供達はこの為だけに幽閉され、虐待を受けるのだろう。




(………始まった)






 フィーアは隅の壁にもたれ掛かっていたが、

鉄パイプの棒を持った男に見付かってしまう。

嘲笑を浮かべながら男はじっくりと近付いていき、フィーアは震えを抑えた。






「や……………やめて。やめてください…………」




 か弱き声は、恐怖に震えている。

そんなこと言わなくても、この惨状は止まない。

けれど目の前の威圧感と心に住み着いた恐怖心が叫んだ。






「黙ってろよ、小娘が」

「………っ」



 胸倉を掴まれ、その形相に目を凝らす。

男の瞳は、焦点が合っていない。






 男が叫んだ瞬間に鉄パイプの棒が床に、振り下ろされた。

恐怖心を煽る為だと、フィーアは瞳を瞑る。



 思わず、顔を手で庇う様に組み出した時、

自身の後ろで何かが壊れる轟音が、響いて恐る恐る、

目を遣る。



____コンクリートに、鉄パイプが刺さっていた。



 隙を見せたからだ。

次は自身の体に戦慄の痛みが、絶え間なく(ほとばし)る。

轟音と共に全身に痛みは広がって行き、肩で呼吸をしながら耐える。



 痛い、痛い___熱に熱した、鉄が。




 固い棒が脚を殴打して、痛覚が思考能力を喪わせ

(やが)て五感を、神経を、瞬く間に鈍らせていく。




_____痛い。



 痛みだけが脳に伝達され、支配されていく。

場所を問わずに殴られ蹴られ、精神が消耗していき、

思考も意識もが虚ろに遠くなっていくのは時間の問題だ。




 酒に酔い、理性を喪い狂う男達に言葉なんて通じない。

そんなやり場のない絶望故に涙さえも枯れて、生きる力を失ってゆく。




 体中を殴打され

痛みの感覚だけを覚え、逃げ場もなくずっと暴力に耐え続けた。

どれ程に願ったとしても、自身には逃げ場がないのだ。



(_____やめて)



 心が叫んだ所で、収まらないのは知っている。

自分自身が絶望に身を投げて身を落とすしかない世界。



 血に染まるコンクリートは、グロテスクな程に奇怪な色を生み出す。

逃げる事も出来ず、このまま地獄絵図の吊り橋に揺られているのなら____。



(____私は、私を、終わりたい)



 目を閉じて、耐えながら

酒に狂った男達の暴行が何時間も続いた。





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