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新装版|クライシス・ホーム  作者: 天崎 栞 (ID:781575と同一人物)
【第2章】記憶という過去の骸
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2―3・奔放少女と束縛少女



「……今日は来てたの」




 物憂げを帯びた風花の声音に、華鈴はむくれた。




「人聞き悪いわね。

あたしが来ようが来まいが、このあたしの勝手でしょ!!」

「……そう。そうよね」



 怒号は聞き飽きた。


 風花は、薄幸の表情を浮かべ疲れ切った眼差しを伏せる。

華鈴が、祖父の部屋の近くに居たと成れば、

今までの話は全部聞いていたのだろう。




 華鈴は分家の娘だが、よく北條家へ訪れ長居する事が多い。

そして祖父・厳造から溺愛され、風花以上に祖父に目を掛けられている。


 風花と華鈴は犬猿の仲。

付け加えれば風花の行動を邪魔するので、風花の敵でもある。


 しかし本音を言ってしまえば、

そう思っているのは華鈴だけで、風花は相手にも、気にも留めていない。

一方的に敵対心を抱いているだけで風花は眼中にもない。


 それ故に。

風花はなるべく距離を置いて、関わりは持ちたくないのだが

反して何故だか華鈴は何かと理由を付けては、

彼女のテリトリーに、土足で踏み込みと酷く近付いてくる。



 そして小言と嫌味を言い、祖父に可愛がられているのは自身だと自慢する。

要するに風花は自身より負けていると言いたいのだろう。

その言動や行動はまるで、小姑みたいだった。




「酷い顔になってるじゃない?? 派手に叩かれたのね。

まあ、私はお祖父様に手を上げられた事はないわ」

「…………そう」



 媚びを売る様な粘りのある声音は、頭が痛くなる。

厳造の前では猫を被った声で可愛く縋り付くのだが、


 それ以外の人間には別物で、

今も風花を心配して言っているのではない。

ただ華鈴の興味半分で、伺っているに過ぎないのだ。


 北條家の責任と使命を一人で背負い込んでいる風花にとって

華鈴は別世界の人間だと思い込んでいる。



(野次馬根性だけは旺盛ね)



 華鈴の物言いに対し、

もう慣れ切っている風花は、一切応じず無表情だ。

しかし華鈴の言う通り、風花の左頬は赤みを帯びてで少し腫れている。


 打たれた時の衝撃も相当なものだったが、 

時間が経つにつれて骨身にまで染みる感覚が襲う。

元々から風花は肌が色白な分、余計にそれが目立つのだ。




 無論のこと、相当な力で打たれからだ。

痛みは凄まじいものだが、でも風花はちっとも気にしていない。

幼少期からともなると、心の感覚が麻痺して慣れてしまっているものだから。




「……何か、用件でもある?」

「いいえ別にないけど? ただ凄く怒られたんじゃない?

あんたが毎回、お祖父様に逆らって火に油を注ぐ事ばかりするから」

「……もう慣れた事よ。こんな些細な事、なんでもないわ」


 華鈴は、その口角を上げた。

その顔付きはシンデレラを嘲笑う継母の様に。



「あら良いの?そんな強気な事を言って?

気を抜いていると、なにをされるか分からない、のに………」


 途中で華鈴は言葉を失った。

罵倒にも似た物言いをしている時、風花の双眸が怜悧に据わったからである。

原が立ったが、このままだと逆鱗に触れてしまいそうで、思わず言葉を飲み込む。




(___帰りたい)




 風花は、苛立ちが募る。

受け身の立場と言え、あまり誰かの声を聞く聞き手には向いていない。

北條家は、風花にとって騒音と喧騒のしかなく、静寂さがないのだ。



(雑音は聞き飽きた)



 疲れている上に

この媚びを売る様な少女の声音で、

戯言紛いの話は耳障りだ。聞きたくない。




 華鈴の声音は、風花にとって怒りを掻き立てるかの様な声。

けれどいちいち相手にしても不機嫌になり、ややこしくなるだけ。


(相手にしない方がいい、それに今は………)


 こんな少女に構う気力もない。

それに華鈴を見ていると自然と風花の心の片隅に、“ある感情”が(たぎ)る。



 風花は、早く北條の(とばり)から出たい。






 風花は華鈴に視線を流す。



 分家の娘である華鈴は

厳しい北條家の人間達から何も言われず、何をしても許されるのだ。


 当主・北條厳造からとても甘く、

跡継ぎで孫娘の風花よりも大切に目を掛けられており

例え彼女の行動は例え出過ぎたものであれど、無かった事の様に目を瞑られている。



 自由が許された分家の少女で、

束縛を受けている本家の少女とは大違いだ。




 華鈴は厳造から与えられた自由で

幼い頃から北條家にも、その孫娘にも無神経に干渉してきた。



何も言わない周囲を良い事に、

華鈴は良し悪し関係なく我儘は増長し、天狗にさせてきた。

天狗になった事を本人は知らず、解らず、当たり前の様に、

それを気にすることなく生きているからこそ、幸せ者だと思うのは、皮肉だ。






 跡継ぎとなる為に

北條家の人間から数々のプレッシャーをかけられ

遊びにも目もくれず、修行と勉強だけを積んできた余裕のない風花とは反対だ。


 そんな風花も華鈴にずっと振り回されてきた。




 対となる少女。


けれど、“この家に居る以上” 

この関わりを絶つことは出来ないだろう。






 華鈴に冷ややかな眼差しを見送った後、

風花は実家を飛び出し逃げる様に帰った。














 地元の駅。小さな駅舎には 

家路に帰宅する人達がちらほらと伺える。


首を振り様子を伺いながら、

ふと視界に自動改札を通過した見慣れた少女が居た。

車椅子に乗った、アルビノの少女は隅に居て、誰かを待っている。






 嗚呼、と思った。 

実家に行くと必ず幼馴染の少女は駅の隅っこで待っている。

その佇まいは可憐かつ上品な、“優しさを具体化した人物だ”。


 申し訳ないと思っている最中

黒の瞳と赤の瞳の視線が交わった時、

フィーアは微笑んで優雅に手を振った。


 風花は相変わらず伏せ目がちな瞳で、

手を振り返して静かにフィーアの元へ近付くと、慣れない口角を動かし微笑んだ。



 しかし風花の赤く腫れた頰を見た途端に

フィーアの面持ちはやや怪訝になり、心の中では察しが付く。




(________相変わらず、あの人は、自己中な人ね)




 己の感情だけで、

"孫娘の立場に置いた少女"を振り回すあの厳しき当主。

“自己中心的でしか生きれない思考”に軽蔑すら感じてしまう程に。



 おかげで風花が、

傷を作って帰ってくるのは見慣れてしまったけれども

見るだけで痛々しく心が痛む。




「風花…………」

「……平気よ。大丈夫だから気にしないで」



 言葉ににするな、という眼差し。

フィーアは喉元まできた言葉を、不本意ながら飲み込んだ。



 ブレーキを解くと、風花は車椅子を押し始める。

何時も表情の堅い風花が無理に口元を緩めるのは、自己防衛だろうか。



 フィーアは気付きながらも気付かずに見ない振りをした。



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