72 あずまや
俺たちはあるところに向かっていた。
「ここですか?」
『ああ』
シャルはその建物のドアを開ける。
カランカランと音がした。
「いらっしゃいませ!」
奥のほうから威勢のいい男の声がした。
そしてすぐにその声の主が現れる。
「おお!これはこれは!」
「お久しぶりです」
その人物はサリオスの元奴隷で現ベーカリーの店員だった。
「旦那は?」
「実はですね…」
シャルは俺がこんな姿になってしまった経緯を彼に話した。
「へぇー。これが旦那だっていうんですかい」
『そうだ。店は繁盛しているか?』
「うわあ!しゃ、喋った!本当に旦那なんですね」
『そうだって言ってるだろ』
「店のほうはいつも混んでますよ。いまはちょっと早い時間なんでお客さんもいないですけど」
『そうか…それなら良かった』
「はい!」
彼はにこりと笑った。
「それで解除方法を知っていたら教えてくれって言ってたよな?」
『ああ』
「解除方法は知らないけどそういうことに詳しい人は知ってるぜ」
「本当ですか!?」
「本当だ」
『誰だ!?』
「占い師のコズエ婆さんだ。近くの商店街に店を構えてる」
「店の名前は?」
「『あずまや』だ」
「ありがとうございます」
シャルはそのままその店に行こうとする。
「ちょっと待った」
「なんですか?」
シャルが不機嫌そうに振り返る。
「買っていきな。うまいぜ」
『ぜひ買っていくべきだ。ここのパンはむっちゃうまいんだ!』
「そ、そうなのですか?」
『ああ!』
結局シャルは10分ぐらい考えたあとメロンパンを買うことにした。
理由は俺がむっちゃおすすめしてたからだけど。
シャルは噴水の広場でメロンパンを食べ終わるとその商店街に向かった。
商店街は何回か行ったことがあるけどやっぱり今日も混んでいた。
しかし人々におしくらまんじゅうのように揉まれるのは慣れられそうにない。
しばらくすると目的の「あずまや」を見つけることができた。
シャルはお店の扉を開くとなかにずんずんと進んでいった。
「アンタ何者だい」
いきなり歳をとったおばあさんの声が聞こえる。
『アンタも姿を見せたらどうだ?』
「それがなにかを聞きにきた者の頼み方かい」
奥から腰が曲がった白髪のおばあさんが出てくる。
「アンタ、その剣…」
「わかるんですか?」
「ああ、わかるよ。そこのお前、ただ者じゃないね。もしかしてあっちの世界の人間だったりするかい?」
『婆さん、なんであっちの世界のことを知ってる?』
「なんでって私もあっちの世界から来たからだよ。私は元々埼玉県で『あずまや』っていう駐輪場を経営してたんだがね。ある時起きたらここにいたのさ」
『そりゃあご愁傷様で』
「で?何の用だい」
シャルがいままでのことを話す。
「なるほどね。ちょっと調べさせてもらうよ」
そう言うとコズエさんは俺に触れた。正確には剣の刀身だが。
「うん…終わったよ。心配しなくていい。近いうちにアンタの呪いは解けるよ」
「良かったです」
「じゃあ私は帰らせてもらうよ」
「コズエさん、ありがとう」
シャルがにっこりと笑うとコズエさんは照れたように俯きどこかへと転移していった。




