表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1897/1898

第三百十七章 歳末浮世絵巻~新年祭を前にして~ 15.エルギン 

「じゃあな」

「あぁ。短い間だったが、世話んなったな」

「あ、あんたらも達者でな」

「…………(コクリ)」



 それなりに情の籠もった別れの言葉を交わして立ち去るクラブとペスコを見送るのは、密命を受けてこの地にやって来たモルファンの冒険者・アイハブとユーハブの二人である。


 モルファン王国から秘密の依頼を受けて、イラストリアはエルギンの町に到着してから既に二十日ほど。この間にドラゴンの痕跡調査やら、現在封鎖中の道に代わる(やま)(みち)を通っての素材採集、果ては駆け出し冒険者の指導など、それなりに忙しい日を送ってきた。

 ()(くず)しに行動を共にしてきたクラブとペスコの二人が王都イラストリアへ行くというのは、それなりに寂しいには違い無いが、見方を変えれば行動の(かせ)が外れたとも言える。自由に動き廻る事ができるというものだ。


 何しろ祖国モルファンの情報部から依頼されたのは、ドラゴンの被害や出現状況についての調査。それも〝可能な限り詳細に〟との注文付きだ。

 なのでここの冒険者ギルドから依頼されたレベルより、もう少し詳しく調べたいのが本音なのだが、あまりあまり執拗に調査すると、不審を買うのが関の山だ。それは厳に戒められている。

 故にクラブとペスコの二人と組んで調べる限り、詳細調査は難しいだろう。こうして二人と別れたのも、好機と言えない事も無い。



「まずは……そうだな、ドラゴンに追い廻されたっていう爺さんから話を聴いてみるか」



・・・・・・・・



 コーツ老人から聴いた話には、どうにも気になるところがあった。

 その時のドラゴンは、執拗に老人――と驢馬(ろば)――を追いかけ廻したと言うのだが……



「よっぽど(こん)(じょう)(わる)のドラゴンだったのか?」



 ()(ろう)()(だい)を地で行く傾向の強い若いドラゴンは、〝(たか)が人間如き〟を執拗に追い回すような真似は滅多に(・・・)しない。言い換えると、(たま)にはそういう(いじ)めっ子気質のドラゴンもいなくはないのだが……



「……その傍迷惑(はためいわく)な若ドラは、その後どこへ行ったってんだ?」



 (むし)ろそっちの方が気懸かりである。


 無害な年寄り(笑)を面白半分に追いかけ廻すような尊大ドラゴンなど、何処(どこ)へ行っても面倒しか起こすまい。ひょっとしてエルギン以外の場所で、大迷惑を引き起こしているかもしれないではないか。



「……こりゃ、本国のやつらに報せてやった方が良いな。俺たちはエルギン(ここ)に居座ったまんまで、どっか他所(よそ)に行ったかもしれんドラゴンの消息を調べろ……なんざ、どうやったって無理ってもんだ」

「(コクコク)」



 エルギンへ(おもむ)くに当たって、二人はモルファン情報部から、できるだけ地元とのコネを作ってくれと言われている。そういうのは畑違いだと抗議したところ、無理に挨拶(あいさつ)廻りをする必要は無いが、後続の者を送り込むに際しての受け入れ先となってくれ――と頼まれた。()わばエルギンに根を張るための、(きょう)(とう)()を築けという訳だ。

 要は後からやって来る者たちが、エルギンに居着くための口実になれというのだが、そのためには、敵愾心(てきがいしん)や反感は(もと)より不信や不審を抱かれるような真似はできない。聖人君子であれとまでは言わないだろうが、あまり人目に付くような真似は……少なくとも、一般的な「冒険者」の振る舞いから外れるような行動はできない。他所(よそ)でのドラゴンの出現状況を、根掘り葉掘り調べ上げるなど論外である。



「いや……ドラゴンのやらかしを聞いた以上、モルファンの人間として気になるから――って言い抜ける事もできそうだが……それにしたって限度があるよな?」

「(コクコク)」



 無言で、しかし大きく(うなず)くユーハブを見れば、アイハブの意見に同意しているのは(りょう)(ぜん)である。


 ともあれ、アイハブとユーハブは調べ上げた結果をモルファンの情報部に送ったのだが……ややして送られて来た返事には、



「……ヴァザーリに以前、水晶の骨で出来たドラゴンが現れてただぁ?」



 本国からはイラストリアにおけるドラゴンの出没情報(未確認のものを含む)が送られて来たが、その中に、四年ほど前にヴァザーリに現れてヤルタ教の教会を吹き飛ばしたクリスタルスケルトンドラゴンの情報があったのである。

 場所がエルギンから懸け離れているため二人には伝えられていなかったようだが、今回〝エルギン以外の場所におけるドラゴンの出没情報〟を請求した事への返答として、情報が送られて来た訳だ。

 (もっと)も、必要ならヴァザーリには本国から人員を派遣するので、二人が動く必要は無いとも言って寄越(よこ)したが。



「いや……行くつもりなんざ(はな)から無かったが……今頃になって訊き込みをやろうってのか?」



 既にヴァザーリからヤルタ教は撤退しているというのに、今頃話を蒸し返して、答えてくれる者がいるのか? ()して新年祭前のこの時期に。 



「そっちの訊き込みがモノになんなぁ、新年祭が明けてからって事になりそうだな。こっちゃそれまで温和(おとな)しく聴き耳を立てておくか」

「(コクコク)」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>なのでここの冒険者ギルドから依頼されたレベルより、もう少し詳しく調べたいのが本音なのだが、あまりあまり執拗に調査すると、不審を買うのが関の山だ。それは厳に戒められている。     あまりあまり執拗に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ