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1896/1897

第三百十七章 歳末浮世絵巻~新年祭を前にして~ 14.ノンヒューム~新年祭〝酒〟選定顛末~(その2)

 予想外の問題に、関係者一同頭を抱えたものの、冷静に問題を整理してみたところ、



「いや、酒を出すのも何を出すのも決まってるんだろ? ……熟成酒は出さないんだよな?」

「あぁ、あっちは本当に量が少ないからな。祭に出すのは無理だそうだ」



 クロウが教えた湖底熟成の方法は、既に発奮したノンヒュームの(とう)()たちが試験段階にまで持ち込んでいる。最初にワインを、その後に廃糖蜜から造った蒸溜酒を湖底に沈めているのだが、結果が出るにはもう少しかかるし、何より試験段階なので量が少ない。新年祭で民衆に振る舞うなど(もっ)ての(ほか)である。



「だったらよ、酒を出すのも何を出すのも決まってるんなら、問題になんなぁ何か決まってるじゃねぇか」

「まぁ……言われてみりゃ、そうか」



 要するに、〝果実酒をどういう形で提供するべきか〟――全ての問題は(ひとえ)にこの一点に()かっている訳だ。



「どうもこうもあるか。酒の量が増やせねぇなら、人数を限るか分量を限るかしか無ぇだろうが」

()して今年は、モルファンからも大勢来そうな気がするしな。……〝増やせない〟どころか〝足りない〟事を心配した方が良いかもしれん」

「そうなると……〝人数を限る〟手は使えんな。下手をすると……いや、下手をしなくても暴動になりそうな気がする」



 ――という訳で、一人当たりの提供量を減らすという方針が不可避的に決まる。



「飲ませる量が少ないってんなら……その、何だっけか……急性の酒精(アルコール)中毒? それになる危険性も下がるんじゃないか?」

「うむ。量が少ない分、しみったれ……じゃなくて……チビチビと飲むだろうからな。一気に酔いが回ってぶっ倒れるという事にはならんだろう」



 ちなみに、果実酒を薄めて提供するという案は、早々に却下されている。

 酒に対する冒涜(ぼうとく)であるという主張以外にも、薄めた場合は〝度数の高い酒〟というアピールポイントが使えないという指摘に、効果的な反論が出せなかったためである。


 また、回転率の悪化という懸念に対しても、



「量が少ねぇってんなら、どんだけチビチビ飲んだとしても、そう長くはかからんだろう。ジョッキ一杯のビールと同じくらいに収まるんじゃねぇか?」



 ――という、説得力(あふ)れる可能性が指摘された事で、懸念の度合いは大分低下した。これなら何とかなるのではないか?



「だが――果実酒にしても、そこまでの量が用意できるか?」

「仕込みに要する時間が長いからなぁ」



 在庫が(こころ)(もと)()くなったからと言って、即座に追加できないのは不安の種である。この問題をどうにかできないものか?



「いや……どうにか――って、どうにもならんだろ?」

「いや、待ってくれ。精霊術師(クロウ)様の伝書に何か…………あー、『カクテル』というのが書いてあるな」

「「「「「カクテル?」



 酒に果実を(長時間)漬け込む代わりに、酒に果汁(ジュース)その他を混ぜるという技法があるらしい。これなら何とかならないか?



「……つってもなぁ……果物の汁って、放っといたら酒になっちまう(はっこうする)だろ? マジックバッグにでも入れとくってのか?」

「もしくは火入れをするか……」

「いや、(そもそも)の話として――だ。肝心の『果物の汁』ってやつを、どうやって調達するつもりだ?」



 ある程度の量が確保できる果実でないと、充分な量の果汁(ジュース)は確保できないだろう。季節的な要素まで考慮に入れると、この時点で選択肢となる果実は大幅に減る。

 有力候補であるブドウやリンゴにしても、



果汁(ジュース)なんぞに廻すより、まずは酒に廻すわな」

「違ぇ無ぇ」



 ブドウやリンゴの果汁や破砕果実があれば、それは(あまね)葡萄酒(ワイン)林檎酒(シードル)の原料として消費される筈だ。カクテル用のジュースに廻す分など無い。……つまりは現実的ではない。



「……量に限りがあるって前提で売るしか無さそうだな」

「酷い事になりそうな気が……」

「……何か方法を考えよう」


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