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第三百十七章 歳末浮世絵巻~新年祭を前にして~ 13.ノンヒューム~新年祭〝酒〟選定顛末~(その1)

 さて――ノンヒュームの名声を高からしめているのは、菓子と酒の(そう)(へき)である。その一方の菓子チームが新年祭のラインアップで頭を悩ませているのならば、もう一方の酒チームも同じく頭を悩ませるのが道理である……かどうかは知らないが、酒チームが頭を悩ませているのは事実であった。それも、菓子チームに勝るとも劣らぬ難題で。



・・・・・・・・



 ――新年祭に新しい酒を出すかどうか。


 これに関して頭を悩ませる必要はほぼ無かった――出す事自体は既定の方針であったから。


 (そもそも)の話、ノンヒュームの酒チームが新しい酒を試作している事自体は、既に公然の秘密として、関係各位に周知されている。と言うか、そのための蒸溜器の製作をドワーフたちに発注しているのだからして、今更隠せる話ではない。それに加えて、モルファン使節団の歓迎パーティで「果実酒」を振る舞った件もそれなりに広まっている以上、隠そうという行為自体が無意味である。


 ――では、一体何が問題なのか。


 問題の根幹を突き詰めてみれば、今回出す〝新しい酒〟が「果実酒」というところにあった。その新奇な(・・・)特性が、色々と厄介な事態を招く事が懸念されたのである。


 まず第一に、今回初の御目見得(おめみえ)を果たす「果実酒」は、度数が高いくせに甘味が強いという、この国の酒の常識を(くつがえ)す代物であった。

 以前にも触れた事であるが、アルコール醗酵(はっこう)による酒の醸造とは要するに、酵母の力を借りて糖分をアルコールに変換する過程である。この場合、糖分(げんりょう)アルコール(さんぶつ)はトレードオフの関係にあるから、甘口の酒なら度数が低く、辛口の酒なら度数が高いというのがこの世界の常識であった――今までは。

 (しか)るにノンヒュームが提供する「果実酒」は、醸造酒そこ退()けの度数を誇る蒸溜酒(ホワイトリカー)に、果実と砂糖を漬け込む事で、甘味と風味をリカーに移すという方法で造られる。つまり甘味と度数が両立している訳で、こんな酒は今まで無かった。

 いや、蒸溜酒に砂糖でもぶち込んでやれば、一応前記の条件を満たす〝何か〟は作れるのだが、風味がしっちゃかめっちゃかになって、とても飲めたものではない。味を調(ととの)えるためにと果汁を混ぜると、元の蒸溜酒の味と果汁の味が喧嘩をして、風味の悪化に拍車が掛かったりする。八方お手上げの状況である。

 ところが、クロウが用意した「ホワイトリカー」は、薄めてはあるがほぼ純粋なアルコール溶液で、雑味どころか風味も何も無いため、果実の風味を損なう事は無い。それ単体では酒としての旨味を欠く失格品なので、或る意味ジョーカーとも言えるホワイトリカーの存在が気付かれる事は無かった訳だが……それはそれとして。


 甘味と酒精が共存するという事は、(いず)れを好む層にも望まれるという事で、それはつまり需要が大きくなる事に他ならない。

 その一方で、原料となるホワイトリカーは蒸溜によってアルコールを濃縮したものであるから、元となった醸造酒よりも量的には少なくなる事になる。

 需要が増えて生産量が減るのだから、これは面倒の火種以外の何物でもない。


 更に、甘い割に度数が高いという性質から、不用意に量を過ごすと急性アルコール中毒の可能性が無視できない。それを知らずに飲み過ぎた挙げ句、〝ノンヒュームが酒に毒を入れた〟などの誤解を()き散らされては(たま)ったものではない。


 (よし)んば正しい呑み方を周知できたとしても、今度は次の問題が控えている。

 即ち、蒸溜酒は度数が強いため一気飲みできない以上、チビチビと盃を傾けるしか無い訳で、それはつまり客が長尻になり、回転率が悪化する事に他ならない。()洒落(じゃれ)たバーとかならいざ知らず新年祭の、()けてもノンヒュームの屋台という場においては、これは看過し得ざる問題となる。



「いや、こりゃあ……どうしたもんかな」

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