第三百十七章 歳末浮世絵巻~新年祭を前にして~ 12.クロウ(その2)
『あの……主様、内陸国のイラストリアで、どうやってツナを手に入れるんですか?』
『いやほら、クリスマスシティーの試験航海の時、うっかりフォノブラスターで仕留めた分があっただろう?』
『『『『『あぁ……』』』』』
航洋型ダンジョン(笑)であるクリスマスシティーの初航海の時、身の程知らずにも喧嘩を売ってきたシーサーペントを撃退するのにフォノブラスター――ソナーの音響を最大限に上げてターゲットに叩き付けるもの――を使用したら、破壊力が大き過ぎて、周辺の魚を悉く巻き添えにした事があった。
以来使用には細心の注意を払うようにしているのだが、仕留めた以上は利用しないと勿体無いという事で、漁獲物は回収しておいた。しかし何しろ量が量なので、未だに消費しきれずに残っている。クロウはその利用を考えたようだが、
『初回はそれを渡すとしてもじゃ、次からの分はどうするつもりじゃ?』
ツナの訴求力に鑑みると、出したが最後、継続的な販売を求められる可能性が低くない。その場合の原料確保はどうするつもりなのか? まさか毎回クリスマスシティーで出漁するとでも言うのか?
『いや、そこはモルファンに話を持ちかければ――と、思っていたんだが』
『『『『『モルファンに?』』』』』
成る程。確かにモルファンは沿岸国の盟主を以て自認している大国であるから、船を出す事自体はできるだろうが、
『でもマスター、マグロって確か身焼けとかで品質が落ち易いから、解体と冷蔵の設備が無い船だと、無理なんじゃないですか?』
『そんなもん、マジックバッグがあればどうとでもなるだろう』
『……僭越ながら提督、貨物船や客船ならいざ知らず、漁船にマジックバッグを持ち込む事はほぼ無いと思います』
『一応は高価な魔道具ですから、あれ』
『むぅ……そうか』
帆船型ダンジョンのアンシーンから突っ込みを受けた事で、地球世界との違いを認識するクロウ。最初からマグロを狙っての船団ならともかく、普通の漁船がそんな高価な設備を備えているかどうか。
いや抑、こちらの世界でマグロは食用として漁獲されているのか?
『あー確かに、そっちを確認するのが先だったか』
『て言うか、何でそんな事言い出したのよ?』
『いやな、モルファンとの貿易摩擦を考慮してな』
『『『『『貿易摩擦……』』』』』
コロコロと話の主題が転がっていくため、眷属たちも話に蹤いて行くのが大変なようだが、要はこういう事らしい。
『菓子をはじめとするノンヒューム製品のあれこれが、周り中から資金を吸い上げてるだろう? 現状ではまだ問題視されていないが、今のままだと孰れ不平不満が募ってくるのは必至だろう?』
その前に、吸い上げた資金の一部なりとも還流させる仕組みを作っておこう……というのがクロウの考えであったらしい。
それに、モルファンが――言い方はアレだが――擦り寄って来ている現状に鑑みると、孰れ貿易不均衡の是正が論じられる公算は高い。なら、それに備えて種を蒔いておくのも必要ではないか。
『ぼーえきふきんこーのぜせー……』
『お考えは……解り……ましたが……』
『モルファンにぃ、マグロ漁業のノゥハゥってぇ』
『あるんですか? 主様』
『ぬぅ……』
下手をすると貿易不均衡を拡大する事になりかねない。そうなったら寧ろ藪蛇ではないかとの指摘には、クロウも――不本意ながら――同意せざるを得ない。まずはモルファン側の事情を確認するのが先だったか。
――という事で、眷属たちの中でモルファン情勢に詳しいメンバーに話を聞いてみたのだが、
『え? モルファンでツナっすか?』
『……見た事が無かったわね、そう言えば』
『少なくとも、酒場のメニューにゃありやせんでしたぜ』
『食料品を扱う店でも……』
『見ませんでしたね、そう言えば』
『……です』
カイトたちとハンスが挙って否定的な証言をした事で、クロウのツナ案は封印となった。まぁ、フライングして放出するリスクが回避できただけでも良しとすべきであろう。




