第三百十六章 道との騒動 8.クロウ(その1)
こういった緑道でのアレコレについては、クロウの許に逐一……とは言わないにせよ、それなりに詳しい報告がもたらされていた。
何しろ件の「緑道」自体、モルヴァニアの要請を受けて、「緑の標」修道会が技術的なアドバイスをした案件なのだ。関心を抱くのも道理というもの。
その後もそれとなく様子を窺っていると、妙な場所で工事を止めたかと思うと、ややして今度は野次馬臭い連中がちらほら現れるようになった。緑道に目を向ける者も少なからずいたが、彼らの狙いは工事を中断した先の荒れ地のようだった。中には鍬など持ち込んで、宝探しの真似事を試みる者もいたというのだから、これはクロウならずとも訝しく思って当然である。
(このまま物見高い野次馬どもが増えるとなると……)
事と次第によっては、シュレクとその近辺の村々が関わる密交易、延いてはシュレク村経済圏の構築にまで、好からぬ影響が出そうではないか。クロウとしては望むところではない。
あの目障りな野次馬どもを、どこかに追っ払う事はできないものか。
『でもマスター、実力行使は駄目なんですよね?』
『却下だな。村の交易を邪魔する訳にはいかん、ダンジョンのモンスターを出撃させてどうこうはできん』
――そうすると、打てる手は自ずと限られる。
『と言うか、ほとんど無いんじゃないの?』
『……こういう発言をものすのは、内心大いに忸怩たるものがあるが……遺憾ながらシャノアの言うとおりだ。即座に打てる手というのは思い付かん』
――ならば、中長期的にはどうなのか?
彼らの目当てが金らしいという事は、既に精霊たちの情報収集によって判明している。
クロウたちに解らないのは〝何処からそんな話が出て来たのか〟であるが、それはこの際措いといて、
『あいつら単に与太噺を面白がってるだけだからな。他に興味を逸らしてやれば、直ぐに下火になると思うんだが』
『金なんか無ぃ事ぉ、教ぇてやったらぁ、どぅですかぁ?』
『それをどうやって証明すんの?』
『それは……悪魔の証明と……いうやつ……では……』
『あの手の輩は、面白くない事実などに耳を傾ける事は無いと愚考いたしますが』
『マスター、本当に無いんですよね? 金鉱脈』
何しろ、地質的に金など産しない筈の「岩窟」に、砂金の漂砂鉱床なんてものがあったのだ。慎重になるのも宜なるかな。
『……少なくとも、地下水脈は通ってない』
それなら砂金の線は薄そうだ――と、取り敢えず納得する事にした眷属たち。
しかし問題は依然として残ったままである。
『騒ぎ自体はもう仕方がないとして、騒ぎの中心を北上させる事はできませんか?』
「怨毒の廃坑」のダンジョンコア・オルフの提案は、居並ぶ一同の意表を衝いた。確かにそれが可能ならば、少なくともシュレク村への影響は小さく抑えられるだろう。
しかし……どうやって?
『興味を惹かれる提案ではあるんだが……』
『具体策が……思い付きません……』
取り敢えずは保留にするしか無いとなると、
『ここは余計な真似をせず、温和しくしとるのが一番じゃろうの』
精霊樹の爺さまの意見を妥当なものとして、当座は静観の方針が纏まった……この時は。




