第三百十六章 道との騒動 6.モルヴァニア~国務会議~
……という噂が流れているのを知ったモルヴァニア国務会議の狼狽振りたるや、これはもぅ滑稽というのを通り越して、いっそ哀れと言えるほどであった。
そりゃまぁ、〝緑道を整備してノンヒュームの誘致を画策している〟なんてデマが広まったらどうしようと、それだけを懸念していたところに、まさかの〝モルヴァニア王国はマーカスとの国境で秘密裏に隠し金山を開発しようとしている〟などという、途轍も無い爆弾ネタが広まっているというのだ。驚かない方がどうかしている。
これまでは単に民心の不安定化――それだって軽く扱っていい問題ではないのだが――だけを懸念していればよかったのだが、ここへきて外交上の不発弾要素が加わったというのだから、そりゃ国務卿たちが頭を抱えるのも当然である。
根も葉も無い与太噺、いやデマに違い無いのだが、それを明確に否定するだけのエビデンスが――現時点では――存在しないという、厄介極まる事態であった。
「いや……本当に何も無いんだろうな?」
「深層の掘削調査まではしておらんから、断言はできん。しかし、あそこが農地として利用されている間に、それらしきものが出なかったのは事実だ」
「それと……我々に金山開発の意図など無かったというのも、な」
そんな意図など毫も無かったと誓えるが、その宣誓に説得力があるかどうかは別の話。信じてもらえるかどうかもまた然り。証拠が無いのが痛恨の極み。
「抑の話――だ。あんな思わせぶりな場所で工事が中断するのがいかん」
「しかし……あのまま真っ直ぐ伸ばすとしたらマーカスとの国境に至る訳だし、予算が心細くなってきていたのも事実だ」
「予算に関しては、財務に呑んでもらうしか無いな。一刻も早く工事を再開して、厄介な噂を駆逐せねばならん」
「臨時予算の編成しか無いか……」
面倒臭そうな表情で財務卿が呟いているが、
「面倒でも何でもやってもらわないと困る。財務の都合でマーカスとの仲をおかしくするなど以ての外だ」
――という外務卿の苦言が全てである。
おかしな噂を払拭して、民心の安定化を図るためにも、工事の再開は待った無しである。
「……それはいいが、ルートの設定はどうする? 最終的にはカルバラに繋げるといっても、工区から外れる場所は残る。そこに金山があるのだとか、態と金山を外すようにルートを決めたのだとか言うやつらが出て来るぞ、きっと」
「……もぅいっその事、真っ直ぐマーカスとの国境に延ばすか?」
「それだとマーカスとの折衝が必要になる。向こうが納得してくれるかどうかは別として 着工が何時になるか判らんぞ?」
「取り敢えずはカルバラへ繋げられるよう、ルートを設定するしかあるまい」
「将来的にはマーカスへと繋げる含みを持たせて、な」
何にしても、まずは現地を調査しなくては始まらないという事になり、即刻調査隊の編制に取りかかるべしという事が決まった。
しかし――そんな国務卿たちの思惑など一切斟酌する事無く、現場の方は既に初動を始めていたのである。




