第三百十六章 道との騒動 4.モルヴァニア~国民たちの声~(その2)【地図あり】
「あー……国が緑道の工事をおっ始めたのは何時だった?」
「確か……今年の春頃じゃなかったか?」
「その頃に何かあったっけな?」
「えーと……」
「緑道に関わるとしたらテオドラムだよな……」
「関税を値上げしたのがその頃じゃなかったか?」
「……あったな。そんな事が」
「行商人虐めって言われてたやつか?」
「それに対抗して、行商人をモルヴァニアに誘致する?」
「アラドが起点なのはそれで説明が付くが……」
「何で終点が砦なんだ?」
「そりゃアレだ。工事が中途で終わってるだけだろ? 予算が尽きたか何かで」
「いや待て。途中で予算が尽きる程の大掛かりな工事まで始めて、小身の行商人を誘うのが目的……ってなぁ、どうよ?」
「あー……確かに」
「……あ! あの頃って確か、テオドラムが北街道の整備を言い出した頃じゃなかったか?」
「あ……」
「……あったな。そんな事も」
商流の偏りを嫌っての事だというなら、国が大枚を投じるのも納得できる……
「いや……本当に納得できるのか?」
「街道の整備じゃなくて緑道の整備だぞ?」
「緑道単体で考えると微妙だが、大街道の補助として――というならありじゃないか?」
「う~む……しかし……」
「それにしたってよ、幾ら何でも大街道と離れ過ぎてやしねぇか? 軽く五十kmは離れてるだろ?」
「そりゃ……あそこに旧道があったからじゃねぇのか?」
「いや、それは整備する側の都合だろう。利用する側の都合じゃないぞ?」
「お上がそんな細けぇ事を考えるか?」
「「「「「う~ん……」」」」」
「説得力が有るような無いような」
「哀しい話だな……」
どう考えても問題は、最終的には〝何故、あの場所に?〟という点に収束する。であれば、この点を突き詰めて考える必要があるだろう。
――モルヴァニア王国は何故あそこに緑道を通したのか?
――予算を投入した以上、コストに見合うリターンを期待した筈。それは何か?
敢えて〝あのルート〟を通した理由は?
「……砦への補給、か?」
地理的な配置を考えるなら、一件そう取れなくもないが――
「――だ・か・ら、そんなら何で『緑道』にする必要があるんだよ?」
「それに砦への補給というなら、使えそうな道は他に幾つもあるだろう」
「エブロからの道を整備する方が、距離もずっと短くて済むしな」
[マーカス~モルヴァニア周辺地図]
こうなると、緑道の目的地が砦だとは考えにくい。寧ろ砦は、緑道への支援拠点として期待されているのではないか? つまり砦の有無を問わず、緑道があの位置にある事が重要なのだろう。
――では、〝あの位置〟にどんな価値がある? いや、〝何が〟ある?
百家争鳴が好奇心の糧となるのは人の世の常であるからして、この時も好奇心の赴くまま、天真爛漫にして傍若無人、言語道断な談論が風発していく。
こうなるともう仮説の妥当性とか信頼性とかではなく、「ネタ性」という新たなベクトルが重視されてくるのだが……幸か不幸か、当人たちはその事を自覚していなかったりする。世の中得てしてそんなものである。
で――そんな能天気な野次馬連の、更に与太噺の向かう先はと言うと……




