第三百十六章 道との騒動 3.モルヴァニア~国民たちの声~(その1)
さて――彼のラスコーをして瞠目せしめ、更にはモルファン情報部の諸紳士を途方に暮れさせたモルヴァニアの「隠し金山」とは、一体如何なる与太噺なのであろうか。
モルヴァニア国民の間に緑道に関する疑念が兆してから、ラスコーがエブロの町でその噂話に耳を傾けるまで、凡そ一ヵ月という期間があった訳だが……これは噂話がじっくりと熟成させられるには充分な時間であったようだ。
現地の声を拾いながら、その推移を追って行く事にしよう。
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最初に槍玉に挙げられたのは、抑の発端となったモルヴァニア王国による大規模な訊き込み作業、その〝不自然さ〟についてであった。
「国が大っぴらに聞き込みを行なった事で、緑道に注意が集まった訳だ。て事はよ、逆に言やぁ……」
「……国が訊き込みをやらなかったら、抑こんな騒ぎにはならなかった?」
「そういう事にならねぇか?」
「「「「「う~ん……」」」」」
その議論をもう少し先へ推し進めると……?
「……緑道に注意を惹き付けるために、敢えて大規模な訊き込みを行なった……?」
「そういう事にならねぇか? いや、少なくとも――だ、そういう見方をする事も、できようってもんじゃねぇか?」
「「「「「う~ん……?」」」」」
何だか無茶な想定のような気もするが、取り敢えずそう仮定して議論を進めてみよう。だって面白そうじゃないか?
「しかし、何のために?」
「そこなんだよなぁ」
面白そうな方向へ推論を進めるのはいいとしても、それが「推論」である以上は、或る程度の論理的妥当性が無くてはならない。王国だって〝何となく面白そうだから〟で、貴重な予算を投入したりはしないだろう。財務は目くじら立てて怒るだろうし。
「えーと、緑道に注意を惹き付けるって事は……」
「緑道を通る者を増やすのが目的だった……?」
「て、事は……」
「交通量を増やして、テオドラム国境の監視を手厚くさせるのが目的か?」
しかし何故、そんな迂遠な真似をする?
もっとダイレクトに監視網を構築すればいいではないか?
「それはあれだ。予算が下りなかったとか?」
「しみったれた話になってきたな……」
「いや待て。緑道の整備をする金はあったんだろう?」
「金欠が理由……って訳じゃねぇって事か」
「あー……えーと、アレだ。軍事行動じゃないって言い張るためとか?」
「テオドラムに対してか……」
ありそうな話と言えなくもないが、しかし……
「民間人に対する危険はどうなのよ?」
「生贄にされるなぁ勘弁してほしいぜ」
「いや……民間に危険が及ぶとすれば、それはテオドラムが作戦行動を起こした時という事になる。その段階ではどのみち開戦は秒読みの筈。それを考えると、監視のメリットは小さくない…………と、言えるのか……?」
屁理屈をこじ付けられなくもないが、どうにも不自然さは拭えない。それに、
「恒久的……と言うか、継続的な人の移動を期待するには、終点が砦というのは不自然じゃないか?」
「だよなぁ……」
「俺たちゃ砦なんかに用は無いからなぁ」
この線は一旦措いといて、他の筋から攻めてみよう。




