第三百十六章 道との騒動 2.モルファン情報部(その2)
「『緑道』についての不審点は、概ね次の二つに集約される。即ち、①なぜ歩行者の便宜を最大限に考慮した緑道を、②なぜテオドラムとの国境沿いに整備したのか。――この二点だ」
指摘された問題点を巡って、既にあちこちでものされてきたような議論が繰り返されたが、ここで贅言を重ねる事は避ける。
ただしモルファンの情報部員は、この問題に別の方向からスポットライトを当てる事を試みた。
「ノンヒュームとテオドラムの間に確執があるのは事実。それが何か関係したという事は考えられんか?」
「ノンヒュームが?」
これまで議論に上って来なかった「ノンヒューム」という要素。これが積極的な働きをしていたとしたらどうなるか?
「……だとしても、モルヴァニアがノンヒュームを危険な国境線に送り込む理由にはならんだろう」
テオドラムと険悪な間柄となっているノンヒューム。それが、場所もあろうにテオドラムとの国境の鼻っ先を、悠々然と罷り通って行くというのだ。テオドラムの感情を逆撫でするのは間違い無い。
「つまり……これはテオドラムに対するノンヒューム側からの挑発か?」
「正確には〝挑発〟と言うより〝嫌がらせ〟……なのかもしれんがな」
「ノンヒューム」が然るべき力を付けた今となれば、テオドラムに対してそういう挙に出る事もできるだろうし、その心情も理解できなくはない。しかし――
「……だとしても、なぜそれをモルヴァニアが主導する?」
「そこだな、問題は」
そりゃ確かに、モルヴァニアもテオドラムに好意的とは口が裂けても言いかねるが、だとしても態々炸薬の傍で、信管でお手玉するような挙に出る必要がどこにある?
どうも「ノンヒューム」という要素を組み込むと、話が支離滅裂にややこしくなるようだ。ここはもっと単純化した説明を採るべきではないのか?
「しかし、〝単純化した説明〟と言うが……」
「〝単純化した〟モデルで説明が付かないからこそ、議論が紛糾しているんだろうが」
――そりゃまぁ、〝ダンジョン村との塩の密交易〟などというぶっ飛んだ要素が絡んでいるんだから、それを抜きにした〝単純な〟説明が成り立たないのは当然である。
だが、ここで部員の一人から出された動議は、その事実に迫ったものではなく、
「いや……与太の中にあっただろう? 今回初お目見えの新ネタが一つ」
「アレ……かぁ……」
「いや、確かに新ネタではあるんだが……」
「どのみち我々が警戒すべきは、モルヴァニア王国の意向というより、モルヴァニア国民の動きだろう。なら、アレについてもこの場で議論しておくべきではないのか?」
「それは……確かにそうかもしれんが……しかし……」
「選りに選って『隠し金山』なんて……なぁ」
「マーカスだかテオドラムだか発祥のあのネタが、何でここに飛び火するんだ?」




