第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 10.特設ドラゴン探索隊(臨時編成)の結論【地図あり】
さて――クロウたちの困惑を他所にクレヴァス周辺での調査を終えたドラゴン探索隊(仮称)であったが、ドラゴンが居着いた様子は素より、一時的に滞在した痕跡も見当たらなかった事から、件のドラゴンは単にここを通過しただけだろうと判断した。
そうすると次に気になるのは、ドラゴンは何故ここを通るのか、またその頻度はどれくらいなのか、更にはその通過ドラゴンがこの地へ被害をもたらす可能性は如何程か――という事である。
そこで彼ら探索隊は次なる一手として、周辺の地形や景観などを観察した上で、冒険者ギルド備え付けの地図と首っ引きで検討した結果、次のような結論に至ったのである。
「ドラゴンがモルファンから来たんだとして……モルファンでのドラゴンの棲息地ってのは国の東側に当たるんだ」
クラブとペスコを前にして、モルファンにおけるドラゴン事情についての一齣を開陳しているのは、モルファンからやって来た冒険者二人組の一人、アイハブである。ユーハブの方は弁の立つ性格ではないらしく、アイハブの後に控えて黙って頷いている。
「自分の縄張りを作るためにそこから出てったとしたら……西はモルファンの町並みで縄張りなんか作れる場所じゃねぇし、そこを過ぎたら海しか無ぇ。北へ行くなぁ寒過ぎる。となると、進めるなぁ東か南って事になる」
アイハブが示すモルファンの地図――モルファン出身の二人組の私物――を眺めて、マナステラ出身の二人も頷きを返した。
[イラストリア (山脈表示)~モルファン周辺地図]
「東へ行ったやつの事ぁ措いといて、南下したドラゴンはどこへ行くか」
その〝東に進んだ〟先にあるマナステラ出身の二人としては、そんなに軽く流さないでほしいと言いたいところが……今は仕事が優先なのは解る。なので微妙な顔で頷くに留めておく。
「イラストリアで『神々の東廻廊』って呼ばれてる国境の山脈を越えるとイラストリアになるんだが……注意しなきゃいけねぇのは、ドラゴンは飽くまで〝自分の縄張りを作ろうとして〟やって来たって事だ。つまり――」
ここでアイハブは気を持たせるかのように言葉を切ると、クラブとペスコの顔を意味ありげに見つめた。
「……縄張りを作るのに向かない場所にゃ、最初からやって来ねえって事だ」
そりゃそうだろう――と言いかけて、改めて〝ドラゴンが縄張りを作るのに向いた場所〟というものに意識を向けるクラブとペスコ。
言うまでも無く、ドラゴンと言えば巨体で知られたモンスターである。という事はつまり……
「あぁ。木々の茂った森ってなぁ、やっこさんたちにゃ窮屈らしくってな。縄張りとしちゃあんまり好かれねぇのよ」
その言葉に改めて地図を眺め、次に遠くの山々に目を遣るクラブとペスコ。
視線の先にある「神々の東廻廊」なる山地は、一面深い緑に覆われている。
……アイハブの言を容れるならば、ドラゴンが好むとは思われない。
「あいつらが好むなぁ、山は山でも『岩山』ってやつだからな」
一方で、魔力の乏しい環境もやはり好まれないので、都市域に縄張りを構える事はしない。なら農村部はどうなのかと言うと、
「俺たち人間が討伐に動くのが煩わしいらしくてな。ドラゴンの視点で見ると、ネズミの群れが昼夜を問わずちょっかいかけてくるようなもんだ。ゆっくり腰を据える気にならんのだろうよ」
さて――そういう視点からドラゴンの動きを想定してみると、
「……山や町を避けて、しかも山からあまり離れねぇように飛ぼうとすると……」
「エルギン~モロー~シャルドの北東を飛ぶルートしか無ぇって事か……」
「そういうこった」
――成る程。ドラゴンがこの地を通過するのは、必然的な帰結であったようだ。




