第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 9.クロウたちの困惑
……とまぁ斯くいった次第で、ひょっこりクレヴァスに現れたクラブとペスコ他二名が、現在進行形でクロウたちを困惑させている訳である。
ただこの四人、クロウたちが密かに危惧していたように、「クレヴァス」周辺の魔力分布を調べるような事はしなかった。代わりにやっている事と言えば、地面の様子を調べたり、その合間に空を油断無く眺めたり……
『いつか来た、エルギンの、冒険者みたいですね。マスター』
『あぁ……あの因業な爺がしゃしゃり出て来た時か』
『確か、ドラゴンの痕跡を探しに来ていたのでは?』
『あの時はご要望どおりに「ドラゴン」を出してやったんだが……』
状況は限り無く似通っているが、なぜか登場人物がマナステラの冒険者である。なんでこういうキャスティングになったのか、いや抑、こういったキャスティングを望んだのは何者なのか。
その辺りの事情を知りたいのは山々なのだが……何しろこのクレヴァス、滅多に人がやって来ないものだから、諜報トンネルの整備が遅れていた。故に彼らの会話を盗聴するという定番の手法が使えない。
辛うじて聴き取れたのは、「ドラゴン」という単語のみであった。
『やっぱり「ドラゴン」関係ですか……』
何故かこのクレヴァスの辺りがドラゴンと結び付けられているようで、そこはかとなく不本意な思いを禁じ得ないクロウ。中二病のドラゴンはクロウの天敵である。
しかし……
『……マナステラの墓荒らしが、何でイラストリアのドラゴンを気にするんだ?』
解らないのはそこである。
ここでアイハブとユーハブの二人組が、モルファンの冒険者だと気付いていれば、また別の展開もあり得たのだろうが……神ならぬ身のクロウに、そんな事まで悟れというのが無理な相談である。
なのでこの時も「モルファン」という要素を抜きにして、代わりに「マナステラ」という要素を加えて推論を進める。
『マナステラとぉ、言ぇばぁ』
『やはりカタコンベの財宝でしょうか?』
『タイミング的にもキャスティング的にもそれっぽいが……』
「マナステラ」(もしくは「カタコンベ」)と「ドラゴン」と「クレヴァス」
ここからどういう三題噺が組み上がる?
一同う~むと首を捻る中、最初に答案を提出したのはハイファであった。
『ドラゴンは……財宝を……巣に溜め込む……習性がある……という……話を聞きました……が』
そう言えば、確かにクロウもそんな話を読んだ憶えがある。ただし地球の童話か何かで。
『……真実なのか?』
『少なくとも……子供……たちは……信じて……いるようです』
……ニュースソースはハクとシュクだろうか? それはともかく、
『二匹目の泥鰌を狙っているというのか? しかし……あいつらの力量じゃ、ドラゴン相手は無理じゃないのか?』
「カタコンベ」での動きを見た限りでは、そこまでの凄腕とは思われないのだが。
『ひょっとして、ロスト・ダンジョンの話を聞いたんじゃないですか? 主様』
『あぁ……ドラゴンの巣穴跡地を狙って……』
『巣穴の跡地って……そんなもんがあるのか?』
『いえご主人様。ここは真実有るか無いかより、あの者たちがそう考えたかどうかが問題なのでは?』
『それは……そうか』
『少し離れたモローには廃ダンジョンがあった訳ですし、クレヴァス周辺も狙い目だと思ったのでは?』
『いや……モローの廃ダンジョンって、ロムルスとレムスの前身の討伐ダンジョンだろ? あれはロスト・ダンジョンっていう程古いもんじゃないぞ?』
『でもクロウ、あそこって元々何かの遺跡だとか言ってなかった?』
『う~む……』
もしもドラゴンの古巣狙いだとしたら、クレヴァスの入口である岩の割れ目に目もくれなかった理由も解る。だって、どう見てもドラゴンが潜り抜けられそうではないし。
今一つピンとこない部分もあるが、然りとて明確に否定するだけの材料も無い。取り敢えずはこの仮説に従って動くべきか?
……となりかけたところで、もう一捻りした新説を言い出したのがレヴ、即ちクレヴァスのダンジョンコアであった。曰く――
『新顔の二人が粘着してくるのを、適当な事を言って追い払おうとして、却って引っ込みが付かなくなった……というのは無いでしょうか?』
『『『『『あぁ……』』』』』
確かにこれもありそうな話だ。
ではさて、二つの仮説の何れであるとしても、
『暫くは温和しくしておるしか無いじゃろう』
精霊樹の爺さまの意見が当を得たもののように思われたが、そんな月並みに満足するクロウではない。
『もしくは、他の場所にドラゴンを出現させて、そっちに注意を向けさせる――かだな』
『こやつはまた……碌でもない事を思い付きおって……』




