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第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 7.エルギン冒険者ギルドの事情(その1)

 オズワルトの一行が(つつが)()くエルギンに着いたところで、クラブとペスコの護衛依頼は予定どおり完了となる。そして、フェントホーフェンから同行して来たモルファンの冒険者、アイハブとユーハブを名告(なの)る二人組も――オズワルトの誘いを振り切って――同じくここで離脱となった。


 クラブとペスコにアイハブ・ユーハブを加えた四人組が、諸手続のために冒険者ギルドを訪れたところで、物語の新たな幕が切って落とされた。具体的には彼らに対して、冒険者ギルドからの依頼が出されたのである。



「何、依頼ったって大したもんじゃねぇ。こっから少し離れた場所を、ちょいとばかり見てきてほしいのよ……ドラゴンの痕跡の有る無しってやつをな」



 薄々お察しの向きもあろうが、これはモルファンの情報部が同じくモルファンの冒険者ギルドを通して、エルギン冒険者ギルドに持ちかけた依頼であった。その内容はギルドマスターの弁のとおり、ドラゴンの痕跡を探る事。もう少し詳しく言うならば、(モルファン原産の)ドラゴンがこの地を襲ったという事情の確認である。

 老いた行商人がドラゴンに襲われたというが、そのドラゴンは当該の場所に居着いた形跡があるのかどうか、それとも単に通りがかっただけなのか。モルファンの関心はそこにあったが、最初からそこまで詳しい調査が必要な訳ではない。まずはドラゴンの痕跡の有無、その確認から始めるべき。

 なのでギルドマスターの言うとおり、最初は〝ちょっと見て来る〟だけでいいのだが、それを態々(わざわざ)他所(よそ)者の四人に頼む理由は、



「生憎とエルギン(ウチ)の連中は皆出払っててな。依頼を出す相手がいねぇのよ」



 実際にはモルファンから言い含められている訳だが、冒険者が出払っている云々(うんぬん)というのも(あなが)ち嘘ではない。新年祭の宿の予約を取るべく、冒険者連中が(こぞ)ってバンクスに出向いているため、ギルドは(かん)()(どり)の鳴きそうな状況になっているのだ。発注しようにも相手がいないのは事実であった。

 ちなみに、モルファンからの依頼はアイハブとユーハブの二人組を(くだん)の調査に差し向ける事であり、クラブとペスコについては何の言及も無かったのだが、調査の人手があって悪い事は無いだろうと、ギルドマスターの現場判断で採用する事に決めたのである。まぁモルファンの情報部にしても、クラブとペスコがエルギンで離脱する事までは予測できなかっただろうし、意識からまるっと外れていたのも無理はない。


 ()くの如く、この依頼は直接にはモルファンの密かな要請を受けてのものであったが、冒険者ギルドもそれだけでこんな調査依頼を出した訳ではない。ギルドにはギルド側の事情というものがあったのである。



・・・・・・・・



 問題の発端は時折仕事を頼んでいるコーツという行商人の老人が、ドラゴンに襲われたと喚きながら冒険者ギルドに駆け込んで来た事にあった。

 いや、それより前に、エルギンの北東から怪しの雷鳴が聞こえて来たのが発端なのかもしれない。


 正体不明の雷鳴が発生したと(おぼ)しき場所を、GIS(まが)いの手法で特定しようと試みたところ、エルギンの北東約六十キロ(クレヴァスのあたり)の場所が怪しいという事になった。そこで若手の冒険者を差し向けて調べさせたのだが、何ら異常は見つからなかった……その時は。

 ところがそれから二ヵ月ほど経って今度はコーツ老人が、(くだん)の場所でドラゴンに襲われたと駆け込んで来たのである。後日その辺りに――用心しぃしぃ――冒険者を差し向けてみたが、それらしき痕跡は見つからなかった。しかし、コーツ老人は冒険者ギルドでそれなりに信頼を得ていたのと、少し前に怪しの雷鳴が轟いたという複数の証言があった事もあり、冒険者ギルドは(くだん)の辺りを接近非推奨に指定せざるを得なかった。


 問題なのはこの場所(クレヴァスのあたり)が、エルギンから山手の方に向かう道のど真ん中に位置していたという点であった。エルギンの冒険者が山地へ食材や素材のアレコレを調達に行く際の、主要ルートが閉ざされたのである。

 別の場所を通る()(かい)路は勿論あるのだが、そっちはクレヴァス経由より足場が悪い。野外活動に慣れた獣人やエルフの冒険者が採集に行ってくれるので、今のところ素材の調達に不自由はしていないのだが……問題なのは、そこまで悪路に慣れていない駆け出し冒険者の仕事が無くなったという事なのであった。

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