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第三百十五章 「クレヴァス」を巡る幾つかの事情 6.モルファン情報部の奔走~クラブとペスコの事情を添えて~(その2)

 成る程――と、クラブは納得がいった。何しろ契約早々に、積荷の内容は無論の事、イラストリアから来たという事もできるだけ口に出さないように――と言い含められたのである。

 幾ら高価な荷を積んでいるからと言って、用心の度が少し過ぎているのではないかと内心で(いぶか)っていたのだが、警戒していたのが盗賊ではなく同業者であったと聞いて、そういう事かと得心したのであった。



「万一露見した場合は、積荷は全て予約済みという事にするつもりだ。勿論(げん)()は取らせないし、尻尾(しっぽ)も掴ませないつもりだけどね」



 おっとりとした見かけによらず(したた)かな手腕に、クラブは内心で舌を巻いていたが、ふと気が付いた事があった。

 ノンヒュームの製品がそこまで熱望されているなら、じりじりと入荷を待つ事無く、自分でイラストリアへ(おもむ)こうとする者が現れてもおかしくない……どころかきっといるだろう。何しろ数ヵ月先には、ノンヒュームが美食を携えて到来する新年祭が控えているのだ。それ目当てにバンクスやサウランド、リーロットといった開催地を目指(めざ)す者もすくなくない筈だ。それはいい。

 ただ……出立前に聞いた話が事実だと、期間中に飛び込みで宿を取るなどできる訳が無い。モルファンの商人たちはそれを知っているのか? 知らない公算が大きいのではないか?



「多分ね。ただ、リーロットは最初から期間中の宿泊施設を強化して町が整備されたという話だし、バンクスには迎賓館(げいひんかん)があるからね」

「迎賓館……?」

「要は国外からの来賓(らいひん)()()すための国の施設だよ。国営なだけに民間の商人なんかにそうそう便宜は図らないだろうけど、モルファン王国の紹介状か何かあれば別だろうね」



 迎賓館の離れはアナスタシア王女用に確保してあり、建物が違うと言っても同じ敷地内に滅多な者を近付ける訳にはいかない……などという当局側の事情は、オズワルトの(しん)(しゃく)するところではなかったようだ。



「はぁ……ひょっとして、そのネタも『商品』って事ですかぃ?」

「察しが良いね。迎賓館の件はモルファン上層部も承知しているだろうけど、受け容れ可能な人数にも上限があるだろうから、国として積極的に周知はしていない筈さ。だからこそ……」

「この情報は金になるって事ですかぃ」



・・・・・・・・



 オズワルトの一行がカレの町に投宿したその夜、モルファン情報部の一室に、緊急報告を手にした伝令が駆け込んで来た。



「どうやら(くだん)の商人は、フェントホーフェンを目指すようです。複数の筋から確認が取れました」

「よし! ()ぐにでも手の者をフェントホーフェンへ向かわせろ。そこでその商人に接触を図るんだ。何なら商業ギルドの伝手(つて)も使え。貸しの一つや二つ使い潰しても構わんから、何としてもウチの工作員(エージェント)を潜り込ませろ!」



 モルファン情報部におけるこの作戦の責任者は、そこで一旦言葉を切ると、大きく息を吸い込んで次の台詞(せりふ)を発する。



「いいか。王国の興廃はこの一件にあると思え! モルファン王国は各員が一層奮励努力する事を望んでいる。以上だ!」

「「「「「はっ!」」」」」



 上官の(はっ)()が功を奏したのか、フェントホーフェンにおける工作は順調に進んだ。

 オズワルトが取引を(もく)()んでいると(おぼ)しき地元の商人を洗い出し、あれやこれやの伝手(つて)(しがらみ)恫喝(どうかつ)、更には泣き落としまでもを駆使して説得(きょうはく)に成功。

 〝イラストリアへ行ってみたいので、道案内を頼めるのなら超格安で護衛を引き受ける〟という、半ば真実に近い口実で、息のかかった冒険者をオズワルトの護衛陣に潜り込ませる事に成功する。(もっと)も、オズワルトにこの件を呑ませるために、護衛の増強を図るに相応(ふさわ)しい「値打ち物」を、不自然でない形で手に入れられるよう仕込んだりもしたが。


 ちなみにクラブとペスコの二人は、エルギンで護衛任務を終了する契約になっている。これは、予定ではモルファンからイラストリアへ戻って来ても、新年祭にはまだ日数がある事が原因であった。

 クラブとペスコの二人にしてみれば、新年祭の混雑に(まぎ)れて王都イラストリアへ潜り込む事を画策している以上、それまでの間はイラストリア国内に留まる必要がある。しかし一介の冒険者として、のんべんだらりと手持ち無沙汰に日を送る訳にもいかず、何か依頼を(こな)して時間を潰す必要に迫られていた。

 ところが、王都は(もと)よりバンクスの辺りでも、護衛以外の依頼は少ない上に、良い狩り場と言えるほどの場所も無い。となると、王都からそこまで遠くはなく、しかも周辺にそこそこの狩り場・採集場があるエルギンは狙い目という事になる。


 オズワルトの方にしても、イラストリア国内なら商会お抱えの護衛だけでも充分という心積もりがあったため、この契約に同意したのであった。

 しかし、思いがけなくもフェントホーフェンで掘り出し物の入手に成功したため、護衛の数が減るというのが(いささ)か心細くなっていた。エルギンで追加の護衛を雇うか――と思案していたところなので、新たな護衛が増えるのは大歓迎なのであった。


 (もっと)も、できればそのまま王都まで護衛をしてくれないかと打診された工作員(エージェント)――アイハブ・ユーハブと名告(なの)る二人組――が困惑し、密かに上層部にお伺いを立てるという一齣(ひとこま)もあったりしたのだが。



 ともあれこういった次第で、クラブとペスコの二人はエルギンの町を訪れたのであった。

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