第三百十三章 そこは緑道(グリーン・ロード) 4.モルヴァニア~何かが道をやって来る~
憖モルヴァニアが国内のあちこちで聴き取り調査を行なったのが、ものの見事に裏目に出て、あちらこちらの住民が「謎の緑道」について関心を抱くようになっていた。
「解んねぇのはだな、何で態々そんな手間をかけて、あんな旧道を整備したかってとこなのよ」
「「「「「う~ん……」」」」」
――というように、当にモルヴァニアが抱いてほしくない懸念を口にする者もいれば、その答えとして国務卿たちが案出した説明を持ち出す者もいた。
「いや、『緑道』を整備するなら、そりゃ歩道だろう。なら、車の往来の少ねぇ旧道の方が都合好いんじゃねぇか?」
「あー……そういう事は言えるか」
「いや……だとしたらだぞ? お上の狙いはあの旧道の整備じゃなくって、道路緑化の技術習得って事になるぞ?」
「えーと…………って、事は?」
「国中の道路がその『緑道』に変わる訳か?」
――そんな事はモルヴァニア当局も望んでいない。
「ありがたいような、そうでもないような……」
「……税金が上がったりしないだろうな?」
「それな」
……などという不安を抱く者もいれば、
「しかし……国の目的が技術習得にあるとしてもだ、何のメリットも無い道を緑化したりはせんだろう」
「あの細道の緑化には、それ相応の理由があると?」
「言われてみれば……」
「あの細道はどこへ続いているんだ?」
「それが……最終的にはカルバラに繋げるらしいんだが、今は途中にある砦で工事が止まってるそうだ」
「砦?」
「何でも、テオドラムにできたダンジョンを見張るためのもんらしい」
「あー……じゃあ、テオドラムとの国境に近い道を選んだのは、その見張りのためか?」
「それも、何だかなぁ……」
「う~ん……」
国務卿たちが懸念したとおりの不審を抱く者もいた。
しかし……中には、国務卿たちが想像もしなかった結論を捻り出す猛者たちもいたのである。
「態々国境近くの道を緑化した理由? んなもん、テオドラムのやつらが襲うのを躊躇うような、そんな強者が通る分にゃ問題無ぇだろうが」
「テオドラムが二の足を踏むような連中ってか?」
「てぇと……冒険者、いや冒険者ギルドか?」
「あとは――ノンヒュームの団体とかかな」
「「「「「ノンヒューム!?」」」」」
〝ノンヒュームを招く〟というところまでは、国務卿たちが懸念していたのと同じだが、その招聘先が「砦」である上、同じ招聘候補として冒険者ギルドの名まで上がっているから、話は壮大にややこしくなっている。
しかも、招くに当たって緑道の整備まで実施するというのだから、これは並みの気の使いようではない。一体どんな目的が――と、好奇心は弥が上にも募っていく。
そして更に――
「ノンヒュームを引き入れるってのがありだとしてもだ、何で起点がアラドなんだ?」
「うん……?」
「言われてみれば……」
これがノンヒューム人口の多いマナステラや、或いはノンヒュームの活躍著しいイラストリアだというなら話は解る。しかし、実際の緑道の起点はアラド。マナステラともイラストリアとも遠く隔たっている。
「いや……それで思い出したんだが……少し前に、ノンヒュームが沈没船から古酒を引き上げたって話があったろう?」
「あぁ……それが?」
「いや……その時にな、〝どこの海から〟引き上げたのかって揉めた……っつうか、盛り上がった事があったろう。憶えてねぇか?」
「あー……そう言やぁ……」
「……あったな、そんな事が」
昨年の夏、ノンヒュームの提供になる「古酒」が世俗の話題を席捲していた頃、その出所を巡って様々な憶測と激論が交わされた事があった。出所についてはノンヒューム自身が〝沈没船からのサルベージ品〟だと明言しているのだが、そのサルベージの現場が目撃されていない事から、この説明に疑念を抱く者もいた。
そして――そういった疑念を解消するために捻り出された様々の怪説の中に、〝サルベージの現場はイスラファンやアムルファンよりずっと南の海〟というものがあったのだ。
悪い事は重なるもので、「南」というキーワードから更に余計な事を思い出した者もいた。
「そう言やぁ……ノンヒュームたちが売ってる砂糖、あれも本来は南国で穫れるもんらしいな」
――という感じで、ノンヒュームの主力商品のうち二つまでが、「南方」と縁浅からぬものである事が判明する。これに「ココア」と「チョコレート」まで加われば無敵の陣容である。
そして――「謎の緑道」の起点とされているアラドは正に、〝イスラファンやアムルファンより南〟に位置している……
「祖国のお偉方……南方からノンヒュームを招き入れるつもりなのか?」
「だが……どこへだ? アラドを起点とするってんだから、そっから行ける場所の筈だぞ?」
「最終的にはカルバラに繋げるらしいんだが……」
「……が?」
「今の段階で繋がってる先は、国境近くに建てられた砦だな。テオドラムが悪さしないように、国境を監視してるそうなんだが……」
「『砦』か……」
「あぁ。『砦』だ」
・・・・・・・・
これより少し先の事になるが……
〝モルヴァニアは南の地に住まうノンヒュームから古酒と砂糖を入手し、それを国境監視砦に秘匿する事を計画している〟……という、噴飯ものの与太噺が、其処彼処で真しやかに囁かれるようになった。
少し考えればおかしな話と解る筈なのだが、ちょっと聞いただけでは筋の通った話に思える事、そしてこの「ノンヒューム誘致策」が、テオドラムが招いたという「他大陸の商人」への対抗策だと言い出す者が現れた事が、この怪説に斜め方向からの説得力を与えてしまい……結果としてこの話は、国民たちに面白おかしく受け止められ、受け容れられ、広まっていく事になる。




