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第三百十三章 そこは緑道(グリーン・ロード) 3.モルヴァニア~オークの細道~

 さて――テオドラムが誤解の果てにおかしな行動を採り、クロウがその意味を掴みかねている頃、もう一方の当事国であるモルヴァニアでもまた動きがあった。


 ()の国にとって(もっ)()最大の懸念となっているのは、〝あの明らかに歩行者の便宜を考えた「緑道」は、モルヴァニア当局がノンヒュームの露店を誘致するために整備した〟――と誤解される事である。

 テオドラムとの火種になる訳ではないが、国民におかしな期待を植え付けて、しかもそれが事実無根だと判明した日に国民がどんな反応を示すか……考えただけでも頭が痛い。


 厄介な可能性に頭を抱えていた国務卿たちであったが、やがてこの考えでも説明できない矛盾点が残っている事に気が付いた。


 ――〝ノンヒュームの露店を誘致するにしても、なぜその先が監視砦なのだ?〟


 途方に暮れた国務卿たちは、とにかく確定した情報無しでは話にならないと、緑道に対する国民の意識や反応を探るべく、それとなしの聴き取り調査を全国規模で実施した。

 その結果判明したのは――



(そもそも)アラドの住民以外は、緑道の事に気付いていないというのか?」

「うむ。全員が全員そうだという訳ではないが、()()べてそういう傾向が見られるらしい」

「う~む……」

「我々の懸念は()(ゆう)だった訳か……」



 ――そう、ここで話が終わっていれば、〝()(ゆう)だった〟〝取り越し苦労〟だったで済んだであろう。

 だが――このところこの世界に常駐した観のある「ドラマの(あくま)」が、そんな生緩(なまぬる)い展開を()とする訳が無い。

 モルヴァニア王国首脳陣は、その事をもう少し自覚するべきであった。



・・・・・・・・



「『緑道(グリーン・ロード)』? 何だそりゃ?」

「いや……俺も()く解らんのだが……何でもアラドから……こう北東の側に、カルバラの近所を目指(めざ)す細道があるらしいんだな」

「……大街道じゃなくってか?」

「その奥にある細道らしい」

「……待てよ? そりゃもうずっと前に使わなくなった旧道じゃねぇのか? テオドラムのやつらがちょっかい出しそうで危ねぇから――ってんで」



 ここで(ひと)(くさり)「旧道」についての経緯を述べておくと、あれは大昔に自然発生的に形作られた古道である。

 その後、「旧道」に沿う形で農地が整備されていった結果、道路の拡幅が難しくなった。そのため旧道の東側に、より大規模な幹線道路を新たに整備した。これが現在の「大街道」である。幹線道路の整備に伴い、人の行き来はこちらへ移ったが、旧道はその後も農道として利用され続けた。

 ところが、隣国テオドラムとの関係が焦臭(きなくさ)くなるにつれ、侵攻に備えて国境際の用水路は閉鎖、農地も放棄された。

 皮肉な事に、農地が放棄された結果、道路の拡幅も可能になったが、既に旧道はその存在意義を失っていたため、安全性を理由に閉鎖されて今に至っている。ちなみに、最後まで残っていた町もこの時に放棄され、建材などは持ち去られた。

 その跡地に建てられたのが、現在の「国境監視砦」である。



「それそれ、その細道よ」

「……で、その細道がどしたってんだ?」

「それがだな……お(かみ)大枚(たいまい)(はた)いてその細道を、歩き易いように整えたってんだ」

「はぁ? 使う(もん)もいなくなって(さび)れた筈の、あの旧道をか?」



 ……という具合に、聴き取り調査の実施がものの見事に裏目に出て、(かえ)って住民の関心と不審を掻き立てる結果になっていたのだ。

 ――こういうのを俗に〝寝た子を起こす〟と云うそうである。



「でな、こっからが本題なんだが……その細道の〝整備〟ってのが、道幅を広げるとか地面を(なら)すとかじゃなくってな、街路樹を植えて木蔭を作ったんだと」

「……あ?」

「何だそりゃ?」

「さぁな。それもだ、街路樹ったって適当な木を植えたんじゃねぇ。冬になると葉っぱが落ちる、落葉樹ってやつを態々(わざわざ)(あつら)えたんだとよ」

「落葉樹?」

「あぁ。何でも――夏は木蔭を作り、冬は葉を落として日射しを遮らねぇように……とか何とか言ってたな」

「へぇ……」

「お(かみ)も色々と考えてるもんだな」

「あぁ。何でもナラ(オーク)を植えたそうだけどな」

「オークの細道――ってやつか」


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