第三百十三章 そこは緑道(グリーン・ロード) 2.クロウ
クロウはテオドラムの意図を判じかねていた。テオドラムは何を考えている?
テオドラムがシュレク砦の建設を再開したというのは、完成後の砦を奪取せんものと目論むクロウにとっては確かに朗報だが、
(こんな中途半端な時期に、しかも目立たぬよう少しずつ工事を再開するなど……一体全体どういうつもりなんだ……?)
これが年度末とかなら、クロウも〝余った予算の消化〟だろうと察しを付けたかもしれないが……豈図らんや、今は会計年度の半ばである。
年度の途中で予算が確保できなかったというなら、切り良く次年度から始めるのが普通であろう。こんな中途半端な時期に、中途半端な規模で始めた理由は何か。
急いで取りかかる必要があったというなら、作業がゆっくり進められているのはどうしてか。考えられる理由としては、
(目立つのを嫌ったという事か?)
国境を挟んで対峙しているモルヴァニアの動きを念頭に置いて……というのは考えられなくもないが、
(……それだとモルヴァニアは、この動きを予想していないという事にならんか?)
モルヴァニアに対して動きを隠すという事は、モルヴァニアがテオドラムの動きを予測していない場合に最大限の効果を発揮する筈。そしてモルヴァニアが何らかの行動――例えば緑道の整備――によって、テオドラムのこの反応を引き起こしたのだとすれば、それを予測していないほど愚かだとは思えない。
という事は、テオドラムはこの件に関わっていないモルヴァニアを、徒に刺戟するのを避けたという事になり、それは即ち……
(……テオドラムにこの動きを取らせたのは、モルヴァニア以外の何かだというのか?)
その場合、真っ先に容疑者として挙げられそうなのはクロウである。クロウ自身もその点に異論を唱えるつもりは無い。
が……幾ら我が身の行ないを省みても、原因となりそうな心当たりが無い。
テオドラムが突然こんな挙に出たからには、その原因もここ暫くの間に発生したと考えるのが普通である。だが、クロウがここ暫く関わっていたのはマーカスだ。
確かにマーカスは、テオドラムにとってもモルヴァニアにとっても隣国ではあるが、当のマーカスをそっちのけにして、テオドラムとモルヴァニアが睨み合うような事態を引き起こした憶えも心当たりも無い。
強いて挙げるとするならば、シュレク村の塩の密交易がテオドラムに露見した場合だろうが……
(しかし……それだけで、こんな一触即発みたいな事態になるか?)
これでモルヴァニアがマーカスから塩を買っていたというなら、そういう展開もあり得たかもしれないが、
(砒素の件でテオドラムの岩塩が売れなくなったのは、もう二年ほども前だろう。今になってその話を蒸し返すのか? それもモルヴァニアだけを相手にして)
塩の密売買に関わっていたのがモルヴァニアだから――という説明も付けられなくはないが、
(……だとすると、肝心要のシュレク村――今は「ダンジョン村」という名前の方が通りが良い――に、テオドラムがちょっかいを出してこないのは何故だ?)
村のバックに就いている「怨毒の廃坑」の介入を嫌った、恐れたという事はありそうだが、だとしたらダンジョン村の周辺の村々に対して、訊き込みすら行なっていないのが不自然である。




