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第三百十三章 そこは緑道(グリーン・ロード) 1.テオドラム

 最初にその報告が届いた時、クロウは()して気にも留めなかった。テオドラムの兵士どもが、シュレクの砦に手を入れている?

 テオドラムが応急的に砦を建ててからかれこれ二年。そろそろ(にわか)()(しん)の不具合が表面化してもおかしくない頃だ。修繕を始めるのも当然じゃないのか?


 しかし、その後もひっそりと改修が続き、補修用の資材がこれまたひっそりと運び込まれているという報告を聞くに及んで、クロウも可怪(おか)しいと感じるようになった。……テオドラムは一体何を考えている?



・・・・・・・・



 ――(そもそも)の事の始まりは、モルヴァニアがテオドラムとの国境沿いに整備した「緑道」である。


 テオドラム領内のシュレク村との密貿易を誤魔化すためという、妙ちきりんな理由で整備に着手した緑道であったが、何しろ単なる思い付きを〝これしか無い〟と思い定め、深く考えずに推し進めた(かん)の強い計画であったから、時を経るに従ってその矛盾点が露呈するようになってきた。

 モルヴァニア側も(おそ)()きながらそれに気付いて頭を抱えたが、そのモルヴァニアの隣国であるテオドラムも、負けず劣らず首を傾げていた。あんな場所に緑道など(こしら)えて、モルヴァニアは何を考えているのだ?


 (そもそも)の始まりからおかしな方向へ迷走していたモルヴァニアの緑道整備計画を、真っ当な軍事的観点から評価しようとしたのだから、これは二重におかしな結論にしか至らない、至るしか無い。


 (あん)(じょう)と言うかテオドラムは――


〝これは徒歩で移動する商人の便宜を図ったものに違い無い〟

〝軍事拠点への補給物資で、なおかつ小規模な商人でも取り扱える品目となると、軍需物資ではない筈だ〟

〝軍需物資以外の、()わば日用品を運び込むための道路を()くも念入りに整備するからには、モルヴァニアは砦の兵員増強を企図しているか、もしくは国境を挟んでの対峙が長期間に及ぶと判断している事になる〟

〝結論として、モルヴァニアは監視砦の強化に舵を切ったと見る他無い〟


 ――という、見事に見当違いな判断を下す。その結果、


〝モルヴァニアに開戦の意図が有るにせよ無いにせよ、こちらとしても相応に兵力を強化せざるを得ない〟――という決断に至る。

 ……まぁ、妥当と言えば妥当な結論ではある。


 ただ、年度半ばに突然の出費を要請された財務部は、青天(せいてん)霹靂(へきれき)とでも言うべき難局に苦慮する事となった。

 何しろここ数年というもの、タイトロープのような予算執行を強いられ続けているのだ。予備費なんて贅沢(ぜいたく)なものは、()っくの()うに消え果てている。何処(どこ)の誰が何と言おうと、其処(そこ)に無いなら無いのである。


 しかし〝(きゅう)すれば通ず〟と云うのか、それとも〝神が扉を閉ざした時には、どこかの窓を開けておいてくれる〟と云うべきか、ここに()し込んだ一条の光明があった。



「……予算の事は一旦()くとしても、今ここであからさまにシュレク砦の強化に走った場合、モルヴァニアを()(げき)する事にならんかね?」

 


 モルヴァニアとは(いず)れ白黒を着けるとしても、開戦の準備も整っていないこの時期に、敢えて火中の栗を拾う必要がどこにある?



「むぅ、それは……」

「確かにそうなんだが……」



 目立たぬように作業を行なうというなら、人員や資材の手配も目立たぬようにやらねばならない。それは軍部の兵站(へいたん)や動員の計画を容易にすると同時に、財務にも優しい選択になる。八方円く収まるではないか。


 財務の甘言……もとい、提案に軍部が乗った事で、当座の方針と計画が決まる。本年度は目立たぬように砦の強化を進め、本格的な強化は次年度以降、それもモルヴァニアの動きを睨んでという事になった。


 そのせいで、クロウが事態に気付くのも遅れた訳だが……


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サブタイトル、相変わらずの懐かしさ。
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