【2-1】:熱狂度と小人のオッサン
新たに案内された部屋は広い空間だった。
中央をロの字型で囲うように、長机と椅子が並んでいる。
「こちらで詳細をお話しします」
「あっちの部屋より随分広いね」
「打ち合わせ用ですから」
快が中を見渡し、各自が椅子に腰掛けていく。
加納の説明に、快は納得したように小さく頷いた。
「それに、スクリーンがあるのはこちらの会議室ですので」
加納が向ける視線の先を全員が追う。前方の壁には、巨大なスクリーンがかけられていた。
「へえ、用途ごとに部屋が変わるのか」
「流石大企業のNOXUSだね。こんな部屋まであるなんて……」
煌が相槌を打ち、快は圧倒されたように呟く。
だが、悠人はメインのスクリーン――ではなく、スクリーン横の椅子に腰掛ける置物をじっと見つめていた。
「なあ、このオッサンみたいなマスコット、何だ?」
「……失礼ですが、彼はマスコットではなく学者の先生です」
加納がすかさず訂正する。
「は?」
そこには、白衣を着た、小人のような老人がちょこんと座っていた。
「わし、人間じゃぞ」
「うお!? 喋った!?」
驚きに声を上げ、後退りする。
「……んで、何でその学者のオッサンがいるんだよ」
目を凝らし、学者を訝しげに見つめる悠人。
「ですからオッサンではなく……いえ、今はもういいでしょう」
独りごちるように加納は呟き、スクリーンのスイッチを入れた。
「こちらの学者の先生からお話がありますので、皆さんよく聞いてください」
全員が座ったのを確認し、加納が言い含めるように声をかけた。
「……では、先生、お願いします」
「ふぉっふぉっ、ええよぉ。そんじゃ、まずこっちじゃな」
学者はモニター下の機材に入っているディスクを、リモコンで再生した。
すると、画面に出てきたのは――。
「キェェエエイ!!!」
――カキン!
大御所俳優による時代劇だった。
「「………」」
無言の四人に学者は呑気に笑い声を上げる。
「……おろ? ああ、待ってる間に見ておったやつじゃった」
「おいおい、大丈夫かよあのオッサン……」
「ボケてる訳じゃないんだよな……?」
悠人が不安そうに呟き、煌が訝しげに学者を見つめた。
だが、学者は何事もなかったかのように笑いながら、リモコンの操作をし画面を切り替える。
「何だろ、この画面……」
「地球と……巨大な砂時計の立体図か?」
「ふむ、そうじゃ」
漣の回答に学者は満足気に頷き、指示棒で画面上のあるものを指し示した。
「世界には砂時計があるんじゃが、これは皆知っておるな?」
「おう」
「熱狂度が上がれば砂が満ち、世界の平和は維持されると言われておる」
「……それで。それとアイドルグループの契約の話が、一体どう関係すんだよ」
悠人は加納に視線を向けた。
「このNOXUSエンターテイメントは、国家と手を組み資金が援助されています」
「は?」
素っ頓狂な悠人の声。
ざわつくメンバーの気配。
「いきなり国って、急に話が飛んだね」
困惑気な顔で快は画面を見つめた。
「噂は本当だったのか……」
漣の呟きに、悠人は驚きの目を向ける。
「……何だ?」
「いや、お前が普段から人の話そんな聞かねーのに、珍しいと思って」
「たまたま聞こえただけだ」
溜息混じりに漣が呟く。
悠人は納得したのか、説明の続きを促した。
「そして君たちはまだ未完成で不安定ながら、熱狂度が上がるかもしれない。というデータが出たんじゃよ」
学者がそう言いながら画面を切り替える。
そこに映るのは、細かな数値やグラフ、そして羅列された文字の数々。
「うおっ、細すぎんだろ」
「多分、熱狂度の計測グラフか?」
悠人たちは首を傾げる。
すかさず加納が、眼鏡を押し上げながら補足した。
「貴方たちが活動をしていたBLACK CROWNというバンドはヴィジュアル系ですよね」
「おう。見た目も中身もゴリゴリのV系だな」
「快なんて、一番分かりやすい格好してるんじゃない?」
「えっ、俺?」
「ロン毛だし、髪黒いしな」
「それ言うなら、煌のピンクブロンドの方がだいぶ分かりやすくない?派手だし」
三人の会話が横から入る。
「……コホン」
加納の咳払いで会話がピタリと止まる。
「あっ、悪い悪い」
「……続き、お願いします」
三人は決まり悪そうに声を潜めた。
「今までの楽曲やヴィジュアル系特化の音楽ではなく、表現法の変化です」
「発想の転換ってこと?」
「ええ、そうですね」
快は僅かに顔を顰めた。
「そうすれば、さらに莫大な熱狂度を叩き出す可能性がある。……と、このデータ上で予測されたのですよ」
「はあ!?」
驚きに大声を上げる悠人。
快と漣は黙り込み、煌は苦々しい顔を浮かべていた。
悠人は一度唇を噛み締める。
だが、震える拳を握りながら、椅子を倒す勢いで立ち上がった。
――バンッ!
「俺たちBLACK CROWNだって熱狂度は上がってたろ!!」
悠人が怒りに声を荒げ、両手でテーブルを叩きつけていた。
「熱狂度を維持し推進すべく我々の企業はある。それが我々が貴方たちと契約する条件です」
「だから、知名度も技術もあった」
荒い息を吐く悠人。
「それに、熱狂度だってあったんじゃねーのかよ」
「ええ、そうですね。現在のBLACK CROWNでも一定の熱狂度は生み出せています」
「なら、アイドルじゃなくてこのままの形でだって良いだろ!」
「ですが、今の貴方たちが作る音楽は、我々の求める熱狂度を生み出す形ではないのです」
悠人が加納を睨みつける。
緊迫した空気が場を包んだ。
「ここじゃな。ほれ、このグラフを見たら分かるじゃろ」
そこへ学者が説明を補足するように声を出し、指示棒でモニター画面のグラフを差した。
とある月のライブのデータ。
そこには、上下に揺れる波があった。
「……熱狂度の、振れ幅がデカすぎる?」
煌の指摘に悠人がハッと気付いたように目を見開く。
それに対し、加納は一度深く頷いた。
「我々は貴方たちを真っ向から否定する気はありません。貴方たちの可能性に期待と関心を大いに持っています」
一拍置き、言葉を続けた。
「ですが、今の形態のままでは、我々が求める安定した熱狂度を生み出すことはできないのです」
加納は怯む事なく、淡々と告げた。
「だけど……っ!」
――ピロン。
不意に、機械音が鳴った。
「……あ、レア装備」
「! ……ふふっ」
漣のゲーム機からだった。
そのタイミングに、快は耐えきれず肩を震わせる。
緊迫感のない二人の様子に、悠人の怒気が僅かに揺らいだ。
「……お前らも、話聞け??」
ジト目で悠人が、最年少組を見つめた。
「聞いてるよ」
「ん」
「ふぉっふぉ」
学者の笑い声に、悠人の肩が落ちる。
(コイツら……この状況、ちゃんと分かってるのか……?)
悠人は一抹の不安を表情に滲ませた。
次回▶︎
本日20時に【2-2】まで投稿予定。
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