【2-2】:葛藤と決断
「別に、そう深刻に考える話じゃないだろ」
「は? お前、何言ってんだよ」
困惑げに悠人は首を傾げる。
煌の冷めた口調に、意図が分からず複雑そうな顔を向けた。
「加納さん。先にこの二人に分かりやすく説明してやって」
注目を集めるよう、煌が指先でテーブルを二回叩く。すると、最年少組の肩がピクリと反応を見せた。
「俺が説明するより、ちゃんと分かりやすく伝わると思うからさ」
煌の声掛けに加納は数秒沈黙した後に、ひとつ頷いた。
快と漣が加納に視線を向ける。
「そうですね。……まず、快さん」
加納は、快に顔を向けた。
「何?」
「アイドルとして活動するにあたり、貴方のメリットは数点あります」
快は不思議そうに首を傾げる。
加納は理由を挙げながら、指を一本ずつ立てた。
「衣装やスタジオにかける資金が増えます」
「……うん」
「世界観がより貴方の作りたいものが作れる可能性があります」
「俺の、作りたい世界観……」
「そして、別の角度からの学び……つまりは表現の幅が増えます」
「やる」
快は瞳を輝かせ、真顔で一度深く頷いた。
「あっさり釣られてるじゃねーか!」
即答する快に悠人が短く声を上げた。
一つ役目を終えたと判断した加納は、続いて漣へと顔を向けた。
「次に、漣さん」
「……何すか」
ゲームから視線を離さない漣。
だが、加納はそのまま言葉を続ける。
「うちにはゲーミング部門の活動者が多くいます」
「……ああ」
「そして、ゲーム会社との提携も幅広く行っています」
ピクリ、漣の肩が僅かに揺れた。
「将来的にタイアップという事も、可能性としてはあります」
「よろしくお願いします」
ゲーム機を膝に置き、スッと会釈をした。
「手のひら返し早くね!?!?」
「……というのも有りますが。活動自体は安定して行えるというのが最大のメリットでしょうか」
「ああ、それならいい」
加納と漣の独特なやり取りに、呆気に取られる悠人。
「ふぉっふぉ」
学者の笑い声が、耳に残り続けた。
「この二人の例で分かっただろ? 今までの俺らはただのアマチュア。ちゃんとレーベルと契約も結べてないからコネクションも何も無い」
煌の現実的な指摘に、悠人は唇を噛んだ。
「だからゴネてるのはお前だけ。分かった?」
「……お前は、それでいいのかよ」
「俺? レコスタも独自にある。更には認知度も増やしやすい、ギターも変わらず弾ける」
「けど、音楽の方向性は変えるんだぞ!?」
「俺たちの音楽が消える訳じゃないだろ」
「そりゃそうだけど!」
「じゃあ、それの何が良くない訳? ……お前、熱くなりすぎてるんじゃない?」
煌の指摘に、頭にカッと血が上る。
「良くねーよ!!」
悠人は拳を自身の太腿に押し当て、椅子から立ち上がった。
「ここまでブラクラとして積み上げて来た音楽、全部塗り替えられるって事だろ!?」
冷静な面持ちの煌に、悠人が噛み付くように吼えた。
「俺はアイドル契約辞めるぞ!!」
場の空気が凍りつく。
そして、煌が鋭く刺さるような視線を一瞬だけ悠人に向けた。
「っ、なんだよ」
たじろぐ悠人を真っ直ぐ見つめ、煌はゆっくりと口を開いた。
「お前が契約辞めるなら、俺たちも契約辞めるけど?」
「……は?」
ぽかんと口を開き、固まる悠人。
「お前、忘れてる? 最初に俺は言っただろ。このメンツだったら俺は入ってやるって」
「だから、それはバンドの話だろ」
「いい? これは単純な話じゃない。良く考えろ」
煌が真っ直ぐと悠人を見つめた。
「さっきのデータ、見ただろ? つまり、今のまま活動した所で俺たちはバンドを続けても先が見えない」
「……っ、けどさ!」
「だから、その為の延命処置。NOXUSに居れば、俺たちの音楽、まだ続けられると思わない?」
煌の言葉に悠人はハッとしたように煌を見つめる。
「だから契約を辞めるってことは、事実上ブラクラを終わらせるって事。……お前、そこまで考えて言ってる?」
悠人は唇を噛み俯いた。
重くなる空気。
「……うん。煌の言う通り、俺たちは今のままじゃ多分、無理じゃないかな」
だが、その沈黙を破ったのは、快だった。
「それに、さっきの説明にもあったけど、アイドルとして活動することも表現を磨くことには繋がるよね」
快はゆっくりとした口調で、悠人に告げる。
「俺は、この四人だから一緒にバンドをやってる。だから悠人が契約辞めるなら、俺も辞めるよ」
「快、お前……」
思いがけない快の言葉に、悠人は声を震わせた。
「契約はどっちでも構わない」
すると、不意に漣が声を出した。
「……だけど、いちいちメンバーを探すのも非効率だろ」
淡々と告げる合理的な言葉。だが――。
「お前、自由にゲームしてても何も言われない今のメンバーが楽なだけだろ」
煌の鋭い指摘に、漣は視線をゲーム画面に逸らした。
――ピコ。
「いや、お前。今のそれはないだろ……」
肩を落とす悠人に、快が小さく笑った。
「漣も本当は皆と一緒にやりたいって言いたいだけ。まあ、学校の時もいつもこうだったしね。……あ、照れてる?」
「うるさい」
笑みを浮かべる快に、何かを言おうと口を開きかけた漣。
その耳元が微かに赤いことを、誰も指摘しなかった。
「で、お前はどうするつもり?」
頬杖を付き見上げる煌と、悠人の視線が交わった。
「やるの? やらないの?」
決断を促す言葉に、悠人はストンと椅子に腰を掛け直す。
「……やる。俺たちの音楽、まだ届けきれてないだろ」
悠人が静かな声で漏らした。
「俺はアイドル契約するし、バンドの解散なんか絶対させねえ!!」
「それに、こんな中途半端なとこで投げ出せるかよ!!」
声を張り上げ、悠人は力強く叫んだ。
三人の表情が安息にそっと緩んだ。
「はい、これで決まりましたね」
これまでのやり取りを静観していた加納が、注目を集めるように一度手を叩く。
その音に全員の視線が向けられた。
「先生もご説明ありがとうございました。それでは次は、活動方針や詳細を説明しますね」
「ふぉっふぉ。……熱いのぅ」
学者は一言呟くと、会議室を出て行った。
「ああ。その前に一度、社内の案内をします。皆さんついて来てください」
「……また移動か?」
「社会科見学みたいで、ちょっとワクワクするね」
「何言ってるんだか……ほら、忘れ物ないか?」
最年少組の世話を焼きながら、煌が立ち上がり、加納の後に続く。
悠人は三人の背中を見送るように、その場に立ち尽くしていた。
全員が当たり前のように受け入れている空気。
悠人の首筋に、嫌な汗が滲んだ。
(……もしかして、熱くなってたの、俺だけだったのか?)
静まる会議室に、言葉が虚しく落ちた。
そこでやっと、悠人は自分の頭が熱くなっていたのを自覚した。
――その沈黙を破るように、廊下の向こうから声が響く。
「何グズグズしてんの、悠人」
「早く行こ?」
「あ、レアゲット(ピコピコ)」
「……お前ら、なんでそんな早く順応してんだよぉぉ!!」
そう叫ぶと、悠人は慌てて三人の後を追い掛けた。
次回▶︎
定期更新:金曜の20時。
ページ下部の『☆や♡』で、評価・応援していただけると、
世界の熱狂度が上がります。
面白いと思っていただけたら、ポチッとお願いします。
お読み頂き、ありがとうございました!




