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【熱狂維持指定バンド】STARDUST NOISE ―元V系バンド、アイドルになる―  作者: 雪見もち子
第2章:スタノイ始動編

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【4-2】:事故でしかないキャラ設定

「それと、皆さんはアイドル設定として年齢も変わります」


「はあ?んだそれ。また詐欺かよ」


「詐欺ではなく設定です」


「似たようなもんだろ……」


 悠人が呆れ混じりに呟く。

 加納は視線を悠人から外し、快と漣へと向けた。


「先ずは快さんと漣さん」


「……おい、快」


 漣に頭を小突かれ意識を戻す快。

 漣が顎向けた先を快が見た。


「貴方達は十九歳のままです。そこは変わりません」


「え?何が……?」


「……アイドル時に使う公式年齢の設定だ」


「ふーん。分かった。いいよ」


 あっさりと頷く快。

 興味無さげな漣。

 二人の反応に、加納は一つ頷く。


 そして、眼鏡のブリッジを上げた。


「続いて、煌さん」


「何?……なんか、不穏な予感しかしないんだけど」


 眉を眉間に寄せ、加納を見つめる煌。


「貴方は二十三歳の設定です」


「はあ!?どう考えても無理だろそれ!」


 煌の手元にあるタバコが折れた。


「つーか、この企画書書いたの誰? 冴木って人、マジで何考えてんの?名前は覚えておいてやる……っ!」


 悠人はソファ端へと身を寄せた。


「まあ、気持ちは分かるけどさ。落ち着けって、煌……」


 煌は二本目の煙草を取り出す。

 周りは静観し、見守っていたが――。


「俺、もう二十八なんだけど!?」


 煌が怒りと動揺に席から立ち上がる。

 ポキリ、と二本目のタバコが折れた。


 煌はぶすくれた顔のまま、ソファに座り直した。


 快と漣は静かに見守る。

 しかし、悠人だけは憐憫の視線を向けていた。


「煌が五歳のサバ読みか」


「なあ、それってメイクで、誤魔化せるか……?」


「写真なら、加工すればワンチャンあるんじゃない?後はメイク次第だね」


「元から顔は綺麗めだから、行けるだろ」


「身体はまだ若い方だしな」


「けど、五歳のサバ読みは、正直ヤバすぎて笑える」


 好き勝手に言う三人に、煌はぎろりと睨んだ。


「大丈夫です。うちのメイクはプロですから」


「それはそうだけど。……マジで言ってる?」


「いけます」


「……はあ。まあ、考えても仕方ないか。……分かった」


 煌は渋々頷き、深く溜め息を吐いた。


 ゲラゲラ笑う悠人。

 震える肩を隠せない快。

 漣は同情の目を向けていた。


「そして最後に悠人さん」


「おう」


「貴方は21歳です」


「……は? いや、俺、二十五だけど」


「けれど、差はない方でしょう?」


「まあ、三十代目前よりはダメージ低めだな」


 頷く悠人。


「おいコラ、聞こえてんぞ」


 煌の鋭い返答。


「ぷっ、ぷふ……っ、……」


「……まあ、あいつに比べたらな?」


 漣と快は静かに笑った。


「はい、ではここまでで、質問はありますか?」


「俺はなし!」


「うん、他には特にいなさそうだから、大丈夫」


 各々が目配せし、確認を済ませた。


「そうですか。では続きまして」


「まだあんのかよ……」


「貴方たちはヴィジュアル系からのアイドルですから、知識も無いでしょう?」


「まあ、それはそうだな」


 悠人が腕を組みながら頷く。


「決める事いっぱいあるね」


「んじゃ、このガキどもが飽きる前に説明よろしく」


「漣に至ってはずっとゲームしてっけどな」


「いつもの事でしょ」


「コイツだけ、ブレないよな……」


悠人と煌は、主に精神的な疲れで項垂れながら彼らの様子を伺う。


「快さんは、元々ミステリアスな売りでしたが、そこは変わらずです」


「ああ、うん、分かった」


「でも、耽美寄りでは無く、あくまでも悲愴感や神秘性……そう、憂いです」


「憂い……?」


きょとんとした顔の快が加納をみつめた。


「……いや、無理だろ」


「大丈夫なの?それ、設定ミスってない?」


「コイツ、ゲラだぞ」


「そうなんですか?そのようには見えませんが……。」


 煌が快と目を合わせ、真面目な顔付きで問いかけた。


「快、『モノノフ式部』と言えば?」


「モノノフ、式部……。」


 快の脳裏に、悠人のとある珍回答が蘇った。


「……っ、ふ、……くっ」


 震えながら口元を押さえる快。


「そのネタ、随分前じゃなかったか……?」


 漣が呆れたような視線を快へチラリと向けた。


「『モノノフ式部』、ってワードが強すぎるんだよ。」


 煌は、やれやれと肩を落とした。


「もう、その言い間違えネタ止めろ。擦りすぎなんだよ……。」


 悠人が羞恥を超して、諦めの境地に達していた。


「いえ、これは……いけます」


「無理だろ!?」


「私は貴方たちの担当になりました」


「そうだな?」


「味そして、私の本業は、マネージャーです」


「ああ。それは分かってるけど……」


「ですが、貴方たちをプロデュースする力はあります」


「それ、マネージャーの仕事なのか……?」


「……たぶん、違う」


 加納の眼鏡フレームがキラリと光る。

 そして、加納が動いた。


「快さん、そこで耐えて!無言です!」


 震える快が口を閉じる。

 だが、まだもごもごと口元が動いていた。


「唇を噛み締めて、涙を堪えるように視線を斜め下へ!」


 唇をキュッと噛み締め、視線を床へ落とした。


「……っ……」


 快の表情は、まるで『何かの悲愴を耐える、儚げな少年』のような顔をしていた。


 快の背後にはキラキラと無駄にかかるエフェクト。

 ふわりと舞い落ちる白い羽根。


 悠人はギョッとし目を何度も擦った。


「素晴らしい……! これです。この『何か深い悲しみを背負ったような憂い』こそが、貴方のコンセプトです」


「おい待て、それただ笑いを我慢してる時の顔だぞ」


 げんなりとした顔の悠人。

 その後ろで溜息を零す煌と漣。


 加納だけが可能性を感じ生き生きとした顔で、静かに拳を握っていた。


「貴方は今、退廃的な世界にいるのではなく、楽園…そう、神聖なパイプオルガンが鳴る聖堂、ステンドグラスに天使です」


 快の隣に立ち、肩に手を置いたまま語りかける加納。


 その言葉に悠人は天啓を受けたかのようにハッとし、真剣な顔で呟いた。


「神聖……白い、翼……。……ハッ!つまり、エデンってことかっ!!」


「悠人、お前まで乗るなよ。」


 ズレた悠人の回答に、煌がすかさず言葉を返した。


 しかし、悠人のワードに、快の中にある美学が刺激され、快の顔がスッと変わる。


「楽園……白亜の、門……。」


 憂いを帯びた伏せがちの瞳。


「白い薔薇に、静謐な聖堂……。」


 震える肩を両手でかかえ抑え込む。


「……世界の祝福。そう、それは鐘の音……?」


 それは、まるで誰にも届かない祈りを表現するかのような風貌……。

 快はミステリアスで神秘的な美少年の姿に移り変わった。


「何か、ビジュ端正になってね?」


「アイツ、たまにああ言う所があるから扱いにくい……。」


 悠人と煌がぼやき、漣は我関さずと視界にすら入れていなかった。


 どっぷりと自分の世界に浸る快が、瞼を伏せ小さく肩を震わせた。そしてーー。


「違う、これは……っ。」


 快の目が、カッと見開いた。


「ああっ、これは、嘆きの声だ……ッ!!」


 快の背後に、突如後光が差し込む。


「……何言ってんだ、アイツ。」


「さあ……?」


 そんな様子を悠人たちは距離を保ったまま、生温い視線を向けていた。


「本来ならばこのようなセリフも耐えてほしい所ですが。……まあ、今は良いでしょう」


「良いのかよ!雑だな!」


 悠人の短いツッコミが室内に響いた。


「続いて漣さんですね。」


 加納の言葉に、悠人と煌の視線が漣に向けられた。


「設定は、……変わらないですね。」


 資料を読み上げた加納が短く告げる。


「コイツだけ適性高くないか……?」


 煌が漣に呆れ混じりの目を向けた。


「なんかコイツだけずるい」


 悠人は細くなった両目で漣を見つめる。


「……。」


 二人からの圧を感じる視線を受けた漣は、一瞬だけ目線を上げる。

 だが、無言のまま視線を逸らし、再びゲームを続けた。


「では、続きまして。三人目の設定は、煌さんですね。」


 加納は手元の資料を捲り、次の議題を話し始める。


「煌さんは女型でしたが、今度は正統派王子様キャラです」


「王子様……ぷっ」


 加納の言葉に快は意識を戻した。

 その反応を見て呆れた眼差しを快へと向ける煌。


「まあ、それならいけるんじゃない?要はもっと輝けって事だろ」


 そして、先ほどとは違いすんなりと受け入れた。


「ポジティブ過ぎね?」


「だって俺、やった事あるし」


「あー、ブラクラ前のバンドか」


「そうそう。あの時そっち寄りだったから」


「忘れてた」


 悠人と煌が言葉を交わした。


「そして、悠人さん」


 最後に、加納が悠人へ視線を上げた。



「……なんか、すげー嫌な予感すんだけど」


 悠人の眉尻がピクリと上がる。

 片足を半歩だけ後退させた。


「貴方は元気で明るい愛されリーダーです」


「はあ!?!?」


 悠人の叫びに、三人はサッと耳を両手で塞いだ。


「そして、性格は真逆。可愛い系で行きます」


「無理だろ!!無理無理無理ッ!!!」


 早口で叫びながら、必死に首を振る。


「大丈夫です。訓練時間はまだありますから」


「そういう問題じゃねーだろ!性格真逆じゃねーか!!」


「あと喋り方も、もっと丁寧にしてくださいね」


「だー!!嘘だろ、おい……」


 圧をかけるような笑顔の加納に、悠人がしおしおと項垂れた。


「まあ、頑張れ」


「……どんまい」


 煌と漣が憐憫の目を向けた。


「無茶苦茶過ぎるだろ……っ!」



――そして、翌日。


 悠人は指定された美容院に行き髪色をオレンジに変え、髪型も整えられた。

次回▶︎定期更新:金曜の20時。


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