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【熱狂維持指定バンド】STARDUST NOISE ―元V系バンド、アイドルになる―  作者: 雪見もち子
第2章:スタノイ始動編

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【3-3】:結婚願望と現実の世知辛さ

 悠人たちは昨日見たテレビやニュースの話、そしてバラエティ番組に関する話題へとコロコロと変えながら食事を進める。


 加納がそんな四人のやり取りを見ながらペットボトルのお茶を手にした時、煌の視界の端に銀色の光が映った。


「へえ、加納さんって結婚してるんだ?」


「……ああ、はい。結婚して6年ほどですね」


「いいね、待ち受け画面は奥さんとか?」


 悠人と漣の二人が黙々と弁当を食べる中、煌と快の二人は加納へ興味津々だと言わんばかりの視線を向ける。


「ええ、奥さんと子供の三人家族なので、二人の写真を待ち受けにしていますよ」


「加納さんのお子さん、気になる……」


 エビチリを一口咀嚼しながら快がふと呟く。

 加納はその言葉にピタリと箸を止め、短く沈黙した。


 そして、箸を弁当の上に置くと、スーツの胸ポケットからスマホを取り出し操作し始める。


「そう言えば、加納さんっていくつになんの?」


「37になります」


「へえ、意外。もっと若そうに見えるのに」


 端末を操作する合間、煌と加納は雑談を交わす。

 快は加納の手元をまじまじと見つめながら、期待にそわそわとしだした。


「まあ、期待されるほどのものではないのですが……」


 写真を見つけた加納が画面を表示させ、二人に見やすいようテーブルの上に置いた。

身を乗り出すように二人は画面を覗き込む。


 悠人は正面にいる三人の様子を時折眺めながら、口いっぱいに唐揚げを頬張り、漣はカップサラダに手を伸ばしていた。


「わ、娘さん可愛い。小学生前だよね?」


「来年から小学生ですね」


「姉さんのところの子はまだ2歳だから、こうしてみると大きく感じるな……」


「快の姉貴っていくつだっけ」


「22歳だよ。二十歳で産んだ子なんだよね。今は実家に戻ってきてるみたい」


「育児とか大変そうだよな……」


 煌はしみじみと声を落とし、手元の箸で鮭を切り分けて口に運んだ。


「漣はお兄さんいたよね?」


 不意に快に声をかけられ、漣はピタリと箸を止める。

 そして、どこか苦虫を噛み潰したような表情で頷いた。


「……ああ、兄が二人だな」


「そういや、漣って末っ子だっけか?」


「うちは三兄弟全員男だな」


「いいじゃん。俺一人っ子だし、そういうの分かんねえや」


「でも上にも下にも居ないと気楽だけどな。小さい頃は兄貴とか欲しいって思ったっけ」


 悠人は空になった弁当を前にし満足そうに腹を摩り、その横にいる煌がどこか懐かしむように静かに呟いた。


「あー、なんか食べ物の奪い合いとかよく聞くし」


「うちは姉さんがおっとりタイプだから、むしろ色々くれた方だなあ……」


「へえ、なんかそれ、快の姉ちゃんって感じする」


「お前、会ったことないだろ……」


「あと漣はなんか、兄貴がしっかりしてそう」


「ああ、それは分かる」


「それで、兄貴たちと歳が離れてるとか」


「ああ、あれだな。末っ子を猫可愛がりするタイプ」


「それが、今はこんなゲーム廃人に……」


 煌と悠人の流れるような噛み合いの良い会話が繰り広げられる。

 それにツボが入ったのか、快はペットボトルを持ったまま、耐えるように指先に力を入れ全身を震わせた。


「お前ら、好き勝手言いやがって……」


 静かに怒りを滲ませた低い声が、漣から漏れる。


「まあ、でも加納さんのところはこうはならなそうだし、良かったね」


「おい」


 肩を揺らしたままチラリと視線を上げた快が漣を見ると、漣は短く睨み返した。

 そんな二人のやり取りを見ながら、加納は眼鏡のブリッジをそっと押し上げた。


「……まあ、そう、ですね」


「あ、そこは否定しないんだ」


「俺だって嫌だよ、自分の子供がこんなだったら」


 冗談混じりに告げる煌は、喉を潤そうとペットボトルの蓋を開け、口元に付ける。


「そう言えば、煌は結婚しないの?」


――ピタリ。


 煌の動きが止まる。

 そして、口元からペットボトルを離すと膝上にボトルの底を当て、何処か遠くを見つめ出した。


「あれ……?」


 全身から哀愁が滲みだす煌の姿に、快がきょとんと目を丸くする。


「快、察して差し上げろ」


 悠人は訳知り顔で快に向かって静かに首を振った。


「どうせ俺は……音楽馬鹿で口煩い男だよ……」


 俯きながらブツブツと愚痴を垂れ流す煌に、ワンテンポ遅れて事態を把握した快は苦い笑みを浮かべた。


 そんな二人を見比べ、悠人は空気を変えるようにのんびりとした口調で快へ言葉をかける。


「まあ、快はその点、今も平和だよな」


「……ああ、うん。こまちさんが優しい人だからね」


 悠人が優しく笑いかける。

 快はどこかほっとしたように笑みを返した。


「そういう悠人はどうなんだよ。最近彼女できたって言ってなかったか?」


 すると、項垂れていた煌がため息混じりに悠人へ矛先を向ける。


「あー、一昨日別れた」


「はあ? お前、半月くらい前から一緒に住んでたんじゃなかったのかよ」


「なんて言うか、アレだ。生活面での方向性の違い……みたいな?」


「音楽の方向性で解散したみたいに軽く言うな、馬鹿……」


 あっけらかんとした物言いの悠人に、煌は呆れを滲ませた半目で見つめる。


「……そう言えば、アイドルって恋愛禁止じゃないのか?」


 昼食を摂りながらガヤガヤと賑わう控え室に、漣の静かな疑問が落とされた。


 その瞬間、ピタリと動きを止める三人。

 加納に視線が集まる。


「そこは表沙汰にならないなら特には規制していませんよ。ただ、ご結婚される場合やトラブルの際は事前にご相談ください」


 あっさりと返された言葉に、三人はホッと安堵の息を漏らした。


「NOXUSは案外厳しくないのか」


 漣は興味なさげに呟き、ハンバーグの最後の一欠片を口にした。


「熱狂度さえ維持出来れば特には困りませんから。それに、社長がそういう方針ですので」


「ああ、NOXUSの社長、変わり者だって言うしね」


 快の言葉にふと記憶が呼び出された悠人は、腕を組みながら唸り声を漏らした。


「んー、なんだっけ? あれ、キラキラスパンコールのクソダサシャツに、ウエスタンブーツとか……」


「レインボー色がどうとか、サングラスをかけてるっていうのも聞いたことあるよ」


 悩ましげな悠人に、快が補足する。


「なんだそれ、抽象的過ぎるだろ……」


 悠人はますます混乱した。

次回▶︎定期更新:金曜の20時。


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