四話 驚きに満ちた婚約者との茶会
レナート・アエテルヌス
容姿:長い銀髪にアメジストの目、白磁の肌。凄絶な美貌。
身長:184センチ
年齢:25歳
ソラーレ帝国の若き皇帝。ソラーレ地方を一代で巨大帝国にまで押し上げる。性格はいたって自由。見た目をあまり明かさないようにしているのも、冒険者として自由に振舞いたいからでは?というのが腹心達の言葉。
レナートの言葉の真意は分からなかった。彼の素性もなにもかも… だけれど、自分の道は自分で選ぶべきという事だけは理解できて。
「ローザ様、本日の予定はソラーレ帝国皇帝との茶会があります。神殿の庭に面したサロンで行うそうです。その…」
「大丈夫よ。銀髪のお客様が言って下さったように、私にも道を選ぶ覚悟ができましたから」
侍女を不安がらせることもないだろうと考えて、言葉を選びながら本音を打ち明ける。
レナートは言っていた。私には道を選ぶ強さがあるんだと。本当に? 今まで受け身で生きてきた私に、自分で自分の道を切り開く強さなんてあるのか? 半信半疑ではあったけれど。
「はい。畏まりました。では、そのように執事へお伝えいたしますので」
私の言葉に何を思ったのだろう。幾らか落ち着きを取り戻した侍女が深々と礼をして部屋を出ていく。それから、急いで茶会の為の準備が始まる。
普段通りに白と金を基調としたドレスを着て、アクセサリーをいくつか身に着けて化粧をして…… 普段とあまり違わない。
「ところで… 皇帝陛下というのはどんな方なのでしょうね? 私には肖像画も贈られていないのだけれど」
「はい。一度、お会いしたことがあるとのことで肖像画は贈られておりません。ですので、私どもも顔を知らぬままなのです」
髪を梳いてくれる侍女の言葉に記憶をたどってみるけれど、そんなことは一度もなくて。貴族に紛れたとしても巨大帝国の皇帝ともなれば、それなりに顔を知られているだろうから、身分を隠しきることはできないだろうし……
「ローザ様、いくらなんでも不敬だと苦情を申し立てておきましょうか?」
「いいえ、大丈夫よ。どうせ今日には顔見知りになるのだし、構わないわ」
そう頷いて、最後に聖女である証のティアラを頭に戴く。普段より少し豪華になっているのは、相手がソラーレ帝国の皇帝だからだろう。
「さあ、いい具合に約束の時間です。参りましょう」
侍女に手を引かれて椅子から立ち上がり、神殿の滅多に使う事のないサロンへ向かう。
神殿のサロンは最も広く豪華な庭に面していて、内装も華やかな作りになっていて、豪華さゆえに王族やその親戚でもおもてなしするのでない限り、使わない決まりになっている。…らしい。
らしいと付くのは私が聖女になって以来、使った試しがないからで。広大すぎて掃除や準備が面倒なので、王族であっても小さくて見栄えのする客室を選んでおもてなしするようになってしまった。
「ローザ・アルバ殿下のお出ましです」
室内には既に神殿の侍女達によって華やかに飾られていた。侍女達にも今日の茶会の意味が伝わっているのだろう。心配そうな顔をしながらも、口々に私を和ませることを言ってくれる。
「ローザ様…! 今日は東の友好国より取り寄せたとっておきのお茶をお出ししますわ。なんでも茶葉に微かな柑橘類の香りがするんだとか」
「パティシエールに命じてローザ様のお好きなサマープディングをご用意しましたわ。美味しく召し上がってください」
昔からの付き合いなので。彼女たちの心からの気遣いは嬉しく感じる。…ずっとこのままでいられたら、なんて思う日が来るとは思わなかったけれど。
「ありがとう。今日はとっておきの茶会だもの。無事に乗り切らなければいけないわね。皆の心遣い、喜んで頂くから」
私が笑みを浮かべながら答えてみせると、侍女達の空気が急に和む。
「えぇ、ローザ様ならお相手が大国の皇帝陛下だとしても何も怖くありませんわ。女神ペルセフォネの加護があるのですから」
最後に近づいてきた侍女長が落ち着いた様子で告げる。神殿に入って最も長い侍女長の言葉で若い侍女達が急に落ち着きを取り戻す。
神殿は基本的に女性達を中心として構成されている。入ってくる異性といえば、王位継承権第二位を有している王子、アルム・マルティウス殿下と直属の護衛騎士くらいだ。…はっきり言って顔なじみでしかない。
そんな神殿へ他国の見知らぬ男達が入ってくるというのは、彼女達にとっても恐ろしく感じていたのかもしれない。
「皆、頼りにしているから」
庭に面した席へ座って言うと、サロンの扉が再び開かれた。それは… 意味が分かったんだろう。私を囲んでいた侍女達が一斉に部屋の隅へ控えていく。
◆
「ソラーレ帝国皇帝レナート・アエテルヌス陛下のお出ましです」
部屋に入ってきたのは黒髪に真紅の目をした美貌の青年で、その後ろから銀髪を背まで伸ばし、アメジストのような目をした…
「レナート… 陛下…!!」
咄嗟に陛下とつけられたのが奇跡と思うほど、私は驚きを露にしてしまっていた。先日、ただの冒険者として神殿の庭へ迷い込んできた。そして、私は従者である男に治癒魔法を施したのだから。
「やあ、二度目になるかな。俺はレナート・アエテルヌス。あなたのことは良く存じ上げていますよ。ローザ・アルバ姫」
黒に近い紫色に銀の装飾がされた正装を着て、先日は紫色のリボンで軽く結っていた髪を長く下していて、だけれど、彩る笑みは別れ際の彼と変わらなくて。私は席を立って出迎えつつ、
「悪戯が過ぎます…!! あの時の冒険者がレナート陛下だったなんて…!」
と驚きのあまり涙を滲ませながら言った。レナートはそんな私の頬にそっと触れると、
「こちらだけが驚かされるのは気に入らないだろう? 俺はあの日にこの上ない驚きを与えられたというのにね」
笑みを深めて言いながら、あまり意味の分からないことを語ってくれる。私としては重傷患者を癒した。それだけの話だったのだけれど。
「あの日、あなたは俺の心を奪っていってしまわれたのだから。これくらいの驚きがあってもいいと思ったんだ。まあ、俺としてはそれだけではないけれど…」
と表情を引き締めて最後の言葉を告げると、レナートは私をまっすぐに見下ろして、
「俺はずっと君を待っていたんだ。君が望まれた通りに美しく育ってくれるのをね。その上で俺と君の真実を受け止めてくれたらと思うよ」
と、謎めいたことを告げた。意味が分からなくて、首を傾げてしまう。
「俺と君は遥かな昔からこうして出会うように定められていた。…今は意味が分からなくてもいい。いずれ分かる日が来るから、それまではこうして友人から始めようか」
と穏やかに微笑みながら手を差し伸べる。それを合図にテーブルにはティースタンドとティーカップが二人分用意され、二人きりではないけれど、どこか和やかな茶会が始まる。
謎めいた言葉の意味について、気にならないと言えば嘘になるけれど……
はい。謎多き人物のレナートさんでしたが、あまり頭の良くない作者が書いているので、そんなにひねりはくわえられませんでした。巨大帝国のイケメン皇帝でした(・∀・) まあ、楽しんでくだされば幸いです。感想くだされば幸いです。




