一話 銀髪の男との鮮烈な出会い
登場人物
レナート:謎多き人物。
容姿:長い銀髪にアメジストの目、白磁の肌。凄絶な美貌。
身長:184センチ
この日も普段通りに灰色の日常が待っていて。幸せではないけれど不幸でもない毎日がこれからもずっと続くのだと思っていた。午前中は貴族達を相手にピアノを披露して、
「ローザ様、今日はディルクルム様のいらっしゃらない日です。温室へ行かれてはいかがでしょうか? ローザ様のバラが素敵に盛りを迎えていますよ」
「そこでクリームティーでも召し上がられては? よい気分転換になります」
護衛の女騎士と侍女の勧めで温室のある裏庭の隅の方へ向かう。クリームティーはクロテッドクリームが重くて沢山は食べられないんだけれど、温室の花々は眺めるだけで楽しい気分になるから。
「では、そうしましょうか。クロテッドクリームはいらないから」
「畏まりました。では、ラズベリージャムと焼き立てのスコーンを用意しましょう。東の隣国より良い茶葉が貢物として届けられていますから」
侍女の気遣いが分かって、心が少しだけ軽くなる。護衛の女騎士に守られて温室まで行く途中、護衛騎士達が殺気立っているのが判った。それに、微かに血の匂いがしてくる。生臭いような鉄さびのような…
「聖女ローザ・アルバ様のプライベートな領域だぞ! どうやって入り込んだ!?」
「その髪と目の色からして王国の者ではあるまい! どこから来た!?」
神殿の警備兵達が剣を片手に取り囲んでいる。女騎士が私を庇いながらも、
「なにがあった!? 侵入者か!?」
女とは思えない言葉遣いで強い調子で攻め立てる。警備兵達は女騎士の後ろに隠されている私にチラチラと目をやりながらも、
「申し訳ございません! この異質な男が突如としてこの神殿に現れたのです。それも連れの男が負傷しておりまして」
居住まいを正して敬礼しつつ報告した。負傷の一言がすぐには理解できなくて、侍女に隠されながらも自然と注意が向いてしまう。
「そんなはずはないだろう!? この神殿には王宮付きの魔導士達が作り上げた結界を張り巡らせてあるのだぞ! どうやって潜り抜けるのだ!?」
女騎士が警備兵達をかき分けて、その奥にいる人物を確かめようとすると、より一層血の匂いが濃くなった。
「お待ちなさい。血の匂いが強くなりました。怪我が悪化しているのではないですか? まず怪我の治療が先でしょう。皆、剣を収めて下がりなさい」
私はほとんど条件反射で命令していた。そして、剣に囲まれて身動きできずにいる何者かに歩み寄る。見えてきたのは日に透ける銀髪と白磁の肌にアメジストの目と凄絶な美貌、聞こえてきたのは低く柔らかな男性の声で…
「お初にお目にかかります。ローザ・アルバ姫。魔の森を抜ける時に傍仕えの男が深手を負ってしまいまして。こんな無様な所はお見せしたくないのですが…」
そう冗談めかして告げる声と立ち居振る舞いには威容さが漂っていて、ただの冒険者ではないことを如実に語っていた。片腕に抱えている男性は完全に意識を失っていて、頭部から血が流れていた。
「お静かに。治癒魔法が使えます。傷を癒すレベルでしかありませんが、助けになりますから。どなたか、部屋を用意して差し上げてください」
命令を下すと、渋々といった様子で警備兵や集まっていた護衛騎士達が動き出す。神殿付きの魔導士と医師が集まって、傷の具合を診てくれていた。
「頭部の負傷は思ったより深いようです。ローザ様お一人ではとても治せるレベルではありません。我らが治療をお手伝いいたしますので、ここで行うのがよろしいかと存じます」
老齢の魔導士が深々と礼をしながら報告してくれた。孤児院の子供達の擦り傷程度なら私一人でもどうにかできるけれど、ここまで深い傷は初めてで怖いと思ってしまう。それでも私は聖女。やるしかないから。
「分かりました。では、私が行います。私の魔力では足りなくなります。助力を頼みます」
「畏まりました。簡易ベッド急げ! 消毒用の酒と薬湯の準備は良いか!?」
そうして準備が整うのを、名もなき銀髪の青年は鋭い眼差しで眺めていた。唇には微笑を浮かべたままで。
「剣を向けて申し訳ないけれど、ここは聖女である私の住まう領域です。最も安全でなければならないの。ですが、ここを死で穢すことは許されない。必ず助けますから」
と青年の血まみれの手を取って、自然と笑みを浮かべて告げた。その様に何を思ったのだろう。青年は黙って目を見開いたかと思うと、笑みを深めて礼の言葉を告げた。
それから、完全に意識を失っている男を傍に控えている侍女へ預ける。
「ローザ様、準備が整いました。男も意識を失ってはいますが、生きていることは確認されました」
神殿付き魔導士の言葉で我に返ると、男の頭部にそっと触れる。そして、女神ペルセフォネに加護を求める呪文を唱えて治癒に集中する。それに合わせて魔導士達が集中を深めていく。
「ローザ様、どうか無理だけはなさらないで下さい」
侍女の声に重なって、ミシミシと微かな音を立てて傷が塞がっていく。頭蓋骨の割れ目が閉じられ、白い肌が覆い、黒髪が生えていく。その様を見届けた後、私は意識を失った。魔力の使いすぎだと分かったけれど、どうにもならなかった。
「俺の名はレナート… どうか忘れないで。ずっと君を待っていたんだ」
力強い腕に受け止められた後、完全に意識を失ってしまう間際、そんなことを囁く銀髪の青年の声が聞こえた気がした。
続きます( ゜д゜)ウム 頑張ります(`・ω・´)ゞ 今ここでは多くは語れません。お許しください。
あまり地頭はよくないので複雑なことはできないんですけどね(・∀・) お付き合いくだされば幸いです。




