プロローグ 限りなく白に近い灰色の日常
登場人物
ローザ・アルバ:ウェール王国の聖女。ローザ・アルバは聖女としての名前で、本名はない。
容姿:白髪を膝辺りまで伸ばし、淡いブルーの目に白磁の肌。
身長:160センチ
年齢:20歳
ディルクルム・ラスヴェート:ウェール王国の騎士。ローザの住まう神殿の他、王子の外遊時の護衛を務めたりもする。
容姿:黒い短髪に黒い瞳、浅黒い肌。
身長:177センチ
純白の聖女と呼ばれているけれど、この国では異様の一言でしかない。民の前に姿を現す度、そんなことを思わされる。
「ローザ様、そろそろ裏庭へ行きましょう。午前のお勤めも無事に果たされたのですし」
「そうですね。聖女としてはあまり良い行動ではないのでしょうけれど…」
「いいえ、きちんと務めを果たされているのですもの。誰も文句は言いませんわ」
幼い頃から傍にいてくれる年嵩の侍女が笑みを浮かべながら言ってくれる。その言葉に礼を言ってみたけれど、心は晴れない。限りなく白に近いけれど灰色の単調な日々… どうしてか? 分かっているからだ。
この国にあって、私はあり得ない白… 純白の聖女、白バラ姫などというのは称号にさえならない悪口雑言に等しい言葉だということを。
「そういえば、アンナ姉様がお見合いをなさるとか… ディルクルムから聞きましたが、どこのどなたとおみあいなさるのでしょう」
「私どもには肖像画も伝わってきませんが、隣のソラーレ帝国の皇帝でとても美しい方だとのことです。きっとアンナ殿下もきっとお気に召しますわ」
侍女の言葉に適当に頷きながら、形ばかりでも異性と出会う機会が与えられる姉を少しだけ羨ましいと思う。…恋をするとはどんなものなのか? 私には一生与えられない機会だから。
聖女はこの国の守護神であるペルセフォネへ祈りを捧げ、国の安寧を祈り、夫である冥界神ハデスが妻であるペルセフォネを浚わないように封じておく為の生贄に等しい存在だから。
生涯を通じて清らかなままであることを求められる。その為、私はこの広大な神殿の中で一生を終えなければならない。この掟に背いては国家が揺らぐかもしれないのだ。…そんなのは形ばかりだと誰もが分かっているけれど。
「ローザ・アルバ姫! また浮かない顔をしているぞ」
声のした方へ顔を向けると、護衛騎士の略装を着たディルクルムが裏庭へ用意された白い椅子に座っていた。白を中心に壁や天井に家具までデザインされている神殿にあって、黒と金を基調とした略装はひどく目立って見える。
浅黒い肌と黒髪に黒い瞳… 肌の色に多少の差はあってもウェール王国にあっては持ち合わせて当り前の色素の組み合わせだ。
「少しは笑ってみせたらどうだ? 白バラ姫が台無しだぞ」
彼は椅子から立ち上がりつつ言って、精悍な美貌を笑みで彩る。侍女にお茶を用意するよう命令すると、私は彼にエスコートされて椅子に座りつつ、
「一人では笑う事なんてできないわ。お務めばかりで少し退屈だったの。また外遊の話が聞きたいわ。ディルクルム」
向かいに座った彼に表情を笑みで彩りながらねだる。
…ディルクルムの前だけは聖女でない素の私をさらけ出すことができる。けれど、ディルクルムにとって私は聖女でしかない。聖女だから会うことができたんだというのが彼の理屈だけれど。
「良いだろう。では、アルム殿下の護衛で行ったアウローラ王国の話を披露しようか。一人も人間のいない国だ。伝説にしかないハイエルフが聖女の役割を担っているんだとか…」
「ハイエルフって完全なる不老不死の種族でしょう? 本当に実在するのね。そちらの方に驚くわ」
二人きりの茶会が始まる。侍女と護衛騎士に囲まれて、だけれど…
彼の繰り広げる冒険譚が本当か嘘か? そんなのは関係ない。彼は私を楽しませようとしていて、私は神殿での変化に乏しい毎日に鬱屈している。
「そこでエグマリヌというエルフ族の青年… とはいっても見た目は20代のまま400年を生きているがな。だが、俺を超える剣の腕を披露してくれたぞ。久しぶりに敗北した。無傷だったのがむしろ腹立たしいほどだ」
「あらあら… 怪我がなくてなによりだけれど、貴方としては悔しいかしら?」
「当然だろう。ウェール王国の護衛騎士としてはプライドを傷つけられるというものだ。いつか必ず勝ってみせると約束したら、お前が老いる前に挑戦しに来いと笑われたな」
ディルクルムは孤児院出身で、見た目に恵まれていたことと剣の才能があったことから騎士へ取り立てられた… そんな彼には、私の感じている行き詰まりの意味を理解できないだろう。
自由のある者、ない者… どちらが幸せなのだろう。
ディルクルムの話を聞きながら、そんなことを不意に考える。山羊から家畜として改良された羊は野生では生きられないように、私もこのまま神殿で純白の聖女として飼いならされている方が幸せなのかもしれない。だとしても…
…いつか自由というものを得てみたい。いいや、自由などと大それたものではなくて、アンナ姉様のように異性と出会ってみたい。
そっと胸の内で祈る。
「剣の稽古の合間にな。ロゼ・リュミエールという大きな店を紹介されたんだ。アルム殿下を連れて行ったら、センスの良い素晴らしい店だと喜んでもらえたな」
どこか嬉しそうに微笑みながら話してくれるディルクルムの目には、私は純白の聖女としか映っていない。
一人の女性として扱ってくれてはいないんだと分かってしまうから。理想の聖女が素顔を曝してくれている。それが自慢のようになっているんだと分かるから。…ひどく悲しいけれど、それが現実だ。
私は聖女でしかない。ローザ・アルバというのは古い言葉で白バラという意味。王家の名字であるマルティウスを名乗ることも許されていない。王女である前に女神ペルセフォネを国に繋ぎとめ、冥王ハデスを遠ざけておくための尊い犠牲でしかないから。…お飾りの王女だから。
「私は時々思うのよ。聖女でない人生を生きてみたかった… とね」
「いいや、貴女ほど聖女に相応しい女性はいないさ。それだけは俺は譲らないぞ。あなたでなければ務まらないとな!」
明るく快活に笑うディルクルムに笑い返しながらも、心の奥底が白ではなく灰色に染まっていくのが判った。…誰にも言えない。きっと私の心は輝くような白ではなく、漆黒に近い灰色をしているだろう。
それでも幸せだと思わなければいけないんだろうか…? 不幸の反対は幸せでしかないというなら……
始めました( ^^) _旦~~ お久しぶりになるのかな。本格的なファンタジー小説のつもりです。
聖女というジャンル(。´・ω・)?に触れるのは初めてです。お付き合いくだされば幸いです。キャラも色々と考えておりますので、興味を持ってくだされば幸いです。




