↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/46

第7話 2年後、10歳 1




あれから、二年が経った。


十歳になったセイラスは、書斎の椅子に座りながら、目の前で本を読んでいる少女を眺めていた。


「……」


一心に本を読んでいる。

ノエルは、2年前までは本どころか字にも縁のない、寒村出身の孤児だった。


「セイラス様が読んでいる本を、読めるようになってみたいです」


ある日、そう言われた。


仮にも王子であるセイラスの使用人。

ある程度の教育も必要だと、ロザンナも賛成し、読み書きの勉強をした。


すると、1か月も経たずに子供向けの本を読み、簡単なメモを書ける程度に覚えてしまった。


セイラスもロザンナも驚く。


また、読み書きだけでなく、文章の意味まで理解する速度が速い。

仮説だが、大量にエーテルを取り込むことで頭の働きまで活性化されているのかもしれないと、セイラスは考えた。

エーテルを蓄えたものは、身体能力だけでなく、生命力も向上するのだ。頭の働きが良くなることを否定する理由がない。


「……これは、もう私たちが教える必要はありませんね」

「……そうだな」


それからは、時間ができれば本を読み、少しずつ知識を増やしている。




ノエルが成長したのは、知識だけではない。

『意識的なエーテルの取り込み』を続けたことで、ノエルはもともと纏っていたエーテルに加えて、自身の中にも大量のエーテル貯め込み、比較対象が思いつかないほどのエーテル量になった。


しかしそこで、2つほど問題が発生した。


「最近、あの子からなんとも言えないプレッシャーを感じるのです……」


1つ目は、ロザンナからのこの相談だった。

ノエルのエーテル量は、戦った経験のないロザンナですら感じるほど、膨大な量になってしまった。

このままいくと、ロザンナが恐怖を覚えるようになってしまうかもしれない。


そして、もう1つは。


「……眩しいんだけど」


目を細めながら、目の前のノエルに話しかける。


「えっと、何のことでしょう? 照明はつけていないはずですが……」


そう言って、ノエルはキョロキョロする。


「ノエル。キミだよ、キミ」

「私……ですか?」


エーテルが輝く粒子として視えるセイラスの目。その目で視ると、ノエルはもはや直視できないほど輝いていた。


「さすがにちょっと、どうにかしようか」

「そんなことになっているのですね……。わかりました。どうにかしてみます」


そう言ってノエルは試行錯誤し、セイラスも手伝いながら、どうにか一般人よりも少し多く見える程度に抑えることができるようになった。


ちなみに、異能でエーテルを操作したのかと思い聞いてみたところ、


「体の中の、ふわふわしてるものを、こう、ギュッとしてシュッとした感じにするんです。そのあと、体の奥のゴツゴツしたところにぐるぐるってやって、その後に、のこった分をフワッとさせたら、できました!」


と嬉しそうに報告してくれたため、「そうか、よくやった」と褒めるだけに留めた。

本人は嬉しそうだったし、セイラスもロザンナも困らなくなったので、何も問題はない。


なお、セイラス自身は結局、エーテルの吸収はうまくいかなかった。


こっそりロザンナやロビンに試したらうまくいったので、他人にできないというわけではなく、セイラス個人の問題らしい。


『最強の僕』の夢は泡と消えた。


悔しくなんてない。


ないのだ。




ノエルの仕事ぶりは、この2年でロザンナからも認められていた。


最初の頃は一つずつ教えてもらっていたが、今ではほとんどの仕事を一人でこなせる。

掃除。洗濯。料理。屋敷の整理。

果ては、ロザンナでは手が回らなかった庭の手入れまで。


「もう見習い扱いする必要もありませんね」


ある日、ロザンナはそう言った。


「これからは正式に、この屋敷の使用人として扱います」

「……はい!」


ノエルは嬉しそうに頭を下げた。


給料も出るようになった。

屋敷の外に出ることは許可されないので、現状は使い道がないのだが、自分が認められた結果、仕事の対価と思うと嬉しかった。


「本当に、あの子はよく働きますねぇ」


ロザンナはそう言いながら、屋敷の中を音を立てずに素早く動き回り、雑事をこなしていくノエルを見ていた。


ノエルが普通の十歳児ではないことは、とうに気づいているだろう。


「うん。連れてきて正解だったでしょ?」


ノエルを連れてきたときに、さんざんされたお説教の意趣返しのように、ロザンナに言う。


「……そうですね。セイラス様に多大な恩義も感じているようですし、問題はないですね。何も」


それ以上、ロザンナが何かを聞くことはなかった。



そんな二人の生活には、一つ問題があった。

ノエルの異能の訓練が、最近少し停滞しているのだ。


最初の頃はよかった。


物を柔らかくする、見えない壁を作る、光を作る、物を動かす。

セイラスが知っている異能や、本に書かれている異能を色々試していって、うまくいって喜んだ。


しかし、そこで壁にぶつかった。


「……これ以上、何を練習すればいいのかわからない」


まだ本を読んでいるノエルを眺めながら、セイラスが呟く。


ノエルの異能は強力だ。

エーテルそのものを変化させられる。

ただし、それを『何にどう使うのか』という目的がない。


目的がなければ、何ができようともただの宝の持ち腐れだった。


いずれはこの屋敷に張り巡らされた監視の目から逃げ出し、自由に生きたい。

その目標はあるが、そこへ至るための戦略がないのだ。


「……とりあえずは、戦う力、かな」


この世界には魔物がいる。

この国には少ないが、いずれ脱出するのであれば、魔物と戦う力は必要だろう。


だが、実際に魔物と戦ったことがない。

どんな攻撃をし、どう守ればいいのか。

戦う前には、何を警戒すればいいのか。


「やっぱり、実戦を知らないのが問題か……」

「実戦……ですか?」


続くセイラスの独り言に、ノエルが本を閉じて答える。


「うん。この2年で、そこは成長できていないなって」

「成長できていないですか? そんなことはないと思いますけど……」


この2年で劇的に身体能力を向上させたノエルが、きょとんとしながら伸び悩んでいるセイラスを見る。


イラッとしてなんか、いない。


「……将来、ここを出るなら、魔物と戦うことになる可能性は高い」

「はい」

「でも現状、ノエルは体を動かすのが得意で、ちょっと色々できる異能を持っているだけの子ども。僕にいたってはそれ以前。ちゃんと戦い方も覚えたほうがいい」

「わかりました。……ですが、どうしましょう?」

「ロビンに頼もう」


ノエルが色々と規格外で忘れそうになるが、ロビンは元々、優秀な騎士だ。


「ロビンさんですか?」

「ああ。ロビン以上の適任はいない」


早速ロビンを呼び、剣術や戦闘訓練をしてもらうよう頼む。

ロビンはセイラスを見てなんとも言えない表情をしたが、ノエルに視線を移し、しばらく見定める。


「セイラス様とノエルを鍛えれば良いんですね?」

「ああ、頼める?」

「セイラス様はともかく、ノエルは見込みがありそうですね。了解しましたよ」


セイラスに一言ちくりと刺してくる。


一度、セイラスはロビンに剣を教えてほしいと頼み、途中で投げ出したのを根に持っているらしい。

自分から頼んでおきながら投げ出し、書斎にこもった自分が全面的に悪いので、ぐっと堪える。


「……よろしく頼んだ」


翌日。


ロビンとノエルで、早速庭で訓練を始めることになった。

訓練の前に、セイラスがノエルに一言忠告する。


「ノエル、訓練のときは、全力を出さないように」

「……どういうことですか?」

「僕の事情は前に話したと思うけど。この屋敷は色々な人間に見張られているんだ。いつかここから逃げるとき、ノエルは僕の切り札になる。それまでは、ノエルの実力を隠しておきたいんだ」

「そういうことですね。わかりました」


ノエルは頷いたあと、ふと気づく。


「もしかして……ロビンさんも、ですか?」

「……」


セイラスはその質問に答えない。


つまりは、そういうことだろう。


「屋敷の外では、少なくとも、ロビンよりも早く動いたり、ロビンより力の強いことを見せてはいけない。いいね?」

「……わかりました」


懸念ができてしまい、思わず即答ができなかったが、ノエルは頷いた。


読んでいただきありがとうございます。


面白い、続きも読みたいと思っていただけましたら、評価をいただけると励みになります。

ブックマークも、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。