第4話 ノエルの異能 1
「暴走……?」
「はい、それが一番近い言い方だと思います」
セイラスが自分の秘密を打ち明けたことに応えるため、ノエルも自分の力……異能について正直に伝えた。
セイラスは黙ってノエルを見つめる。
責めるような視線ではない。
「暴走というと、例えば?」
「……住んでいた村の人が言っているのを聞いたことがあるんです。『あの子が生まれたから、あの人は幸せになれなかったんだ。あの子がいなきゃ、今からでも幸せになれるのかもしれないのにねぇ』って。それを聞いて悲しくなって……気づいたら、あたりが氷に覆われていました。逆に、お母さんにひどいことを言う人がいて、頭にきたら、あたりが突然熱くなって、その人を火傷させたこともあります」
セイラスは静かに聞いている。
「一番は、母が亡くなったときです。悲しくて、寂しくて、どうしようもなくて……ずっと泣き叫んでいたら……家中が凍っていました」
母の遺体も凍りついており、埋葬もできなかった。
村長からは、埋葬はどうにかするから、お願いだから出ていってくれと、少しのお金を渡されてノエルは村を出た。
……まだあれから、2週間も経っていない。
自分の命の危機によって余裕がなく、思い出すことのなかった悲しみがこみ上げてくる。
そして気づいたとき、二人がいる食堂が凍りついていた。
壁。床。天井。
辺り全体に氷が張り付いている。
「なるほど、ね」
図らずも暴走とはどのようなものかを目にして、セイラスは納得する。
確かにこれは困る。
ロザンナに怒られそうだな、と少しずれたことを考えつつ、ノエルに向き合った。
「暴走って、これのことだね?」
「は、はい、そうです……」
真っ青になった顔でノエルは答える。
また、やってしまった。
「……暴走すると、困るね?」
「……はい、申し訳ございません」
「ところで、暴走しないようにするために、何か試した?」
ノエルの表情が固まった。
「……何か、ですか?」
「うん」
「……」
ノエルは答えられなかった。
「例えば、力を使うときに何をすれば暴走するのか調べるとか。逆に、何をすれば暴走しないのか試すとか」
「……してません」
「どうして?」
ノエルは俯いた。
「……怖くて」
「怖い?」
自分の膝に置いた手を、ぎゅっと握る。
「何をしたらどうなるのか、わからないから……」
「なるほど、ね」
セイラスは頷いた。
そして、淡々とノエルを問いかける。
いや、問い詰めているつもりはないのだろう。
ただ単に、疑問に思ったことを口にしているだけだ。
「じゃあ、暴走するのに何が起きるかわからない状態は、怖くないの?」
「……試すだけでも、何が起こるかわからないから……」
「うん、それはわかるけど」
セイラスは同意する。
そのうえで、続ける。
「でも、暴走しても何が起こるかわからないよね?」
「……それは……」
答えられなかった。
試すのは怖い。
けれど何もしなければ、これからもずっと、いつ力が暴走するかわからない。
だからこそ、そんな自分がこのまま生きていて良いのかという思いが、いつも心の隅に巣くって、ノエルを苛んでいた。
「……」
ノエルが黙り込む。
「ごめん、責めてるわけじゃないんだ。 ただ……」
セイラスは少し考えてから、静かに口を開いた。
「キミに、『いつかどこかで力が暴走するかもしれない』っていう状態のまま生きていく、なんて選択肢はないと思うよ」
「……え?」
思いもよらない言葉だった。
「生きていく上で困っているんだよね?」
「……はい」
「だったら、それをどうにかしない、なんて選択肢もない」
正論だ。
正論だけど。
じゃあ、いったいどうすればいいのか?
心の奥から湧き出たその言葉をたたきつけそうになったとき。
「自由に生きていきたいよね?」
セイラスがノエルを見て、言った。
ノエルは言葉を失った。
父を待ち続けることが人生の全てだった母。
それを支えなきゃいけない子どもの自分は、いつなにをしでかすかわからない厄介者だから。
だから、自分を抑えて、自分の気持ちを押し殺して。
ずっとそうやって生きていくものだと思っていた。
「……私も……自由に……生きることができるんでしょうか」
「もちろん」
セイラスは即答した。
「僕も自由に生きたいから。だからキミを連れてきた。だから僕に協力してほしい。そう言ってるんだよ」
ノエルの心の中で、何かが崩れ去った音がした。
私は。
自由に。
生きて良いんだ。
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