第3話 軟禁王子 2
――――――今に至る。
「そろそろ落ち着いたかい?」
口をパクパクするのを止め、考え込んで頭の中の情報を整理しているであろうノエルに声をかける。
「えっと、はい……どうにか……」
絞り出すようにノエルが答える。
「まずは、君のこれからの話なんだけど。このままここを出ていく、というのは難しいと考えてる。キミはどう?」
「難しい……です……」
当然だ。
一宿一飯で命を繋いだとはいえ、またそのまま外に出れば同じことの繰り返しだ。
冬はこれから、もっと寒くなる。
「うん、その考えは同じみたいでよかった。そこで相談なんだけど、この家で使用人として働かない?」
この屋敷で働く!
ノエルにとって、それは願ってもないことだった。
そもそも、この街に来てから色々なところで働かせてもらえるよう頼んだが、断られていたのだ。
それが、こんなに立派なところで働かせてもらえるのであれば、願ってもないことだ。
「ぜひ、働かせてください!」
「うん、同意が得られたようで良かった。仕事はここにいるロザンナに教わってね。ロザンナ、それでいいよね?」
「……はい、仰る通りに。ノエル、これからはお客さんではないので、厳しくいきますよ。良いですね?」
「……よろしく、お願いします!」
精一杯の大きな声で、ノエルが答える。
セイラスが満足そうに頷く。
「ロザンナ、というわけでお願いがある」
「はい、何でしょう?」
「ノエルの服を買ってきてほしい」
「服、ですね……なるほど、承知しました」
ノエルには家がない。
であれば、この屋敷に住むことになるが、着る服がない。
いま着ているものも借り物だ。
「靴も。あと、必要なものがあれば適当に買ってきましょう」
「頼んだよ。荷物持ちにロビンも連れて行く?」
「……結構な荷物になりそうですね。そうしましょう」
「あ、私も……」
早速、使用人見習いとしての意識を芽生えさせたノエルが手伝いを申し出るが、セイラスが止める。
「君はだめだよ。昨日、死にかけていたんだから。無理はだめだ」
「そうですよ。あなたはまず、元気になりなさい。厳しくするとは言いましたが、それはあなたの体調が良くなってからです」
それでは行ってまいります、と、ロザンナが部屋を出ていく。
扉が閉まり、屋敷には二人きりになった。
セイラスは姿勢を正し、椅子に座り直すと、真剣な目でノエルを見る。
「少し、話をしたい」
「……はい」
雰囲気が変わったことを感じ取り、緊張した顔でノエルもセイラスを見る。
セイラスは少し迷うように黙った。
母に言われ、今まで誰にも言わなかった秘密。
ロビンやロザンナにも言っていない。
しかし、母からは「この子」には打ち明けても良い、いや、打ち明けないといけない、と最後に言われた。
だから、言う。
「キミは、エーテルは知っている?」
「あ、はい。少しだけなら……」
「ちなみに、どのくらい?」
エーテル。
様々なものの力の源。
人間は、それを体に溜め込むことで、強くなることができる。
日々の食事や運動でも少しずつ取り込むことができるが、一番いいのは魔物を倒すことらしい。
あと、魔物の体の中にはエーテルを溜め込む器官があって、エーテル石と呼ばれるらしい。
昨日街で見た街灯なども、エーテル石の力で光っているそうだ。
「……そんなところです」
「へぇ、外ではそういう風な考え方なんだ」
ノエルの説明に、セイラスがなるほどとばかりに頷いている。
「……あの、それが何か……?」
話が見えずノエルが質問すると、セイラスは一瞬口ごもり、意を決して口を開く。
「僕には、そのエーテルが見える」
「……?」
一瞬、理解ができなかった。
「……えっと、どういうことですか?」
「そのままだよ。色々なものの力の源のエーテル。僕にはそれを見ることができる」
理解が追いつかない。
「エーテルは、いろいろなものに宿っている。人にも、動物にも、木にも。そしてこの周りにも浮かんでいる」
そう言って、セイラスは周りを見渡す。
ノエルがつられて周りを見るが、当然、何も見えない。
「ちなみにキラキラ光って見える。どこを見てもキラキラしてるから、すっごく見にくい」
「そ、そうなんですね……」
嫌そうに顔をしかめるセイラスに、見えているものがわからないなりに苦労を感じ、ノエルが答える。
「普通は子どもよりも大人のほうがエーテルを多く持っているので、さっきキミが言っていたことはだいたい正しいと思う。同じく、魔物を倒してエーテルをためた人間は強くなる。そうやって強くなった人間のエーテルは濃く、強く光って見える」
「……なるほど」
少しだけイメージがつく。
「この屋敷を守っている騎士たちは光が強い方だ。キミを担ぎあげたロビンが一番強いけど」
「あの、大きい人ですね」
そうだ、とセイラスは目だけで頷く。
「それで本題なんだけど。キミのエーテルの量はとんでもなく多い。ぶっちゃけると、まぶしくてよく見えないくらい」
「……え?」
「昨日、僕がキミを見つけたのも、遠くから見えるほど輝いて見えたからだ」
どういうことだろう。
……いや、心当たりは、ある。
「僕の母は、未来が視える異能持ちだった。その母が亡くなる前に言ったんだ。『雪の降る日に、街へ出ること。
そうすれば、あなたの人生を決定的に変える人に出会える』って、ね」
「……それは、それが……」
「うん、キミのことだと思っている」
ようやくつながった。
ノエルが、助けられた理由。
「僕は、いつかここから出たい。……今は無理なのはわかってるよ。子ども一人、ここから逃げ出したところで生活なんてできない」
「……はい」
「ある程度大人になったとしても、ここからは簡単には逃げられないと思ってる」
だって。
……母は、殺された、のだから。
「だから、キミに期待しているんだよ。母の言った言葉。それと、今まで見たことのないキミのエーテル量。これで何かが変えられる、どうにかなるんじゃないかって」
そう言ってセイラスはノエルをじっと見つめる。
落ち着かない心を抑えながら、ノエルは今言われたことを整理する。
……正直いって混乱している。
昨日の夜からの自分の状況の激変。
助けてくれたのは、軟禁されているのだという第2王子。
そして、その王子はいつかここから逃げるために、自分の力が必要だという。
「……わかり、ました」
ひとまず、目の前の王子がしたいことと、自分に何をしてほしいのかはなんとなく理解した。
「……ですが、私ではお力になれないと思います」
その言葉によって見放され、この屋敷からは追い出されるかもしれない。
しかし、ごまかすことはできない。
「……それは、なぜ?」
緊張した面持ちでセイラスが聞いてくる。
自分がようやく見つけた希望が、手からこぼれ落ちることを恐れている。
「私には、力がある。多分、それはその通りだと思います。できることなら、セイラス様のお手伝いもしたいです」
「それなら、何が問題なの?」
純粋な疑問。
手伝う意思も力もあるのに手伝えない。
その理由は。
「私の力は暴走するんです。……周りの人を、傷つけるくらいに」
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