第10話 ハンターたちと魔物との戦い
西門近くの開いている物見台にセイラスたちが登ると、周囲を見渡した。
このローデンの街を境に、東側が人間たちの生息域、西側が魔物たちの生息域になる。
西側には川が流れており、その上には橋が架かっている。
その橋の正面に立ちふさがるように、このローデンの町がある。
橋が架けてあるのは、意図的なのだろう。
魔物の通り道を誘導するためだ。
橋の向こうから、今まさに魔物たちが町へ向かって走ってくるところだった。
魔物たちは豚型と呼ばれるものらしい。
実際に見るのは初めてだが、豚というよりも、イノシシのような姿をしている。
牙があれば、猪型と呼ばれるのだろうか?
毛皮に覆われた体は分厚く、脚も太い。人間が素手で相手をするには、十分に危険な体格だった。
それらがまさに猪突猛進といった様子で、ローデンの町の外壁へ向かって走ってくる。
そこへ向かって、二人のハンターが弓を引いた。
放たれた矢が魔物たちへと飛んでいき、矢を受けた魔物がそれぞれ倒れていく。
しかし、残った魔物たちは構わず走り続け、城壁までたどり着いた。
城壁にたどり着いた魔物たちは、そのまま城壁を叩いたり、登ろうとしたりしている。
そこへ向かって、弓を持つハンターたちは容赦なく何度も矢を放つ。
一体、また一体と、倒れていく。
仲間たちが倒されるにつれ、魔物たちの数は減っていった。
やがて、城壁を越えられないと気づいたのか、魔物たちは今度は門の方へ、西門へ向かって走り出した。
その数は、十三体まで減っていた。
西門では、七人のハンターが待ち構えていた。
剣を持つ者、槍を持つ者。
武器も防具も様々だが、皆真剣な表情で魔物たちを見据えている。
しかし、そこに悲壮感はない。
おそらく、戦い慣れているのだろうとセイラスは推測する。
豚型は、それほど珍しくなく、かつ強力でもない魔物と読んだ記憶がある。
セイラスの目から見ても、エーテル量は特筆すべきところはないように見受けられた。
まっすぐに魔物の群れが襲いかかってくる。
それを一旦、ハンターたちは脇へ避けて、やり過ごした。
勢いのついた魔物たちは、とっさに対応できず、そのままハンターたちに背中をさらす。
そこへ、ハンターたちは容赦なく襲いかかった。
その後は一方的だった。
隙を見せた魔物を背後から次々と仕留めていく。
魔物たちが振り向いて戦闘態勢を整える頃には、すでに五体まで減っていた。
残った魔物たちは、七人のハンターたちに囲まれている。
逃げ道を塞がれた魔物たちへ、ハンターたちは一斉に襲いかかった。
そして、あっさりと残った魔物たちにとどめを刺す。
「鮮やかだな」
セイラスは、思わず呟いた。
魔物の動きを予測し、必要な戦力を必要な場所に配置する。
前線に立つ者たちも魔物の特性を理解し、わざわざ危険を冒すことなく魔物を倒した。
これは戦闘ではない。
まさに狩りだった。
「これが、ハンターの戦いなのか」
セイラスの呟きをマルタが拾う。
「そうだよ。慣れたもんだろう。もっと命がけの、ギリギリの戦いを予想していたかい?」
「……その通りだ」
考えてみれば、ハンターは日常的に魔物と戦うのだ。
毎日毎日、命がけの戦いをしていたら、ハンターなどあっという間にいなくなってしまうだろう。
「ハンターとは、狩るものの癖や動きを熟知し、一方的に仕留める。それでこそ狩りだ」
マルタがそう言う。
「そうは言っても、常にそう思った通りに都合よくいくわけでもない。相手はただの獣じゃなく、魔物だからね。油断したり、想定外のことがあれば、すぐに怪我をするし、命にも関わる」
「そうか。そういうものか」
自分の読んだ本には、こんな戦い方など書いていなかった。
改めて、魔物との戦い方を知る重要性を思い知った。
狩りは終わり、ハンターたちは獲物からエーテル石を取り出す作業を始めた。
慣れているのだろう。手際よく作業を進めていく。
その様子を見ながら、セイラスたちは物見台から降りていった。
ハンターギルドへ戻ると、支部長のローデンが感想を求めてきた。
「どうだった? 魔物との戦いを見た感想は?」
「正直言って、すごいと思った」
セイラスは自分の中の興奮を隠しながら答える。
「戦いではなく、確立された手順による狩り。そういう印象だ」
「ほほう」
「それができるようになるまでには、多くの犠牲があったのではないかと想像する」
それを聞き、ローデンはうんうんと頷いている。
「今日の様子を見る限り、ここの守りは万全に思えた。それでも、この町が危ないという。大鬼というのは、そんなに危険なのか?」
セイラスが思っていた質問をぶつけると、部屋の空気が沈んだ。
マルタも険しい顔をしている。
「大鬼一体なら、倒せないことはない。Bランク三人で囲めば、倒せるだろう。運が悪ければ犠牲者が出る可能性があるが」
三対一でも、犠牲者が出る可能性があるのか……
セイラスは驚いた。
「一年ほど前、大鬼の群れが西の森の中にいることを、偵察したハンターが見つけた」
ローデンが続ける。
「成体が最低でも二十。それ以上いない保証はない」
部屋の中に、重い沈黙が落ちる。
「今日のように向こうから向かってきての防衛戦になれば別だが、やつらはそれなりに知恵がある。無謀な戦いはしない」
今日みたいに一方的な戦いはできないということか。
「この町にはBランクが約五十人、Cランクが約百人いる。全員で森に入って総力戦をかければ十分勝算はあるが、どれだけの犠牲が出るか、想像もつかない……」
森に火を放ってはどうだろうか、と試しに提案してみようと思ったが、焼け出されて恐慌状態になった大量の魔物が押し寄せてくる光景が脳裏に浮かんだので、やめた。
「強い魔物ほど繁殖は遅い。それでも、徐々に増えていく。手がつけられなくなる前に、向こうから攻めてきて返り討ちにするか、本部からの増援が間に合うのを祈る状況だ」
「増援が来ない理由は?」
セイラスが尋ねる。
支部長は、悔しそうな顔で語った。
「……たかが大鬼二十匹に、本部に応援を頼むほうが珍しいんだ。先ほども言ったように、倒せるか倒せないかで言えば、倒せる。犠牲を払えばな」
ローデンは一度言葉を切った。
「自分たちで対応できるのに、応援を要請している。それ以上の難題に対して常に奔走している本部が渋るのも、当然だ」
「そうか」
セイラスはローデンを見る。
決断を下すのが怖い。犠牲者を出すのを恐れているのか。
ローデンは静かに続ける。
「犠牲を払ってでも、成すべきことを成す。その決断ができないことによって、さらに今、危険が増える可能性が出ている。正直言って、支部長失格だよ、俺は」
自嘲的に言う。
「この町は、俺の祖父、リアン・ローデンが功労者として魔物たちを追い払って手に入れた土地だ」
ああ、だからローデンというのか。
「父もその後を継いで、この町をずっと守ってきた。そして俺もだ」
ローデンは窓の外へ目を向ける。
「今、この町にいる人たちは、祖父、父の代から、ずっとここを守ってくれている。いわば、家族みたいなものだ。その家族を失いたくない」
家族を失いたくないから。
その理由は、セイラスの胸にストンと落ちた。
「そういう個人的な理由での増援要請だ。本部が受理しないのも仕方ない」
再び、部屋に沈黙が落ちる。
「先日の偵察で、大鬼の群れが増えていることは確認されている」
ローデンは静かに続けた。
「本当は分かっているんだよ。もう決断しなければいけないんだ、ということはね」




