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第9話 ハンターとハンターギルド

この世界におけるハンターとは、魔物と戦い、人間の生息圏を守る者たちである。


兵士とは違い、国や都市への所属義務はなく、ハンターギルドに登録したうえで、自分の意思で魔物を探し回って狩ったり、依頼を受けて討伐に参加したりする。


ハンターを支えるハンターギルドは、特定の国に属さない独立組織であり、魔物と戦う人間同士の互助組織としての性格が強い。


登録したからといって討伐への参加を義務づけられるわけではなく、仕事を受けるかどうかは本人が決められる。


また、ハンターの仕事は魔物討伐だけではない。


人間生息圏の外縁では魔物の捜索・討伐が中心となる一方、町や村の周辺では、たまに迷い込む魔物の排除や街道の護衛も行う。


さらに、荷物運搬、戦闘員の補助、装備・物資管理、雑務など、仕事は幅広い。



そういった説明をセイラスたちにして、登録を進める職員もハンターであると聞いて、少し驚いた。


「私はどちらかといえば裏方ですが、余裕があれば魔物の討伐に参加して、エーテルを吸収するんですよ。身体能力が上がれば仕事の能率も上がりますし……万が一の戦力にもなれますしね」

「なるほど……」


ハンターとは、魔物を倒してお金をもらう仕事、という先入観のあったセイラスは認識を改める。


目の前の職員からも、魔物から人間の生息圏を守るのだという気概が感じられた。


職員は説明を続ける。


「ハンターにはE・D・C・B・A・Sの六段階のランクがあります。ただし、これは単純な戦闘力ランキングではありません」


Eランクは、新人や非戦闘員のためのランクで、荷物運びや資材管理、補助などを担当する。

普通の子供なら、十五歳程度までEランクで経験を積むこともある。


Dランクは、まだまだ駆け出しの段階。

基本的に単独での魔物討伐は推奨されず、Cランク以上と行動する。


Cランクからは、一人前のハンターとして扱われる。

自分の裁量で魔物を狩り、エーテルを吸収して強くなっていき、上を目指す。

なお自己申告でCランクの実力があると言って、Cランクになることもできる。

実力不足が判明しても罰則はない。

支払うのは自分の命だからだ。


Bランクは全体の三十パーセント弱。

戦闘力の面だけならばBランクの下位と上位では非常に差があるが、それでも一般的な人間の範疇だ。

彼我の戦力差をしっかりと把握し、強い魔物に対しては連携して討伐したり、魔物に襲われた村や町を救援したりできる、人間側の主要戦力である。


「……とまあ、こんな感じかな」


説明をしてくれた職員が、一旦話を区切る。


「AランクやSランクとは?」


セイラスは、職員が話さなかった残りの二つについて尋ねる。


「あぁ。今の君たちにはあまり関わりがないと思ったから省略したけど、気になるよね。簡単に言えば、Aランクは人間離れしたハンター。

そしてSランクは、Aランクの実力を持ちながら、ギルド……いや、人間のために戦い続けると誓った人たちだよ」


Sランクの話をするときの彼は、とても誇らしそうだった。


「ちなみに戦闘力ランキングではないと言ったのは、いくら個人で魔物を倒せても協調性が無ければCからBランクにはなれないし、いくら強大な力を持っていても、人類のために使う気がなければ、AからSランクになることはない」


そういえばマルタが、危険な戦場を助けて回っている人たちがいると言っていた。

それがおそらくSランクなのだろう。


話だけを聞くと、まさに英雄だ。

ギルド職員が憧れるのも頷ける。


「話を元に戻すけど。まず、君たちは戦う力はあるけれど、ハンター……というか、魔物と戦うための知識がないから、Eランクから始めたいと聞いたけど、合ってる?」


「ああ」

「そうです」

「そっかぁ」


職員は少し考える。


「Eランクは、僕たちみたいに裏方に徹すると決めた人間や、まだ戦えない子供たちが成長するまで雑用の仕事を与えるような意味合いが強い。君たちは雑用がしたいわけじゃないんだろう?」

「それはまぁ、そうだ」

「なら、私としてはDランクにすることをおすすめするかな。Dランクは、Cランク以上のハンターのサポートを受けながら、魔物と戦うことに慣れる段階。君たちが望んでいるのは、そういうところじゃない?」


言われて納得する。

的確にセイラスたちの希望を汲み取り、提案してくる。

優秀な人だ。


「言われたとおり、確かに自分たちの望んでいるのはそういうところだ。ノエル、それでいいか?」

「はい。それで大丈夫だと思います」


職員が勧める通り、Dランクから始めることにする。


「それで、あとは個人で登録するか、パーティーにするか。これは君たち次第だね」

「個人で登録するのと、パーティーで登録するのはどう違うんだ?」

「基本的には変わらない。例えば、前衛で剣を使って魔物を倒すのが得意なハンターと、戦うのは得意ではないが傷を癒せるハンターがいるとする」

「ふむふむ」

「戦う力だけを考えると、前衛の人間しか高いランクになれないということになる。それではおかしい。得意なことは人それぞれだからね。特に、人をサポートできる異能を持った人は貴重だ。そういった人間を、ちゃんと見合ったランクにするために、パーティー単位での登録もできるし、一人だけで登録することもできる」

「なるほどな」

「実際のところ、単独で登録する人も多いけど、魔物は群れていることが多い。一人で狩りをするのは現実的ではない。そうなると、自然と仲間を集めるからね。結局、パーティーを組み直す人も多いかな」


報酬の配分も考えると、揉めにくいからパーティーで登録したほうがいいかもね、と付け加える。


「そういうことか。それでは、パーティーで」


これに関しては、セイラスには選択肢がない。

セイラス自身には戦う力がないからだ。

二人の中で戦えるのはノエルであって、セイラスではない。


「分かった。それと、パーティー名はつける?」

「パーティー名?」

「パーティーとして登録する時に、メンバーを全員書くか、パーティー名を書くか、それだけの違いだよ。君たち二人だけなら、どっちでもいいと思うよ」

「ノエルはどうしたい? 何かいい名前、思いつく?」

「……特に思いつかないので、そのままでもいいと思います」

「そうだな」

「じゃあ、お二人の名前で登録しておきますね」


職員がそう言うと、奥の部屋へ入っていく。

セイラスとノエルは、カウンターの前で待つ。



しばらくすると、職員が戻ってきた。


その手には、首から下げるための鎖がついた小さなプレートが二つある。

プレートには、それぞれ文字が刻まれていた。


Dランク

セイラス・ノエル

セイラス

ローデン支部


ランクと、二人のパーティー名代わりの連名、そして自分の名前。


「最後の『ローデン支部』は、この支部の所属になったということか?」

「いえ。簡単に言えば、ローデン支部で登録したという記録です」


職員が説明する。


「違う支部に同じ名前の人がいたら紛らわしいですから」


確かに。ファミリーネームがなければ、同じ名前の人間は多いだろう。


例えばエルランド王国では、貴族などでなければ、基本的にファミリーネームは持たない。

他の国や町でも似たようなだろう。どこどこ村のノエル、で通じるからだ。

セイラスは王族のため本名は”セイラス・エルランド”だが、そう名乗るつもりはない。


「この支部には、他にセイラスとノエルという名前の人はいませんから、これであなたたちを特定できます」

「ちなみに、同じ支部で同じ名前の人がいたら?」

「この辺は支部によりますね。ランクが違えば分けない場合もありますし、登録した順に番号をつける場合もあります。外見……髪の毛の色で区別する場合もありますよ」

「なんだ。今、髪の毛の話をしていたか?」


ちょうどその時、話し合っていたマルタと支部長のローデンが、二人で階段から降りてきた。


「支部長の話はしていませんよ」


職員が笑顔で答える。


「同じ名前の人を登録するときに、髪の色で分ける場合もあるということを話していたんです」

「そうか」


やはり髪の毛を気にしているのか……と思ったが、ローデンも笑顔で職員に声をかけていた。


本人も承知の上で、コミュニケーションの手段にしているのかもしれない。

からかっても笑顔で流してくれるボスなら、その下で働く者達も気が楽だろう。


「登録が終わったか?」


マルタが話しかけてくる。


「あ、はい。Dランクで登録しました」


ノエルが答える。


「Eランクだと雑用になってしまうみたいで、魔物との戦い方を覚えたいのなら、Dの方がいいと教えてもらえました」

「そうか。なるほどね」


マルタが納得する。

マルタ自身、EとDの仕事内容の違いなども、あまり把握していなかったのだろう。


「Dランクだと、誰か上のランクの人と一緒じゃなきゃいけないんだっけか?」

「はい。そうみたいです」


マルタは考え込む。


「一応、私はBランクのハンター登録は残っているが、自分では引退したつもりだ。ちょっと、どうするかは考えよう」

「はい」


そんなことを話していると、突然、甲高い音が響いてきた。


カン!カン!カン!


街中に届く鋭い音が、ギルドの建物内にいるセイラスの耳を叩く。

近い。おそらく、建物の上にある鐘だろう


「な、なんだ? 今回は何事だ?」


うろたえるローデンの頭から、ハラハラと髪の毛が数本落ちてくる。


あぁ……こうやって減っていくんだな。

セイラスは心の中で納得する。

責任感は強いが、肝は太くないのだろう。


すぐに、見張りをしていたと思われるハンターが、ギルド内へ駆け込んできた。


「魔物の集団が近づいています! 西門側です! 豚型、数はおそらく二十体です!」

「そうか」


ローデンは少し考え込む。


「豚型だと、そのままなにも考えず壁の方まで突っ込んでくる可能性が高いだろう」


先ほどの動揺は表には出さず、ローデンはすぐに指示を出す。


「弓矢が使える人間を二、三人、壁の上に回してやってくれ。あと、門の方にも人を」

「はい!」

「Bランクが五人もいれば十分だろうが、希望者がいれば十人まで。報酬はいつも通りだ」


ローデンは胃の辺りを手で押さえている。

平気な顔をして見せているが、かなりストレスを感じているらしい。


「分かりました。支部長の髪の毛を守るためにも、すぐに片付けてきます」

「俺の髪の毛はいいから、町を守れ!」


ニヤリと笑ったハンターが、「承知しました」と外へ出ていく。


どうやら、髪の毛の話で支部長をいじるのは、この町の定番のようだ。


「魔物が来たのか? 豚型って言っていたな」


戦うのを見てみたい。


セイラスはローデンに声をかける。


「戦いを見学しても大丈夫か?」


ローデンは慎重に考えてから答える。


「そうだな。西門の近くに見張り台がある。そこからの見物ならいいだろう。ただし、戦うのはダメだぞ」

「了解した」

「私もついて行こう」


マルタが口を挟む。


「豚型二十体程度なら、どうということはないだろうが、一応な」


ノエルを伴い、セイラスが出ていこうとすると、マルタもそう言ってついてきた。


話を聞く限り、それほど大きな問題ではないのだろう。


セイラスたちはギルドを出て、西門へ向かった。


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