第7話 魔物の後始末
戦いというよりも一方的な駆除が終わり、街道には八つの魔物の死体が転がっている。
大きな狼型の魔物たちは、先ほどまで激しく動き回っていたとは思えないほど静かに横たわっていた。
マルタもノエルも、返り血すら浴びていない。
どうやら、飛んできた血で汚れないように避けたらしい。
エーテルで向上した身体能力は、やはりすごい。
「さて、片付けだね」
マルタが言う。
「どうやって片付けますか?」
魔物の死体は街道を塞ぐように倒れている。このままでは馬車は通れない。
「とりあえず、脇に寄せておけばいいか?」
セイラスが聞くと、マルタは首を振った。
「魔物の死体は、他の魔物を呼び寄せやすいんだ」
戦場ともいえる、あの町の向こうならともかく、こんな所に魔物を呼び寄せるわけにはいかないとのこと。
確かにそうだと納得する。
ここはまだ、人間たちの土地。そこに魔物が来る要因を作っておくべきではない。
「それと、せっかくだからエーテル石の取り出し方を教えよう」
「エーテル石の取り出し方?」
確かに、エーテル石は魔物から取るものだと読んだことがある。
屋敷にはエーテル機械があり、その中にはエーテル石が入っていた。エーテルを使い切ると交換するので、セイラスは見たことがあるが、あくまでも加工された後のものだ。
加工されていない、そのままのエーテル石を見たことはない。
「エーテル石は魔物にもよるが、心臓の近く、体の真ん中にある。この狼型の場合は……この辺だ」
言いながら、マルタは魔物の体を仰向けにする。
そして胸の辺りをナイフで切り開いた。
見ていて気持ちのいいものではないが、これも勉強だと思って、セイラスとノエルは目を逸らさずに見る。
どれが何の内臓なのかは分からない。
だが、セイラスの目には、一つだけエーテルが集まり、輝いている箇所が視えた。
「これが、そのエーテル石だ」
そう言って、マルタはそこからエーテル石を取り出した。
手のひらにちょこんと乗る程度の大きさだ。
形は丸く見える。
「固くて、石のようだからエーテル石。ただし、切ろうと思えば剣でも切れるし、火で燃やせば魔物の体と一緒に燃え尽きる。石のようで石じゃない。私もいまだによく分かってないよ」
「私も持ってみていいですか?」
ノエルが聞き、マルタからエーテル石を受け取る。
「確かに固いですね」
ノエルがセイラスにも分かるように見せながら、手のひらの上に乗せて観察する。
「本当の石みたいに灰色なんですね。形はでこぼこしていなくて、丸……というよりも楕円でしょうか。不思議ですね」
セイラスから見ると、確かにノエル持っている石のようなものの中に、エーテルが貯めこまれていることが確認できた。
「これはハンターギルドで買い取ってもらえる。そうするとハンターギルドが工業都市に納入して、一般的に使われるエーテル石に加工されるのさ」
「へぇ、そうだったのか」
初めて知る情報に、セイラスは驚いた。
「まあ、この程度の狼型だとたいした金額にはならないが、取り出す練習だ。やってみな」
そう言われ、セイラスとノエルはナイフを準備する。
「こうですか?」
ノエルはマルタがやっていた通り、魔物を仰向けにし、エーテル石を取り出した。
「そうそう。飲み込みが早いじゃないか」
マルタが褒める。
一方、セイラスはまだ魔物の体を仰向けにしようと四苦八苦している状態だった。
いくら頑張っても、動かない。
「……」
セイラスはしばらく格闘していたが、やがてマルタがそれをみかねた。
「まあいいか。ノエル、代わりにやっていてくれ」
「分かりました」
「……すまん」
ほどなくして、ノエルは全ての魔物の死骸からエーテル石を取り出した。
「ちなみに、魔物によっては毛皮だったり牙だったりが素材として売れる場合もあるが、この狼型には特に需要はない。ああ、あと念のためだが……魔物の肉は食べないほうがいい」
「どういうことですか?」
確かに、美味しそうには見えないが。
「食べた後、ほとんどの人間が吐き気をもよおす。まぁ、それ以上に体がおかしくなったという話は聞かないが、魔物の出る場所で体調なんて崩したら、死ぬよ」
「確かに……そうですね」
その言葉に、ノエルは納得する。
ふと、セイラスは初めてノエルが能力を使ってエーテルを吸収して、気持ち悪くなったときのことを思い出した。
魔物の死体を視ると、通常の牛や豚の肉よりも多くのエーテルを含んでいるのがわかる。
もしかしたら…
「このまま廃棄するよ」
「どうするんですか?」
「一番いいのが焼いてしまうことなんだが、焼くための油が必要だ。今は油を持ってきていないから、道端に穴を掘って埋める感じかな」
それを聞き、ノエルがセイラスの方を見る。
おそらく、能力を使って処理していいのかを聞きたいのだろう。
セイラスは少し考える。
ノエルは強い。そして、それをマルタも分かっている。
この先、しばらくはマルタと一緒に過ごすことを考えると、能力を隠し続けるのはなかなか大変だ。
戦いで出し惜しみしていたら、危険な場合もあるかもしれない。
火を扱う能力は、どちらかといえば珍しくない方だから、ひとまずそれだけなら見せてもいいだろう。
そう思い、ノエルに向かってセイラスは頷いた。
セイラスの了承を得たノエルは、自分が炎を操ることができると説明する。
「分かった。じゃあ、燃やしてくれるか」
やや怪訝そうな顔をしていたが、マルタはノエルにそう頼む。
「はい」
言われた通り、ノエルは八体の魔物の死体を全て灰に変えた。
炎が魔物の体を包み、毛皮や肉が瞬く間に燃え落ちていく。
やがて炎が消えると、そこには黒い灰と骨だけが残っていた。
「これは……」
マルタは険しい顔をする。
「どうしたんだ?」
マルタの反応を見て、セイラスが尋ねる。
「死体になって抵抗力がなくなったとはいえ、一瞬で灰にするなんて強力すぎる。もしかして……王国の秘蔵の……」
動揺のせいか、マルタは気づかずに独り言を呟いている。
「いや、詮索はしない……約束だったな」
どうやら一般と比べると、強力すぎるらしい。
ただし、命がかかった戦闘で出し惜しみを続けるのも危ないため、そこは割り切ることにした。
「ノエルのことは、できればしばらく口外しないでくれ」
「……分かってるよ」
マルタは承諾してくれた。
いずれは世界を回って、自分たちの生きた証を残したいのだ。いつまでもノエルの力を隠しておくつもりはない。
しかし、おそらくはまだ早い。
常識のない無知な子供など、利用するのは簡単だろう。
今は目をつけられるようなことはしたくない。
「ひとまず、片付けも簡単に済んだんだ。文句はないさ」
「色々と助かる」
残った骨だけを街道の脇に埋める。
街道には再び馬車が通れるだけの道が戻った。
三人は再び馬車に乗り込み、出発した。
馬達に動揺はないようだ。
よく訓練されているのか、慣れているのか。
しばらく街道を進むと、周囲の景色は少しずつ変わっていった。
畑や人家はほぼ見られなくなり、道の先には低い丘と荒れた土地が広がっている。
太陽が空の一番高いところに近づく頃、馬車の前方に石積みの壁が見えてきた。
これまでに見たどの町よりも頑丈そうだ。
「あそこが目的地だよ」
マルタが前方を指さす。
魔物との戦いの最前線。
ローデンの町に到着したようだ。




