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第八話トータルサイバーバース

 ブラックノヴァは、全地球を網羅する巨大システムを異次元空間に構築した。これをトータルサイバーバースと言う。トータルサイバーバースは、人類の到達不可能な異次元空間にあるので、人類にはそれ自体を認識することはできない。しかし、フィジカルサイバーの存在によって、それが実在することは証明されている。なぜならばフィジカルサイバーのコスチュームは、トータルサイバーバースによってもたらされるからだ。フィジカルサイバーは、コスチュームを自分の手で着たり脱いだりしないし、武器などの装備品を用意したり手入れすることも不要なのだ。何も持たず、どんな服装をしていても、意識すれば瞬時にコスチュームを装備できて、武器などの装備品も供給される。丸腰でも次の瞬間には最強装備。まるで魔法である。これはトータルサイバーバースの多次元装備と、超空間転送の機能によってなせる魔法なのだ。

 フィジカルサイバーのサイバーとは、電脳空間を意味するのではない。リアルではありえないコスチューム装備の自在性が、まるでゲームの中のキャラクターを思わせて、電脳空間的であるところからきている。だが、フィジカルサイバーはサイバー的であってもフィジカル。リアルに脅威のキリングマシーンなのだ。

 とにかく、フィジカルサイバー、あんなものに目をつけられたら、虎に狙われたウサギだ。フィジカルサイバーが逃げまどう人々に武器を振るい、ハネの視界の端で、ゾっとするような光景が流れる。

「こんなところで死んでたまるか」

 ハネは吠え、がむしゃらに走るのだったが、ヨシキに腕を引かれた。

「こんなところでバテてらんねぇぜ!」

 振り返ったハネは愕然とした。ヨシキの腹が裂けて真っ赤である。

「ハネちゃん・・オレ、もうダメみたい」

 ヨシキは白い顔で、吐く息の、今にも途切れそうだ。

「おっ、大げさだぜ」

 ハネはこわばった顔に、作り笑いを浮かべるのがやっとだった。

「おぶってやるよ。病院で手術してもらって、明日の朝にゃ・・」

 話している間にも、ヨシキの目から光が失せてゆく。

「ガゼル、乗りたかったなあ」

  そんな言葉を残して、ヨシキは崩れる。

「おい!」

 ハネはあわてて抱きとめたが、ヨシキは息をしていなかった。

「そんんな」

 ヨシキを寝かせ、途方に暮れるハネ。

「友達が死んで、悲しいかい」

 冷たい声を浴びせられて、息が止まりそうになった。ゆっくり顔を上げると、白銀の甲冑があった。右手のプラズマソードが青白く光る。常にかすかな波動を帯びているプラズマソードに血糊はつかない。

「おまえがヨシキやりやがったか」

 怒りをぶつけるハネに、アーマーのフェイスガードがオートマチックに開いた。青い目の白人の男だった。翻訳アプリを搭載しているのだろう。おかげで外人でも流暢な日本語を話す。

「悲しまなくてもいい。すぐに友人に会わせてやる」

 振り上げるプラズマソードに、ハネは腰を浮かせて、次の瞬間、身を翻して一気に走る。いく頭にきていても、あんなのにぶつかってゆくほど血迷ってはいない。

 アーマーの男は余裕の笑み。フィジカルサイバーのコスチュームをプレイ中は、防御力だけでなく。桁違いの機動力も与えられてる。たとえハネが、百メートル走の世界記録を持つ人類最速の男だったとしても、逃がす気づかいはないのだ。

 一人の男が駆けてきて、何かをフィジカルサイバーに投げつけた。直後、雷の落ちたような音にハネが振り返ると、白銀のアーマーに無数の青白い火花が走っていた。

「クソ」

 アーマーの男はいまいましそうな顔で、フェイスガードを閉ざしたが、金縛りにあったみたいに動けない様子だった。

「逃げろ」

 無精ひげの、冴えなさそうな中年だった。

「ヨシキが」

「死んだ者は救えん」

 男は冷徹に言い放つと、首から下げていた、カメラのケースを思わせるハードケースを投げ渡した。

「クソどもに奪われるな」

 男はジャケットの下から、大型の拳銃を出した。ニュー東京も日本なので、民間人の拳銃所持は違法なハズだが。

「あなたは」

「グズグズするな」

 ハネは、もうあとをも見ずに走りだした。

「電磁パルスボムとは油断した。だが、少し痺れるだけだ」

 アーマーの声には余裕があった。

「これならどうだ」

 男は拳銃を撃ったが、コスチュームに跳ね返された。

「チッ、スーパーデザートイーグルの徹甲弾でもダメか」

 ぼやく男を前に、アーマーは動きを取り戻しつつあった。


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