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第六話フィジカルサイバー

 今のイケブクロは、核攻撃以前の池袋とは地理的にかなりズレている。新しい自治体としてのニュー東京立ち上げのとき、人も資料も不足していて、地名はかなり適当である。キクモリ公園なんかも取ってつけた感じだ。

 公園にはバンを改造した屋台が出ていて、ハネとヨシキはタコ焼きを買った。十個入りで二円三十銭だった。タコは海にいたヤツではなく、畑で採れた大豆原料の人工肉だが、味や食感は本物のタコにかなり近い。ただ、ハネとヨシキは本物のタコを食べたことがないので、人工タコがどれだけ本物に迫っているか認識できない。ちなみに、本物のタコを使ったタコ焼きなら、十個で三百円はする。とてもハネたちの口には入らない高級品だ。なお、二十三世紀の日本の貨幣制度では、円の下に銭があって、百銭が一円で、一円はちょっと良い子どもの御駄賃ぐらいの価値はあり、大卒の初任給が二千円ぐらいだ。

 公園に作られた仮設の舞台でバンドのメンバーが、本番前の練習を始めると、ちらほら聴衆も集まりだした。素人臭さの抜けていない無名のバンドで、壊滅前の東京じゃ見向きもされないイベントだが、ニューとはなっているものの、かつての東京と比べると、何もかもがチープになっているニュー東京である。

「カッコつけてるのけど、演奏はイマイチだぜ」

 ハネの感想であった。

「俺もあんなふうに演奏できたらな」

 ヨシキはタコ焼きを食べながら、憧れの表情。

「バイクだ楽器だと気が多いね」

「ハネちゃんは、バンドやってみたいとか思わない」

「全然」

 ハネは今まで、なにかに情熱情熱を注いだり、青春を賭けたりしたことはなく、あんなだったらいいな、ぐらいの憧れを抱いたことはあるが、それの実現に向けて行動を起こしたりとか、そんな熱量とは無縁に生きてきた。

「!」

 ハネはあたりを見回した。

「どうしたの」

「いや・・」

 妙に、うなじがゾクッとしたのだ。

「くたびたぜ、あっちで休まないか」

 ハネは遠くのベンチを指さした。

「もうすぐ演奏が始まるよ」

 ヨシキはタコ焼きを食べ終えて、演奏が始まるのが待ち切れない様子だった。    舞台の前に観客が集まりだした。ハネは落ち着かないながらも、演奏の始まるのを待った。そして、パンパンと、乾いた音はドラムではない。

「テロだ!」

 銃声がして誰かが叫び、観客が一斉に逃げ出した。

「なんで、そんなものが出て来るんだよ」

 ヨシキは、タコ焼きの容器を叩きつけた。

「腹を立てている場合かよ。逃げるぞ」

 ハネはヨシキの腕をつかんで走りだした。

 本格的に復興を遂げようとしているニュー東京であるが、テロには悩まされ続けていた。いや、ニュー東京だけではない。ブラックノヴァの出現で、世界の政治や軍事、経済の状況が大きく変わる中で、テロ組織も変化して、世界が新しい状況に対応する前に、その脅威は世界中に拡散した。テロは世界中で起こっていて、ニュー東京はその戦場の一つに過ぎない。そして、この時代テロの脅威を増大させているのが、

「サイバーだ」

 誰かが叫ぶ。

 中世ヨーロッパの甲冑を思わせる、銀色のコスチュームが公園に現れた。大昔の遺物? いや、これこそ最新鋭の殺戮装備なのだ。重い鉄の鎧に見えて、カジュアルな服装程度の重量しかない。それでいて強度は鉄の鎧の何十倍。バズーカの直撃にも耐えられるのだ。手にするのはプラズマソード。鉄をも切り裂く切れ味である。この、マンガの中でしかあり得ないような装備は、人類科学の産物ではない。ブラックノヴァのもたらした物だ。この超絶装備をコスチューム。コスチュームに見を固める戦士をフィジカルサイバーと呼ぶ。高い機動力と強固な防御力に、強力な攻撃力と揃ったフィジカルサイバーであるか、これにはさらに驚くべき機能が備わっているのだ。

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