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第一話ハネ

ー二十四世紀って、オレ、なにしてんだろうー

 校舎の屋上でスーパーのおにぎりを食べながら、少年はふと思った。屋上であぐらをかいておにぎりを食うが、そのルックスは悪くない。

ー二十四世紀になってもまだ二十代前半だが、けっこうしょぼくれているかも。オレの頭じゃ大した会社に入れないだろうし、ブラック企業でこき使われて過労死寸前ってか、死んでいるかもー

 暗澹たる未来予想図が、形の良い顔に憂愁をたなびかせる。

 彼は名を黒塚夜羽といった。子どもにヨハネと名付けるぐらいだから、親は熱心なクリスチャンかと思えばさにあらず。現世ご利益の妙なまじないを真に受けるぐらいで、他に大した信仰もない。夜羽という名も、名前もつけずに出生届を出しにいって、役人に新生児の名を聞かれて、その場の思いつきでつけたに過ぎない。もっとも、あのおふくろであれば、サタンとかサンタとかつけなかっただけでも上出来である。

 夜羽は高校三年生。来年は就職か進学だが、未来予想図でも自認していたように、成績は散々なので進学の選択はない。

「ハネちゃん、メシ済んだかい」

 声をかけてきたのはクラスメイトのヨシキだった。顔見知りで夜羽をヨハネと呼ぶ者はいない。ハネが通り名で、担任もハネで済ます。

 屋上では、他にもあちこちで弁当を食べている。下の食堂では給食もあるが、そちらは給食費がかかる。昔は給食がタダなんて時代もあったみたいだが、今じゃ政府もすっかり世知辛くなった。

「なにかようかい」

「五組の井村ミユキって知ってるかい」

「知らんけど」

「父親が弁当工場の課長でさ、ちょっとカワイイぜ」

「・・・」

 その言い方で想像はつく。

「その井村が、ハネちゃんに気があるってさ。付き合ってくれたらシャケ弁くれるってよ」

「おまえにかよ」

「ハネちゃんには、シャケ二切れの特別バージョンだぜ」

「遠慮しとくよ。シャケったって、畑で採れたヤツだろう」

「ハアっ、ハネちゃん、泳いでたシャケ、食ったことあるのかよ」

「いや、ないけど」

 多分一生ない。

「シャケ弁で、気のない女の子とつき合う気分でもないのさ」

「まったく、もったいないぜ。ハネちゃんなら、彼女の一人二人作るのなんて造作もないだろうに」

「一人二人って、二股はイカンだろう」

 ハネはあまり意識してないが、友人たちはハネのルックスをすこぶるイケてると評価している。確かに目鼻立ちは整っているし、身長は百八十ある。ひいき目なしに見ても目もと涼しい長身のイケメンで、両親に感謝なのだが、父親はどこの誰とも知れないので、感謝の伝えようもないのだ。

「ヨシキくんよ、キミ、女の子と付き合ったり、シャケ弁食ったりする以外、何も考えてないの」

「らしくないね。どうしたの」

「いや、俺たちも来年は卒業だろ。なんか、やるせなくなってさ」

「ハネちゃんもウツかよ。なるヤツ多いけど、俺はガゼルにまたがる。それで大願成就さ」

 ヨシキは大の二輪好きだ、免許ないのにあちこちツーリングにいったって話聞かされたし、スマホの写真も見せてもらった。程度の良さそうな不良グループで、ヨシキには合ってそうだった。そしてガゼルは、大手二輪四輪メーカー木田テックの中型電動バイク。四十馬力。最高速度二百二十キロ。フル充電で二千キロ走行可のスグレモノだ。

「俺達が入れるところったら大概ブラック。こき使われる日々だろうけど、ガゼルに乗ったら、どんなストレスでもヘッチャラな気がするんだ」

「ヨシキくんって、意外と考えてるね。だけど買えるの」

「誰にも言うなよ。いま六百円貯まってるんだ」

「すごい。俺なんて、今までで一番持ってたのって四百円だぜ。それだって滞納してた学費おふくろから預かってただけで、学校についたらすぐになくなったけどね。で、ガゼルっていくらするの」

「一万二千円」

「けっこうするね」

「月給取りになったらすぐに貯まるさ。それに免許も取らなきゃだしね。一緒に取りに行かない」

「そうだな、バイクもいいかもな」

 そんな話しをしていたハネの視線が、一人の女子生徒に止まった。

「あんな子いたか」

 黒髪の風に流れるセーラー服の彼女は、中学生にも見える幼気ながらも、際立った美形だった。屋上の手すりにもたれて、街を眺めながらカロリーメイトを食べている。

「四組の紅河サロメだよ」

 ヨシキは答えた。



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