小松先生の長いおしゃべり4
「韜晦と言うのは実に因果なもので」
ふうん。
「君はいつからそんなに装うようになった?」
知らんがな。
少しずつ包囲網を狭められる。
そんな妙な感覚に陥りそうだ。
「私のために」
やめろ。
「私のためにいつも心を傷つけて」
やめろ、千種。
・・・
まるで無言劇のような錯覚がこの場を支配した。
なぜこんなものに包まれる?
「千種ちゃん」
暖かい…と形容できそうな温度の声がした。
玲先生?
「あなた、ほんとに幸平くんが好きなのね」
その一言で肩の力が抜けたのか、千種の眉はへなっと下がった。
「それくらいに生きていいよ」
ダンディーは今の今までと別人になったように優しい声をかける。
ああ。そっか。
俺だって千種がどこか強ばっているのを感じていたのに。
すみません、ダンディー。
だから体に変調を来してたんだな。
「いつか娘が来たらこの町の歴史を第三者からの目で伝えてやってほしいと頼まれててね」
行朝さんのリクエストだったらしい。
「こんなに早くとは思わなかったけど、ね」
おそらくは懐妊とかそんな折を想像していたんだろう、行朝さんは。
たまたま今日来ちゃったんだけど。
「少々練り込みが足りなかったようだ」
もっと迫真の演技されたらビビりますって、ダンディーさん。
「ちょうどアパートだっけ?あそこに二棟建つんだろう?」
ええ、そのようです。
「時代は変わる。君たちは自由に生きればいい」
そして、ダンディーは玲先生に向き直り
「美樹と光太郎をお願いします」
と伝える。
「元に今までしてやれなかったことがわたしのこれからの課題でしょう」
後悔より行動。
「せめてこれからは彼女たちの力になってあげたい」
よろしくお願いします、と玲先生に頭を下げた。この町に来る直前の美樹の苦しみを玲先生は知るのだろうか。売春で糊口をしのぐ、その悔しさを。
「私には良い指導者がいます」
マリーさんのことだろう。
『善き者たちと善き行いを』
小声で俺は呟く。
右腕を抱く千種の力が少し籠もった。
10秒ほどの沈黙は静かな宴の前の祈りに似て、俺たちはまた日常に戻る。
「さて幸平くんと言ったね」
はあ。
「女性にもてない方法を教えようか?」
逆じゃないですか、普通。
「必要ないです」
千種が横入りした。
「あたしは…」
嫉妬してる時が一番人生充実してますから。
ダンディーはもちろん、玲先生も俺も顔を見合わせて只々苦笑するしかなかった。




